日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

数えきれないほどの人たちから愛を受けた、この数ヶ月の振り返り

 

色々と思い立って、周りの方々に感謝すべく、このエントリを書こうと考えた。

 

新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミックが始まって以来、私の職場の病院薬局では、さまざまな善意が舞い込んだ。

これらを、振り返ってみたい。

「新型コロナの収束後、英国の医療現場で起こること」シリーズは、ちょっとおやすみして。

 

1)フリーランチ

病院の周辺地域の住民さんたちの寄付により、病院の全職員へ昼食が無料配給されている。これ、もうこの2−3ヶ月、毎日続いている。まさに、英国版「炊き出し」と言えよう。大好評で、毎日昼の12時前には、食堂前に行列ができる。ロンドンという多民族が暮らす街の文化を反映し、必ず「ミート(肉)」か「ベジ(菜食)」の2種類が用意されている。

この写真のように(⬇︎)、とてもベーシックなものですが、特に週末の当直時などに、とても助かっています。

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ちなみに、メニューは日替わりになっています

 

2)フルーツボックス

南ロンドンにある果物宅配会社から定期的に、このような贈り物が。病院に勤務するスタッフのご家族・親戚や知り合いが経営している、地元ならではのビジネスのようで、そのご好意から。毎度、全病棟・全部署に届く。

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2−3週間おきにこのような箱を頂いている。残業をし、小腹が空いた時などに、有り難いです

 

3)インスタントコーヒー

「Kenco」は、英国のインスタントコーヒーの主要ブランド。日本には進出していないようだけど、英国のスーパーマーケットへ行くと、必ず在庫している。世界的ブランド「ネスカフェ」よりも、ちょっと価格を抑えているためか、英国人には根強い人気を誇る。

私が4月上旬に休暇から帰ってきて(注*)、薬局のオフイスに着いたら、この下の写真(⬇︎)にあるようなコーヒースティックが、山のように積まれていた。

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薬局のスタッフ全員でも消費しきれないほどの大量のインスタントコーヒーが寄付された

びっくりして「これ、どうしたの?」って聞いたら;

「全国の国営医療 (NHS) 病院に寄付しているらしいよ」と。

今回のパンデミックで英国中が混乱状態になり始めた時、このコーヒー会社がどこよりも早く「NHS 職員に支援を」と行動を起こしたと聞き知った。それで国内中で「助け合い」のキャンペーンに火がついたと。

ところで、この上の写真にあるアイスラテ、すごく美味しかったです。これから、自費でも購入したいと思ったほど。デスクワークが主になっていた時だったので、眠気覚ましに、私、これ、多分、薬局スタッフの中で、誰よりも飲んでいたと思う(笑)

英国では、医薬品の広告・宣伝に関して、ものすごい規制がある。通常、MR さんは、病院敷地内に入ることすら許されていない。でも、医薬品以外の製品の宣伝(?)を兼ねたこういった「寄付」は構わないんだと、今回、改めて知った。

注(*):私、英国の「都市封鎖(ロックダウン)」が開始された3月末から4月上旬に、年次休暇を取っていました。その頃の出来事については、こちら(⬇︎)からどうぞ。


4)イースターエッグのチョコレート

英国では、毎年3−4月に「イースター」というキリスト教の復活祭があり、その期間に、卵の形をしたチョコレートの贈り物をしあう。年間のチョコレートの消費・売り上げは、この時期がピーク。バレンタインデーより主流と言えよう。

で、4月中旬のある日、病院上層部から「医療最前者たちへの激励として、世界的製菓会社より、従業員全員にイースターエッグチョコレートがプレゼントされる」と予告があった。

でも、なんと。。。

薬局スタッフへの配給分が、間違って他の部署へ届けられ、食べられてしまったというハプニングが起こった。

届いたものを十分確認をせず、即、自分のものにしてしまうという、英国らしい「事件」(笑)だった。この国、歴史上、他人から何かをぶん取って、財を築いてきたからなあ。。。でも、食べ物の恨みは恐ろしい、というのは世界共通なのだ。

同情してくれた製菓会社さんが、特別に「再配送」して下さった(写真下⬇︎)。イースター後大分経ってからだったのだけど、とりあえず一件落着でホッ。

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イースターの典型的なお菓子。金箔のホイルに包まれた中身は、空洞の卵型チョコレートになっている

ところで、こちらの「M&M's」、元々、戦地の兵士たちのために開発されたチョコレートだったそうですね。それを知り、何だか複雑な気持ちになった。ちょうどその頃、英国内で感染死亡者数がピークを記録しており、色々な意味で、医療従事者が「特攻隊員」のように思えてきた時期だったから。

 

5)トイレタリー製品

英国中がロックダウンされ、それが長期戦になるにつれ、私自身、一番辛かったのが、シャンプーとか歯磨き粉とか、日常生活で本当に必要なものが、思うように買えなくなってしまったことだった。外出が規制されたし、たとえお店へ行っても希望の品が手に入る保証はないという、社会全体でパニック買いが続いた日々だったから。

で、ある日、病院の当直室管理人さんから「とある団体から、病院内で当直業務をしているスタッフ限定のギフトが届くので、取りに来るように」という通達があった。

忙しさにかまけて、すっかり忘れていたら「マイコは、全然取りに来ない!」と管理人さんから怒られながら手渡されたのがこちら(写真下⬇︎)。

なんの変哲もない、でも、かなり重いこの箱を開けてみたら。。。。

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見てください!!!(⬇︎)

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うわーーーー! 買いに行かなきゃと思っていた、歯ブラシが入っている!!

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しかも、おせちの重段のようになっており、下段には歯磨き粉も。助かった。。。。!!!

これらの非常事態時に痒いところに手が届くような品々、「Salute the NHS(『国営医療サービスへ敬礼』の意)」というところからの贈り物だった。それにしても、すごい名称の慈善団体だよねえ。英国には色々なチャリティーがあるんだな。

本当に、ありがとうございました!

 

ちなみに、当直業務と言えば。。。

6)この非常事態中、私の病院内の「当直当番の人が泊まる仮眠室」は、使用料金が無料となった。病院(=国)からの特別基金にて支払いされると。通常は、一晩15ポンド (日本円 2000円程度) ぐらいを給与から天引きされていたはず。

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病院の当直スタッフたちの仮眠室。今回のパンデミックを機に、感染防止のため、誰からともなく皆、脱いだ靴を廊下に置き、土足で入室しないようになった。今まで決して見られなかったこの、日本的家屋に相通じる光景にびっくり!

 

7)英国最大手携帯電話会社の通信費が全無料

英国の携帯電話会社「ee」が、英国国営医療サービス (NHS) 従業員に対し、今年10月までの通信費を、全無料にすると発表した。

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日本ではあり得ない話だと思うが、私の病院では、院内の全電話ネットワークが一気に故障してしまうことが(よく)ある。そんな時に、集中治療室 (ICU) とかで、死に際の患者さんとその家族の方々との連絡が取れないなどという最悪な事態になることもあった。そんな時は、医療スタッフの個人携帯電話で対応していたので、素晴らしい計らいだと思う。

私が契約している携帯電話プロバイダーもここなので、個人的にも嬉しかったです。

 

物品だけではない。

 

8)子供たちからの励ましのメッセージ

こちら、私が勤務する大学病院に隣接する託児所の子供たちが描いたもの。英国では、生活上不可欠の職業に従事している者(例:医療従事者、警察官、消防士、公共交通運転手など)たちの子息に対しては、保育園も学校も、通常通り運営されていました。

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病院の廊下に一つ一つ貼り出されていった、子供たちの絵

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子供は皆、天性の画家ですね

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私の上司も、お子さんが小学校で描いたという絵を、自身の机のある窓に貼っていた。ちなみにこのような「虹」は、今回の新型コロナウイルスのパンデミック下にて、英国で「明日への希望」としての象徴的イメージとなった

 

9)患者さんからの感謝のカード

今回のパンデミックに限らず、これらを読む時、つくづく、この仕事をしていて良かったなと思う。

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英国の国営医療病院では、退院する際に患者さんやそのご家族が「ありがとう」のカードを書き記すことが多い。だから、どの病棟にもこのようなカードが壁一杯に貼られているけれど、今回のパンデミックで、特に個人的なメッセージの詰まったものが多くなったことに気づいた

 

10)We Love the NHS ! 

以前にも、このブログで同様の映像を貼ったけど、このパンデミック中、英国内のいたるところで、毎週木曜日の夕方、医療従事者の健闘を讃える「拍手会」が開かれていた。

英国の国営医療サービス (NHS) が、どんなに国民から愛されているかを、言葉にできないほどの衝撃で目の当たりにした瞬間(とき)だった。

私の病院前での、この拍手会の最終回(5月末)の映像(⬇︎)がこちらです。



 

私自身「新型コロナウイルスが及ぼした影響」との戦いは、これからが本番だと思っている。第2波の恐れもあるし、世界経済恐慌はいずれ確実に起こるだろう。この数ヶ月、ほぼ「無視」してきた通常の医療が再開する頃には、英国の国営医療サービス (NHS) は、また「パンク」状態になること必然だ。身近なことろで言えば、今回を機に、薬剤師の仕事も、大きな変化が求められるはず。

 

でも、このパンデミックがちょっとひと段落してきた今、

 

「あの時受けた恩と、感謝、感動を忘れずに」

 

ということで、自分自身への忘備録として、今回のエントリを記してみた。

 

では、また。