日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

いい仕事って?(上)

 

今日は、2020/21 の年度末ですね。

ということで、今回のエントリでは、特別に「独白」を。

 

つらい、つらい一年でした。

 

世界中の人たちと同様、新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミックによる社会的混沌、日常生活の制限、そして、その最中の自身の突然の手術・入院や、新型コロナウイルスの感染・発症などの影響も大いにありましたが、

最大の理由は、ずばり;

 

「職業的に伸び悩んだ」

 

ことでした。私、典型的な仕事中毒人なんで。。。。

 

去年、人生初の手術を受けたことや、新型コロナウイルス (COVID-19) に感染した時のことは、こちら(⬇︎)からどうぞ。どちらも複数回のシリーズになっています。

 

そして、日々、もがきながら「いい仕事って、何なのかな?」と、よく考えていました。

今回のエントリでは、そんな一連の思考で結論づけた「いい仕事」の条件を書き記したいと思います。極めて個人的な観点からのものですが、自身のこの約1年の仕事を振り返りながら。

今回のエントリは、一応、以前こちらのエントリ(⬇︎)で予告したものです。

 

2020年2月

2年間に渡った「地獄の一般内科病棟」ローテーション終了。もう、くたくただった。その病院は交通の不便なところにあり、車の運転ができない私は、通勤に毎日3−4時間をかけていた。平日は3食を病院で食べるという私生活のなさ。肉体的にも精神的にも限界で、もう、とにかく休ませてくれー!!! というのが本心だった。

この「地獄の一般内科病棟」で働いてた時のことは、過去のこちら(⬇︎)のエントリもどうぞ

そういえば、私、日本での薬科大学時代、満員電車(→東京・JR中央線と山手線)での通学にほとほと疲弊し、自宅から最寄りの病院に就職したんだったっけ。そしてその後も、ほぼ全ての転職先で、徒歩もしくは通勤ラッシュの逆方向で通える場所を選んで暮らしてきた。

 

 <いい仕事の条件1> 通勤時間が短い。理想的には職場が徒歩圏内にあること

 

私が日本で働いていた時のことにご興味のある方は、過去のこれらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

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最近のロンドン中心⇄近郊を運行する通勤電車の様子。ロックダウンの影響で、午後9時頃には、ほぼ無人の車両


2020年3月

病院を異動。病院初の「フレイルティ病棟」の立ち上げスタッフの一員となることを依頼された。

でもですね。。。

この病棟、鳴り物入りで開設された割には、ご年配のイラン人男性医師と、パートタイムのモロッコ人女性医師の2人だけで運営されている小さなチームだった。余談であるが、このイラン人の先生は、私が日本人であることを知ると、以後は私のことを、いつでも「オシン!」と呼ぶようになった。昭和50年代に空前のヒットとなった NHK ドラマ「おしん」はイランでも放映され、非常に感銘を受けたと。

でも、肝心の業務は「どのようにサービスを発展させるか」という方向性が(全く)定まっていなかった。患者さんの大部分は、病状的には退院可能であるけれど、介護・福祉の面での準備待ちをしているという、いわゆる「社会的入院」だった。

言い換えれば、薬剤治療としては、すでに完了している方ばかり。(時々)単純尿路感染症で経口の抗生物質が処方され、心不全の微調整のため、利尿剤の量が増減される、といった程度。

戦場の「最前線」のような場所から、いきなりこの「最後方」のチームに移り、時間に余裕はできたものの、臨床薬剤師の仕事としては、もの足りなさを感じざるを得なかった。

 

そんな矢先に、英国内での新型コロナウイルス (COVID-19) 上陸のニュースが。そして間も無く、私が勤務する病院は、国内で5人目(→恐らくロンドンでは初)の死者が出た場所となったことが判明し、全スタッフが大パニックに。

担当していた「フレイルティ病棟」は、とりわけ個室病床が多かったため、一夜にして、新型コロナウイルス感染患者さんを収容する特別病棟に早変わりした。

国内で感染防具の数が不足していたことから、その日を境に、臨床薬剤師のほとんどが自分のオフィスの机から仕事をするよう命じられた。臨床薬剤師業務も、将来は大部分を IT で、リモートにて行える時代になるんだな、という大きな学びがあった。もちろん、そこでは不可能なこともあったが。

英国内の新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミック勃発直後の、私が勤務する病院の様子は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)をどうぞ

 

健康上支障があり、新型コロナウイルス (COVID-19) 患者さんと直に接するのが危ないと判断されたフレイルティ病棟医長のイラン人医師は、ほどなくして関連の療養型病院へ異動した。モロッコ人女性医師も、自宅近所の家庭医院に転職したと聞いた。

フレイルティ病棟チームは、それで「解散」だった。

 

<いい仕事の条件2> 急性期病棟の臨床薬剤師であり続けたい

 

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英国国営医療 (NHS) 病院の急性期病棟の典型的な光景

 

2020年6月

第一波が収まった頃から、呼吸器系病棟の担当となった。

そこは院内でも「ちょっと癖のある」先生として知られた方が医局長をしておられた。基礎医学研究者としての業績が高く、ご自分で「仮説・発見した」理論に基づく治療を実践していたため、英国の標準医療ガイダンスに則していないことが多かった(→これ、英国の医療界では、とても珍しいスタンス)。感染症医局長とも常に「知的な喧嘩(=やりあい)」をして折り合いが悪く、私も仕事上、そのとばっちりを受け、毎日、はなはだ居心地が悪かった。

そしてなぜか、この先生の下で働く医師たちは、全員「訳あり」だった。

通常は2年間の訓練期間を、予定通りに終えることができずに居残っている研修医とか、「親が(医者に)なれって言ったからさ。。。」といった感じで、仕事に対する熱意が全く見られない派遣医師や、私が使用しているコンピューターを我がもの顔で横取る医師など。

これらの先生方が犯す処方の間違いの数々を正すために、毎日、膨大な時間が費やされた。

 

<いい仕事の条件3> 英国の標準医療が実践されている環境で働きたい

 

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各病棟には業務用コンピューターが設置されていますが、故障したまま放って置かれているものが大半といっても過言ではない。私は IT スキルに関しては日本人の平均レベル以下のはずだが、それでも自力で直せることもある。毎朝、私がその故障を直し、さあ仕事を始めようか、といったところで、そのコンピューターを乗っ取る医師の多いこと多いこと。。。。(苦笑)

英国人は面倒くさがり屋が多く、壊れたものを放置して立ち去るのが常です。そんな事情は、以前のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ


2020年8月

待ちに待った「集中治療室 (ICU) 」の実地訓練が受けられることになった。

私にとって、「集中治療室 (ICU) 」薬剤師業務の訓練を受けることは、長年の目標でもありました。そんな事情は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ


ただ、そこで感じたこと。

それまで集中治療室の業務というのは、どの病院でも、そこのトップ臨床薬剤師が担当してきた。私が勤務する病院も例外ではなく、2人のベテラン主任薬剤師の「あうん」の呼吸がぴったりであったため、「実務マニュアル」といった類のものが(全く)存在していないことに気づいたのだ。

実地で口頭で教えて下さったことを、一言一句逃さずに聞き取り学んだが、系統立った訓練とは言い難かった。もちろん、自主学習もすべきなのであるが、限界があった。

この新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミックが始まって以来、英国の国営医療病院では、集中治療室で働ける臨床薬剤師の育成が急進されている。そんな世相を反映し「将来は是非、集中治療室専門薬剤師に!」と考える薬剤師が、今、雨後の筍のようにいる。私自身にとっても、集中治療室 (ICU) はとても興味のある分野であるものの、あまりに候補者がたくさんいる所では、熾烈な競争が起きるのだということに気づいた。

 

<いい仕事の条件4> 自分が心からやりたい分野、かつ、勝てる土俵で勝負すべき

 

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私の病院の集中治療室 (ICU) 病床の一例。今、英国薬剤師の間では、集中治療室 (ICU) 専門薬剤師が最も「ホット」な業種とされている


2020年9月

人材管理マネージャー薬剤師の補佐役として、勤務先病院の全薬剤師たちの業務時間割(写真下⬇︎)を作成する当番になっていた月であった。

英国の薬剤師たちは、得てして、主張が強い。一人一人の要求を聞き、全員が win-win になるようにスケジュール調整していくことは「No と言えない日本人」である私 😓 にとって、凄まじいストレスとなった。

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私が勤務する大学病院薬局は、薬剤師・テクニシャン・アシスタント・事務員を合わせると総勢 100名以上の大所帯。よって壁一面の「シフト表」が、円滑な業務運営に必須

その月の最大の懸念は、心臓疾患治療室 (CCU) で働ける臨床薬剤師もファーマシーテクニシャンも、ほぼ全員が休暇に入っていたこと。結局、最終的に、私自らがその任務を引き受けることになった。それまで担当していた呼吸器系病棟は、私を「監督」している人材管理マネージャー薬剤師が肩代わりすることで合意した。

しかし、ですね。。。

その人材管理マネージャーである先輩薬剤師の、現在の専門は小児科。第一日目にして「とても手に負えない」と。

結局、私が心臓疾患治療室と呼吸器系病棟の両方を請け負うことになった。院内でも特に入退院者の動きが激しい2病棟 40名以上の薬剤治療を、ファーマシーテクニシャンのサポートが一切無い状態で遂行する毎日。もちろん本来の感染症薬剤師業務とも並行しながら。

 

<いい仕事の条件5> 中間管理職はつらいよ(苦笑)。臨床薬剤師の道(だけ)を極めさせてくれーっつ!

 

おやおや、このトピック、一度吐露しはじめたら、止まらない。。。。(笑)

 

ということで、次回に続きます。

 

では、また。

 

<追悼>

先週3月23日は、英国内の新型コロナウイルス (COVID-19) 第1波に伴うロックダウン開始から、ちょうど1年が経った日でした。各地で、これまでの死者約12万6000名への黙祷が捧げられました。私が勤務する病院では夜間、建物を全て「青色」に照らし(⬇︎)、ここで亡くなられた方々への哀悼と医療従事者たちの健闘を表明しました。

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一夜限りで、英国国営医療サービス (NHS) のシンボルカラーである「青」で照らされた、私の勤務先病院