日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

日本人薬学・薬局関係者の英国視察に関する考察、いろいろ

先週は、とある日本の薬局コンサルタント会社が企画している英国医療・薬局視察に、コーディネーター兼通訳として、随行していた。

こちらの団体、かれこれ5年ほど連続で、英国へいらしている。

参加者の方々は、皆、とても温かい人たち。そして、すごく勉強熱心。どんな見学先でも、真剣に質問され、白熱したディスカッションとなる。

毎年編纂されている、こちらの研修・視察に参加された方のレポートは、これ将来「英国薬局事情」として、書籍化したらいいんじゃないの? と思えるほどのクオリティ。

初回から継続して参加されている方もおられる。だから、そのような方々のためにも、毎回、何かしら新しい発見があるように、私は、毎年必ず、最低1つは新しい視察先を提案し、見学の交渉とその訪問を手配をする。

社員を2−3人引き連れて参加される薬局経営者の方々もいらっしゃる。会社の成長をきちんと長期的に見据えていらっしゃる様子が垣間見られ、頼もしい。

今回は、お父様(→奇しくも、私が日本で卒業した薬科大学での、わずか数年上の先輩にあたる方でした)と、現在、現役の薬学生の息子さんというペアもいらっしゃった。ご子息に日本の大学の授業を休ませても、外国の医療・薬局事情を見せたいという、お父様の先見性にあっぱれ。

日本以外の国の医療・薬局事情を、現地に行き、自分の眼で見てみる、というのは、とても貴重な経験だと、私、誰より理解しているつもり。私自身、英国を初めて一人旅した時、国営医療病院 (NHS) 薬局を訪ね、その後の人生の指針を得たのだから。

私、今からちょうど20年前、ロンドンへ観光者として来た時に、こちらの過去のエントリ(⬇︎)でも書いた病院の薬局を、個人的に見学させてもらいました。その縁で、それから数年後渡英し、入学した薬科大学院での病院実習も、ここに配属になったのだと思う。運とかきっかけって、本当にどこに転がっているか、分からない。

 

だから私は、英国の薬局業界で働くようになって以来、「英国の医療・薬局施設を視察・見学したいので、その手配とコーディネートをお願いします」と連絡を下さる日本人の方々と、折々の機会に接してきた。

依頼先は、官庁、大使館関係、外郭団体、医療研究機関、薬学会・薬剤師協会、製薬会社、医薬品問屋、大学教員、現役の薬科大学生さんなどと、さまざま。

そして、各依頼人のご意向やご希望に合わせて、有意義な視察となり得る見学先の手配のお手伝いを、できる範囲で行ってきた。ちなみに、今回の方々向けに準備した訪問先は、以下の通り(写真下)。

 

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National Pharmacy Association (通称 NPA)。英国の個人経営薬局組合。薬局開局に際してのアドバイスや、薬局備品購入の斡旋、薬局業務全般の教育の普及や研修・訓練コースの開催、調剤・レセプト業務コンピューターのITサポート、薬局・薬剤師免責保険など、多角なサービスを提供している組織。こちら、日本人の薬局・薬業団体が訪れるのは初めてだったらしく、畏れ入るような熱烈さで歓迎して下さった。訪問は、日英薬局関係者間の外交会議のような雰囲気の中、大成功にて終了。私自身、日英薬剤師として、このような手配ができて、本当に良かったと思えた瞬間でした

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英国を代表する大手チェーン薬局「Boots (ブーツ)」

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「Boots (ブーツ)」店内の様子

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ロンドンの3大ホメオパシー薬局の1つの「Nelsons」。こちらの薬局の見学は、私の友人とそのまた友人の尽力により可能となった。このような機会に、奔走して下さる在英日本人薬局勤務者の方々には、いつも、本当に、感謝です

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英国王立薬学協会の創始者が開局した、歴史ある薬局「John Bell & Croyden」。ロンドンの著名医師がプライベート医療クリニックを連ねるエリアに所在。英国王室御用達の高級志向薬局として知られている

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英国のモデル個人薬局「Green Light Pharmacy」。ロンドン大学薬学校の実習薬局にも指定されており、その教育訓練の高さと、ユニークな経営方針で、英国薬局業界ではよく知られた、先駆的な薬局

 

でも、これ、見かけより、ずっと大変な仕事。もちろん、その過程で、普通であればお目にかかれないような日英医療・薬学関係者の方々との素晴らしい出会いがあるのだけど、一方で、トラブルになったケースも多い。

以下、ほんの数例なのですが、過去に私が経験した「残念な事例」を挙げてみます(注:諸事情により、内容をぼかしている部分もあります。ご了承下さい)

<ケース1>

「ある日突然」私の当時の職場であった病院薬局の窓口へ、20人ほどの日本人薬学関係者が押し寄せたことがある。

もちろん、私は、この訪問を全く知らされておらず、そこにおられた日本人薬学関係者を誰一人として存じ上げていなかった。でも、職場の同僚たちには「日本人でしょ」ということで、私が(勝手に)招いたように誤解された。そして、これまた「日本人でしょ」ということで、この日本人薬学関係者たちの通訳も、私がその場で急遽、やらされることになった。

ものめずらしさから、写真を撮りたい日本人薬学関係者が薬局内へなだれ込み、調剤室で、記者会見場のような無数のフラッシュがたかれた。ひと段落すると、こちらの団体さんの皆様が口々に「で、病棟は見せてもらえないんですか???」。

お気持ちは、十分解ります。でも、近年、特に、英国国営病院内の病棟は、患者個人機密厳守や、幼児・ご高齢者虐待防止などの点から、見学が厳しく制限されています。正式な手続きで見学をしようとすると、外部者の場合、数ヶ月前から、英国刑事記録局へ申し込み、国際的にも犯罪歴がないか、といったチェックをクリアした人、そして、事前に、病院の広報課などの許可を得た方々のみに限定されます。特にロンドン市内の病院は、テロ防止などの安全面の点からも、現在は、一般的な病院見学ですら、ほとんど実現不可となっているのが実情です。

で、話を戻して。。。 この突然の訪問にも、表面上、にこやかに対応してくださっていた薬局長からは、こちらの団体さんがお帰りになった後で、部屋へ呼ばれ、「こういうことは、これからないようにしてね」と、硬く注意を受けました。涙が止まらなかったな。

でもね、これで終わりではなかったのよ。

翌年も、全く同じ団体が、(また)断りなしにやって来て、そして(また)、全く同じ事が繰り返されたの。しかも、この時は、私の専門・業務外のことについて矢継ぎ早に質問を浴びせられ、うまく答えられずにいたら、その最中に、私の非を公然と批判された。突然の再訪問の挙句、私を(また)無給の都合の良い通訳として使い、その挙句の無礼な出来事のことは、10年以上経った今でも、忘れることができないトラウマとなっています。

<ケース2>

とある大学の先生方から、3月中旬に連絡が来て、「来週、英国の医療施設の見学に行きますので、どこか見学先を紹介して下さい」とのこと。

「来英が1週間先と差し迫っていては、どこの見学先も確約できないと思います」とお答えすると、「そこを何とか」。常識的に考えて、他の医療・薬学機関への視察依頼は到底無理であり、その当時の自分の勤務先病院の広報担当の方へ連絡し、無理をお願いし、見学可能の許可を得た。その条件の1つが、患者情報機密の点から「病院の写真撮影不可」だった。そのため、先方様へは「写真撮影はできませんが、それでも良ければ」と念を押した。

それなのに、こちらの先生方、当日、病院へ着いた途端に、病院玄関口でパシャパシャと『はい笑って〜、チ〜ズ!』の号令のかかった記念撮影。多くの患者さんが出入りする場所であったため、警備員が駆けつけ、私がその釈明と「始末書」にサインしなければならなかった。

こちらの先生方の目的、恐らく、「年度末の研究予算を使い切らなればならない、観光と休暇が主の視察旅行」だったのでしょう。私のその当時の勤務先の病院しか、訪問しなかった(できなかった)ようで、帰国後の報告書に添付する「英国の医療施設を視察した証拠写真」を、是が非でも欲しかったのだと思う。

この事例のオチは、この訪問に関して、こちらの大学の先生方から、謝罪も謝礼も、一切なかったことです。

<ケース3>

日本国内で、医療を、日⇄英の比較から先進的に分析できる方として、著名な方。その方と共同研究者のご友人が「英国の家庭医院内を、直接見学してみたい」とのことだったので、色々なつてを頼り手配し、実現にこぎつけた。でも、当日、時間になっても現れず、要するに「すっぽかされた」の。私以外にも、色々な方々へ、視察手配依頼のお声をかけていたようで、ダブルブッキングされた挙句「より魅力的な見学先」へ行かれた様子(→英国の医療・薬局業界は、とても狭いので、横の繋がりで、こういった話は必ず流れてきます)。その後、その方からは、当日都合が悪くなった理由の説明は、一切なし。私の方としては、そのために取った有給休暇も無駄になり、この手配を手伝って下さった、英国薬剤師の恩師の一人とは、この件以来、とても気まずい関係となり、事実上、疎遠になってしまった。英国薬剤師の世界は、信じられないほど狭いので、こういう事態は、最も避けたいことなのです。。。。(号泣)

 

それからね、このような「日本人薬学・薬局関係者の英国医療・薬局視察」に関しては、謝礼の件で、特に問題が起こりやすい。

大きな薬学団体の、比較的長期間の英国視察であれば、とても私一人だけでは、全旅程をご案内できない。私の友人・知人にも、見学先の手配と随行、参加をお願いすることが殆ど。英国に在住しているロンドンとその近郊の日英薬剤師って、本当に人数が限られているので、事実上、その方々たちと総出で行うこともある。

例えば、病院の見学の場合は、そこに勤務する日本人薬剤師にご案内していただくのが一番良いと思うし、専門的な薬局をご案内するのであれば、その分野に精通している方に対応して頂くのが、より、現地のナマの声をお伝えできる。だから、友人・知人にご尽力頂くのが不可欠となる。

その場合、私はさておき、友人・知人の時間が拘束されておきながら(大抵の場合、皆様、有給を取ったり、休日を返上して、参加して下さっています)、それに見合う謝礼がない、また、支払いの遅延というのは、とても残念に思う。私自身の信用も失われてしまうので、本当に、ご勘弁して頂きたいところです。

  

そんなこんなのトラブルが続き、「もう、こういう思いをするのは金輪際ごめんだ」と、私自身、このような日本人薬学・薬局関係者の英国医療視察に関する手配を、全く引き受けなかった時期が、数年あった。

そんな中、かれこれ5年前ご連絡を頂いたのが、冒頭の薬局コンサルタント会社さん。

なぜ、数年のブランクの後、お引き受けしたのかって?

 

その熱意に、「参りました」(笑)

 

最初に、仲介人(=私の日本でのマネージャーさんです。笑)から、「主催者の方、とてもお若い方なので、色々あるかもしれませんが、ご尽力して下さいませんか?」といった具合で、お話が入った。

その時ふと、私だって「若くてものすごく生意気な薬剤師」だった頃があったのだから、そんな世代の方と仕事をしてみるのもいいかもな、と思ったの。「今まで未知であったクライアントさんと、先入観なく、何かを一から作り上げるのをお手伝いするの、楽しいかも」という直感もあった。

それから、全く面識のなかったこの薬局コンサルタント会社の「若き専務さん」と、メールにて、企画のやりとりが始まった。

で、驚かされたことが色々あった。

何と言っても、熱意があって、一所懸命だった。そして、返答とか、物事に対する対応が、超迅速。ご自分の希望を伝えるのも上手だし、こちらが無理ですと申し上げたことにも納得され、全面信用して下さった。その交渉と調整具合のバランスが、素晴らしかった。初年度は、準備段階で、互いに約80通のメールを送り合い、この「手作り」英国薬局視察研修旅行が完成した。

それから、この方、毎年起こる「思わぬ予期せぬこと」にも、動じない。

例えば、英国の薬局視察・見学は、約6ヶ月ー1年前から準備し、確約を頂いていても、実際の訪問予定日の数日前に、先方様から一方的な「キャンセル」の連絡が来ることも(よく)ある。

私なんかは、そんな時、青ざめ、パニック状態になってしまうのだけど、この人の「落ち着き払った堂々さ」に何度救われたか、分からない。

そして、毎年、8−9時間の時差がある日本から長旅でやってきても、誰よりも元気に、大勢の参加者を引率している。この視察・研修の最後に通常行う総括ディスカッションの際なども、「この台本、どこから来ているのかな」と思えるほどスラスラとした司会で、場を大いに盛り上げる。 

そして、類は友を呼ぶ、って、よく言ったもんだ。この方の周りには、本当に良いエネルギーに満ち溢れた仲間の方々がたくさんいらっしゃる。

 

この薬局コンサルト会社さんの英国薬局視察研修のお手伝いをさせて頂き、私自身、再確認したことがある;

 

「知名度とか、肩書きじゃない。『人間的にいい人』と仕事をするのが、大切」

 

ということ。私、日英の様々な医療機関・大学・薬局・出版業界の方々と仕事してきたから、これ、本当に真実だって、言い切れる。

 

それからこちらの団体の英国視察に関しては、日本の旅行会社からの添乗員も、現地の添乗員さんも、初年度からずーっと同じ方々が担当している。今や、この英国医療・薬局視察に関わる全ての人たちに、一年に一度お会いできる事は、私にとって、遠い親戚のような人たちに久しぶりに会うのが楽しみ、といった想い。 

そんなこんなで、この視察・見学先の手配と随行を5年続けてきた。

でも、この企画、永遠に続くものではないと思っている。関わっている方々のご都合や、参加者のニーズや成長に合わせ、いずれ、皆で「卒業」という日を迎えることもあるだろう。この世に永久なものはなく、毎年新しいものを取り入れているとはいえ、一定のことをずっと続けるのは美しくない、とも思っている。

ただ、この英国薬局視察見学が、何らかのご縁で参加された日本の薬局・医療関係者に、数十年経った後でも、少しでも有益で、楽しかった記憶に残って下さっていたら幸いだなあ、と思っている。

 

という訳で、先週は、日本の熱意ある薬局関係者の方々と、とても有意義かつ楽しい時を過ごさせて頂いた。でも一方で、通訳・コーディネーター役であった私は、常に緊張しっぱなしだったので(私、小心者だからなあ。。。笑)、私自身で撮影した、その楽しかった時を残した写真が(全く)手元にない。 

という訳で、今回の「舞台裏」の写真を公開。

こちら(⬇︎)、ロンドン某所のカフェにて、数週間前に撮った写真。毎年、この視察研修旅行が無事成功するように、ご協力頂く日英薬剤師の友人・知人と共に、事前に各見学先の下見をし、時間配分、内容などの打ち合わせをする。

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このような機会にご協力して下さる友人・知人には、いつも、感謝の言葉が見つからない。ありがとう!

それから今回の視察は、National Pharmacy Association という薬局団体の訪問をハイライトとして手配したが、こちら、ロンドン近郊のハートフォード州セント・オールバンスという街に所在していた。私自身、見知らぬ場所であったため、万が一の場合に備えて、列車での行き方も確認しつつ、地理を把握するという予行練習を行った。こちら、古代ローマ時代から存在した街の1つとのことで、そのような雰囲気がそこかしこに感じられた(写真下)。

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セント・オールバンスの街を訪れた週末、そこではちょうど、第一次世界大戦終戦100周年の式典が行われていた

それからね、日本の参加者の方々からは、色々なものを頂いた(写真下⬇︎ こちら、ほんの一部だけど。。。)。日本人薬局関係者にお会いすることは、私にとっても、現在の日本の薬局事情を知る、またとない貴重な時。そんな機会に、感謝。

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こちらの右側に写っているもの、日本で一包化の薬の飲み忘れを防ぐために使用する整理箱なんだそうですね。この組み立て式の工作が楽しくて、作っては壊し、また作って楽しみました(笑)

 

今回の英国薬局視察研修に参加された皆さまの、これからのますますのご活躍を祈念しております。

 

では、また。 

 

<追記>

現在、私は、こちらの薬局コンサルタント会社さんと、独占・専属で英国の薬局・医療視察手配のお手伝いをしている訳ではありません。

今回のエントリで数例挙げたような不愉快な事が起こらないようお約束して下さるのであれば、どなたの英国医療・薬局視察も、できる範囲内で、お手伝いさせて頂きます。ご縁と、私の日英薬剤師の友人・知人などのご都合次第となりますが、新しい方々との出会いも、楽しみにしております。