日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

20年の軌跡と奇跡

20年前のちょうど今日、英国へやってきた。

スーツケース一つで。

ヒースロー空港に降り立って、地下鉄を乗り継ぎ、住むことになった学生寮へ、未知の将来へのワクワク感を胸に歩いて向かったこと、今でも、昨日のことのように思い出せる。

でも、まさかこんなに長く、この地に住み続けるとは思わなかったな。

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ロンドン地下鉄ラッセルスクエア駅を出て、渡英一年目に住んだ学生寮へ一本に続く通り。この道を軽やかに歩き、私の英国生活が始まった

 

最初は、異文化の中で、毎日が驚きの連続だった。

 

臨床薬剤師になるべく、駆け抜けてきたけど、

英語が分からなくて、恥ずかしい思いを数え切れないほどしたし、

とんでもない上司と働いて、冷や飯を食べさせられたこともあったし、

もうだめかな、と日本への帰国を考えたこともあった。

 

でも、一つ言えるのは、多くの失敗と困難の中で、いくつかのあり得ない幸運と奇跡にも支えられていたということ。

 

そんな訳で、今回のエントリでは、私の英国へ来てから20年の「軌跡」いや「奇跡」を辿ってみることにする。

 

2000年

東京の病院で5年半働いた後、渡英。ロンドン大学薬学校の臨床薬学・国際薬局実務&政策 修士コース (MSc in Clinical Pharmacy, International Practice & Policy)」に入学。英国の臨床薬剤師たちの世界に魅了された

2001年

ファーマシーテクニシャン経由で、英国の薬剤師になることを決意。でも、大学院の卒業を逃し、資金が底をついたため、一旦帰国。マツモトキヨシで働いたが、10日で自主退社

2002年

アメリカンファーマシーで管理薬剤師として働いた。秋に、英国へ戻り、ロンドン大学薬学校へ復学

2003年

在籍していたロンドン大学薬学校の薬学卒後教育センターの秘書補佐としてアルバイトをしながら卒業。約40の職に応募した悪戦苦闘の就職活動の末、西ロンドンの国営医療 (NHS = National Health Service) 病院のローテーションファーマシーテクニシャンの職を得た

2004年

ファーマシーテクニシャン1年目。医薬品倉庫→調剤室→療養型関連病院の専属テクニシャン業務を廻った

2005年

ファーマシーテクニシャン2年目。地域医療画策・監査室→調剤室で働いた後、病院内で新しく作られることになった、精神科専門シニアファーマシーテクニシャンに抜擢してくれ、昇格

2006年

精神科専門ファーマシーテクニシャンとして、医薬品管理・供給のサービス改善をしたら、その年の雇用組織全体での「最優秀雇用者賞」を受賞

2007年

精神科を極めるべく、英国中部アストン大学で提供されている、英国精神科専門薬剤師の「登竜門」と言われる卒後教育コース課程 (Certificate in Psychiatric Therapeutics) を、史上初の海外薬剤師として履修

2008年

英国永住権取得

2009年

英国薬剤師免許取得の申請を開始

2010年

職場での組織改革の一環で、西ロンドン・ヒースロー空港近くの国営医療 (NHS) 病院へ6ヶ月出向。その任期終了後、6年半勤めたファーマシーテクニシャンの職を辞し、英国海外薬剤師免許変換コース (OSPAP = Overseas Pharmacists' Assessment Programme) に入学

2011年

英国海外薬剤師免許変換コース (OSPAP) 卒業。プレレジ(仮免許薬剤師)研修開始

2012年

英国薬剤師免許取得。でも、この年、英国の薬剤師市場は空前の就職難となり、実務薬剤師としての職は得れず、英国王立薬学協会出版部 BNF (British National Formulary = 英国国家医薬品集) 編集チームのインターンとなった。ロンドン市内の日系医療クリニックでのアルバイトも掛け持ちしながら、就職活動を続行

2013年

プレレジ(仮免許薬剤師)研修時の訓練先の一つであった北西ロンドンの国営医療 (NHS) 急性病院にて、バンク (=臨時準局員) 薬剤師として働き始めた。そして、この年の終わりに、ついに約100倍の競争倍率を突破し、南ロンドンの国営医療 (NHS) 大学病院の新卒臨床ローテーション薬剤師の職に採用された。

2014年

臨床ローテーション薬剤師1年目。調剤室→特別需要病棟→脳卒中センター→外科→医薬品製造の部署で働いた

2015年

臨床ローテーション薬剤師2年目。医薬品情報室→呼吸器系病棟→HIV薬供給・臨床治験業務→産婦人科・小児科→高齢者病棟→腎臓病センター→外科入院(トリアージ)病棟

2016年

臨床ローテーション薬剤師3年目。整形外科センター→消化器系内科・内分泌系専門病棟→内科入院(トリアージ)病棟。その後「CQUIN (Commissioning for Quality and Innovation の略) 」と呼ばれる英国の国家医療サービス改善プロジェクトの、昨今の課題の一つである「患者さんが退院する際の『病院→薬局』の薬剤情報申し送り」の南ロンドン地区での試行に、主任薬剤師として関わった

2017年

「CQUIN」プロジェクトの任期が終了する頃に、ちょうど勤務先病院内で空席になった「感染症専門薬剤師」の職に応募、合格。シニア臨床薬剤師として一般外科病棟と一般内科病棟を6ヶ月交代しながら、病院内全体の抗生物質治療の適正使用を推進する仕事を始める

2018年

このブログ「日英薬剤師日記」がスタート(笑)

2019年

感染症専門薬剤師としての傍ら、一般内科病棟の専属シニア臨床薬剤師として働く

2020年

新型コロナウイルスのパンデミックで大幅に延期されていたが、今月、長年の目標であった「ICU (集中治療室)」の実地訓練を受けた。自身の臨床薬剤師としての将来の可能性がより広がる、大好きな分野だと確信した

 

次の20年もさらに学び続け、進化し続ける薬剤師でありたいです。

 

では、また。

 

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数日前、担当病棟の窓をふと見上げると、今まで見たことないほど美しい虹がかかっていた。次の20年も、全力で生きることを誓った。ちなみに余談であるが、私の現在の勤務先の病院、1930年代に開院以来の建物をずっと使用している。だから、外見は見ての通り、ボロボロ(笑)

 

 中断した「イギリスで免許を変換し、薬剤師になる方法」シリーズは、次回、再開します。

「似て非なる道もアリ」「今すぐできる準備」といった質問の答えを網羅する予定です。