日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

英国卒後薬学教育センター (CPPE) の勉強会へ行ってきた

 

先週の木曜日の夜は、ここ(写真⬇︎)へ出かけてきた。

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北ロンドン・英国国営医療 (NHS) ウィッティングトン病院 (The Whitting Hospital)

英国卒後薬学教育センター (Centre for Postgraduate Pharmacy Education, 通称CPPE) が催している勉強会へ出席するため。

 

英国では、日本でよくある「製薬企業主催の勉強会」というものが(ほぼ)ない。薬剤師は、利害関係のあるところから金品を受け取ってはならない、という規則が厳重化されているからね。

で、英国薬学卒後教育センター (CPPE) は、英国保健省を財源元として(=つまりは、国民の税金で)運営されている。英国北部のマンチェスター大学に本部が置かれていて、英国の薬剤師、もしくはファーマシーテクニシャンとして免許登録されている人であれば、この教育センターのウェブサイト(⬇︎)の無数の学習教材に、全て無料でアクセスできる

https://www.cppe.ac.uk/

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英国卒後薬学教育センター (CPPE) のウェブサイト

 

自己学習教材のみならず、特定のトピックに関しては、実践的な勉強会も開かれている(例⬇︎)。

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英国薬剤師として登録されていると、メールで定期的に、このような勉強会のお知らせがやってくる

 

でも、私、英国で薬剤師になって7年目なのだけど、実はこの「英国卒後薬学教育センター (CPPE) の勉強会」へ出席したことが、今まで、一度もなかった。

それで、今回、色々な理由から、行ってみることにしたの。

 

という訳で、このエントリは、この勉強会へ参加したことのレポート。ふと行ってみることにした理由を含めて。

 

理由(1)来年の薬剤師免許更新の準備

英国の薬剤師免許は、毎年の更新制になっている。更新の際に、過去一年で、自身が行なった継続的職能向上 (Continuing Professional Development, 通称 CPD) の学習記録の提出が4つ求められる。そこには「さまざまな教育内容・訓練手法に富むようにすること」とある。要するに、机の上で薬学卒後教育ジャーナル雑誌を読みました、といった類のもの(だけ)ではダメ。

で、上記の通り、「英国卒後薬学教育センター (CPPE) 」は英国薬剤師の統一卒後教育機関の代表。そこの勉強会に出席すれば、絶対に、来年の免許更新時の提出物の一つが保証されると考えた。

英国薬剤師の免許更新制度の最新ついては、こちらのエントリ(⬇︎)からもどうぞ


 理由(2)トピックが自分の専門分野に関連するものだった

講義内容が「抗生物質適正処方」についてのワークショップだった。しかも、英国では、毎年11月の中旬に「抗生物質啓発週間」と称し、国家キャンペーンを行なっている。

自分の仕事にじかに結びつくものであり、かつ時期的に、とても旬なものだったので、是非行ってみようという気になった。

去年の「抗生物質啓発週間」については、こちら(⬇︎)からどうぞ


 理由(3)会場が思い出深い場所であった

今回、この勉強会が開催された、北ロンドンの「ウィッティングトン病院」、私が、今から16年前、ファーマシーテクニシャンの職を探している際、面接試験で不合格になった病院。そんな、昔「片想い」であった病院を久しぶりに訪れてみるの、面白いかもと思った。

私が英国でファーマシーテクニシャンの職を探していた頃の話は、こちら(⬇︎)からどうぞ。現在、不定期で連載しています。


こちらの病院、医療教育訓練全般に定評がある。それ故、たくさんのセミナールームや実習室が完備された専用ビルが、病院敷地内にある(写真⬇︎)。英国卒後薬学教育センター (CPPE) のロンドン支部の勉強会も、この場所を借りて催されているものが多い。

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北ロンドンのウィッティングトン病院に隣接する医療教育センター

 

理由(4)講師が知り合いだった

今回の勉強会の講師、実は数年来の知り合いだった。サイモン・ハリス氏といい、ロンドン市内で展開する中規模薬局チェーン「グリーンライトファーマシー」の教育訓練専門薬剤師(写真下⬇︎)。彼は本業以外に、ロンドン大学ユニバーシティカレッジロンドン (UCL) 薬学校の講師もしており、英国卒後薬学教育センター (CPPE) ロンドン支部の教育訓練コーディネーターとして、このような「勉強会」の教鞭にも立っている。

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サイモンさんが勤務する薬局は、ロンドンでも立地の良い場所に所在しており、薬局の経営方針や店内レイアウト、提供されているサービスが、ずば抜けて素晴らしい。私の目から見ても、英国のコミュニティー薬局のショールーム的な存在。そのため、日本人薬剤師や薬局・薬学団体も、以前からかなりの数、彼の元を訪れている。だから、サイモンさんは、日本人薬剤師の中でも、知る人ぞ知る英国薬剤師なんじゃないかな。

日本人薬局・薬学団体の英国薬局訪問の一例は、こちら(⬇︎)からどうぞ

 

で、今回、私が、突然、この勉強会の「生徒」として会場に現れたら、サイモンさん、すごく照れていた。「麻衣子こそ、感染症専門薬剤師なんだから、今日、ボクの代わりにこの講義をしてもらった方がいいんじゃない?」なんて言ってね(笑)。ホントにいい人。

でも、講義内容のみならず、同世代の著名な英国薬学教育訓練専門薬剤師が、どのように生徒に対し教えているのか、ということも学びたかった。私も、現在の役職では、大学生、新卒・仮登録薬剤師たちに対しては病棟実習を提供し、感染症・抗生物質適正使用理論については、同僚や、自分よりランクの上の薬剤師、研修医たちへも講義する立場。だから、より良い「薬学教授技術」を今回、何かしら学べないかな? と。

英国の薬剤師は、誰もが生徒になり、先生にもなって、互いに学び合っている。そして、同業者同士で互いの仕事を評価しあうことを「Peer Review」と言って、大切にする風潮がある。

 

そんなこんなで、今回、初めてこの「英国卒後薬学教育センター (CPPE) の勉強会」へ出席してみました。

で、総括的な感想はというとですね。。。

 

とても有意義な時間になりました。

 

さまざまな薬局分野(病院・コミュニティー薬局・家庭医院・介護施設)に勤務する、経験もそれぞれ異なる者たち(感染症専門薬剤師、病院臨床ローテーション薬剤師、コミュニティー薬局薬剤師、介護施設勤務薬剤師、仮免許研修薬剤師)が、20名ほど来ていました。

夜7時半開始ー9時半終了の勉強会に、仕事が終わってから来るのですから、おのずと勉強熱心な人たちが集まっていた訳です。

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講義を熱心に聞き入る参加者たち

 

英国保健省が発行している「抗生物質適正使用の各医療機関での比較サーベイランス」を分析してみたり、

「アレルギーと副作用の定義の違いとは何か。抗生物質の使用に関しては、どう対応していくか?」といった基本的なおさらいとか、

症例ケーススタディの中で、蜂巣炎の抗生物質治療の国家ガイドラインの概要を学習したり、

グループディスカッションの中では、普段の自分の業務が、異なるセクターではこんなふうに行われているんだ! という発見に満ちた情報交換とか

言わずもがな、異業者薬剤師同士たちのネットワークの場でした。

 

私は、元来、人見知りが激しく、人前に出るのが苦手。でも今回の勉強会では、参加者たちからは事あるごとに「国営医療 (NHS) 大学病院の感染症専門薬剤師なんでしょ!」と言われ、小グループに分けての問題解決学習やディスカッションの中で、皆の意見をまとめ、講師に対し、代表回答をするというような役割もやらされることになりました。そういった、普段はやらないことの「場を踏む」訓練ができたことも良かったです。

それから、この日、何よりびっくりしたのは、私以外に、日本人の薬剤師さんがもう一人いらしていたこと。最近ロンドンに転居してきたと仰っており、2009年に免許を取得された、私より長く、英国で薬剤師をされている女性の方でした。

ロンドンならびにその近郊に在住する、英国薬剤師免許を有する日本人薬剤師の数は少なく(恐らく6−7名?)、私自身、そのほぼ全員と知り合いになっていると思い込んでいる節がありました。探せば、実はもっといらっしゃるのかな? と何だかわくわくした晩になりました。

 

私、毎日、自分の仕事の就業時間後は、薬局内のオフィスに残り、翌日の回診の準備をとことん行います。担当患者さん一人一人のよりよい薬剤治療を、検査データを徹底的に分析し、個々のバックグラウンドも考慮しながら、何時間も、あーでもない、こーでもない、と独りひたすら熟考しているのです。そして、そこで自分に必要な知識・技術のギャップを埋めるため、真夜中までコツコツと勉強しています。だから、これといった趣味もないし、出不精だし、人付き合いも悪い。要するに、すっごく退屈な人(笑)

でも今回、時にはこんな勉強会に出席して、「がんじがらめの臨床薬剤師生活」のリズムを崩してみるのも悪くないなあと、思った次第でした。

 

この勉強会終了後、夜間の病院内を、ちょっとだけ散歩してみました。

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夜間のひと気のない病院

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静まり返っている病院内の廊下

 

そうそう、先ほど、私、自分のことを「趣味のない人」と表現しましたが、あえて言えば「病院・薬局巡り」が趣味でーす!(つくづく、オタクだな。私。。。笑)

 

それでは、また。

 

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極めて個人的な写真ですが、こちら、現在、このブログで不定期連載している「英国でファーマシーテクニシャンの職を得た時の話」第5話(リンク⬆︎)でも書いた、私が、こちらの病院での就職面接試験後に「5円玉を埋めた木」です。まだ、そのまま埋まっているはず(笑)。昔の記憶が鮮やかに蘇えった夜でした