日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

感染症専門薬剤師「パメラさん」の退職

 

先週の金曜日は、悲しい日だった。

約4年間、苦楽を共にした同僚の「パメラさん」(写真下⬇︎)が退職したから。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210321001244j:plain

パメラさんと私。長年の同僚であったものの、互いに別々の病院で働いていたため、2人一緒の写真がほとんどないことに気づいた。数日前に撮影

私は現在、英国・南ロンドン郊外に所在する病院で、感染症専門臨床薬剤師として働いている。

英国の国営医療 (NHS) 病院は通常、近場の2−3ヶ所の病院が連合して、一傘下として運営されている。私が勤務する病院群は、主に南ロンドンの大学病院と、ロンドンに隣接するサリー州境の一般病院の2ヶ所で運営されている。

私の仕事は、パメラさんとペアで、互いの直属の上司である感染症主任薬剤師ドナさんの元、この2病院を6ヶ月毎に交代する職務にあった。

ドナさんとパメラさんについては、以前、こちらのエントリ(⬇︎)でも紹介しています

 

という訳で、パメラさんは、私の「相棒」とも言うべき人だった。英語で、こういった同僚のことを慣用的に 'the other half' という。「片割れ」とか「分身」といった意味合い。

実際には、パメラさんの方がこの仕事を1−2年ほど早くに始めていたから、「ちょっと上の先輩」だった。パメラさんが着任した当時 (2015年秋)、私はまだこの病院の駆け出し臨床薬剤師として働いていた。外科トリアージ病棟のローテーションで、初日の彼女に早速、術後の抗生物質使用についての助言を求めたことを、よく覚えている。

 

仕事の性質上、私とパメラさんは(物理的に)滅多に顔を合わせることがなかったのだけど、職務中、いつも電話で連絡を取り合っていたし、私は、パメラさんが大好きだった。

特にその、何事にも「かまへんわ」的性格が(爆笑)。

多くの同僚が「パメラとマイコはまるで正反対の性格。仕事に対するアプローチも『全く』異なる」と言っていた。

その意味、ずばり;

パメラさんは「おおらか・大雑把」、マイコは「完璧主義・偏執狂」。その根本にあるのは、ガーナ人と日本人の国民性の違いだったでしょうか。。。?(爆笑)。

でもね、「ウマ」は抜群に合った。

 

パメラさんは、ロンドン近郊のエセックス州で新卒薬剤師としてある程度の年数働いてから、この病院に中途入局してきた。私は新卒薬剤師からずっと同じ病院で働き、昇格を繰り返している生え抜き。その点でも対照的だった。

パメラさんが入局する以前、この病院の感染症専門薬剤師の職は、わずか1−2年の間に4−5名が入局しては去っていった。仕事内容が期待はずれだったと感じた人もいたし、チームメンバー間での衝突もあったようだし、夫の転職に伴う転居、そして、祖国へ帰る決心をしたなど、色々な理由から人が来ては去っていった。

でも、パメラさんが入局し、そしてその1年後、私が加わって以来、メンバーはここ4年間、不動だったのだ。ある意味、ドリームチームであったのだろう。

 

でも、2年前、パメラさんがお子さんを出産してから(ちょっと)風向きが変わってきた。

子育てと仕事の両立から、パメラさんは時短で働くことを希望。交渉の末、週4日の勤務になったものの、自他共、色々と支障が出てきたのが明らかだった。

やはり臨床薬剤師は、日々、現場の最前線にいないと「腕」は確実に落ちてくる。

そして、ワークライフバランスを保つ働き方は、日本に比べて遥かに優遇されている英国ではあるけれど、やはり女性の場合、出産後、急性病院の臨床薬剤師の第一線からは退く人が多い(この「英国の女性薬剤師のキャリアパス」については、また後々、このブログで綴ってみたいテーマの一つ)。

職務経験年数からいけば、長いことパメラさんが、上司ドナさんに続く「2番手」であった。でも、パメラさんの産休育児休暇中、感染症専門分野での実地経験を積み、地獄のような病棟の臨床薬剤師としても生き残り、フルタイムで働け、残業、夜間・週末当直も厭わない私は、薬局内で「感染症主任薬剤師の後継者」という見方になっていった。パメラさんと私の立場は、逆転しつつあったのだ。

パメラさんの出産・育児休暇中、彼女に代わり、約2年間ジャングルのような病棟で働いていた時のことは、過去のこちら(⬇︎)のエントリもどうぞ

でも、パメラさんには、私に対するライバル意識といったものがみじんもなかった。英国の臨床薬剤師たちの間では、時に醜い競争もあるから、パメラさんと共に長年働けたことは、本当に感謝だった。前述の通り、心底「かまへん」精神の人だったし、実のところは、パメラさんはすでに長いこと、この職を辞したいと、機会を伺っていたのだ。

 

で、ついにパメラさんは、理想の転職先を見つけた。 

行き先は、地理的にお隣さんとも言える、やはり南ロンドンの「クロイドン大学病院」というところ。

南ロンドンのクロイドンという街は、英国内務省総本部ビルが所在することで有名な場所です。私はかれこれ12年前、ここの移民課で英国永住権を取得しました。その時の模様は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

主に医薬品情報室での勤務と、集中治療室 (ICU) での補佐的臨床薬剤師業務。自宅からより近い勤務先となり、今以上に、子育てと仕事を両立しながら働ける時間帯勤務との好条件。

今回の新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミックでの学びから、現在、英国では、どこの病院でも集中治療室 (ICU) で働ける薬剤師の増成が急速化されている。これまでは「高度専門職」とされていた職種も、今後はできるだけ、誰が不在になっても支障がないようにする薬局の組織作りが目指されているのだ。

 

でもね、私は、密かにこう見ている。

パメラさんは一生を、薬剤師で終わる人ではないだろうな、と。

ご主人さんが最近、自営で事業を立ち上げたばかりで、「子育てが大変なので」と減らした勤務日も、ご主人さんの仕事のアシスタントとして働いているようだし。

しかも、今回、私の片割れとしての感染症専門薬剤師の職は辞したけれど、週末の「バンク薬剤師」として、引き続きこの病院で働きたいと。

バンク薬剤師とは「準局員」という位置付け。英国では目下、全国津々浦々で、国営医療 (NHS) 病院における、週7日の薬局サービスの提供を目指している。でも実際のところは、正局員の人員不足からなかなか実現しにくい。現在、多くの病院が、特に週末は、上乗せした時給で「バンク薬剤師」を雇い、彼らの労力に頼りながら、薬局を開局しているのだ。

外部から全く見も知らぬ薬剤師を雇う場合もあるけれど、パメラさんのように、一旦退職した「元スタッフ」が働いてくれれば、すでに内部に精通している者として、業務も滞りなく行えるので大歓迎! 私の病院では、このように、一旦退職していった人でも「バンク薬剤師」として籍を残し、週末に「ちょこっと、お小遣い稼ぎ(=日本円で2万5000円程度/日)」にやって来る人が多い。

そんなフレキシブルな働き方ができるのも、英国の国営医療 (NHS) 病院で働く魅力の一つと言える。

こちらのエントリ(⬇︎)で紹介した、以前退職していった「シュラン君」も、現在、平日はフルタイムの大学院生、週末は私の病院薬局で、バンク薬剤師として勤務するスタッフの常連の一人です

 

だから、パメラさんとは、これで「お別れ」ではない。

「マイコ、クロイドン大学病院に転職したくなったら、是非連絡してね。今まで色々と助けてくれた恩返しで、内部事情と面接試験問題の傾向は、全部教えるから」と言いながらバイバイしたけど。

そうなんです。英国の特にロンドンの病院に勤務する薬剤師たちのネットワークは、こういった横の繋がりから信じられないほど狭く、結局、ほぼ皆「知り合い」になってしまう。悪いことのできない世界です。。。(苦笑)。

 

でも、今のところ転職をする予定のない私は、目下、上司のドナさんと共に、パメラさんの後任を探している。

募集広告と、どんな人を求めているかの概要は、下記の通り(⬇︎)。つまるところ、私の現在の仕事内容って、こんな感じです。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210315025235p:plain

年収も明瞭に提示されています

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210315025309p:plain

「こんな資格・経験・スキル・能力を持った人を求めています」を箇条書きにし、一覧表にしたもの

英国国営医療サービス (NHS) での就職にご興味のある方は、以前のこれらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

 

では、また。