日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

日本が誇るべき、英国で頻用されている薬剤 10 選

 

今日は、「日本発祥もしくは販売元で、英国で頻用されている薬」についての情報を、お届けしたいと思います。

日々の仕事中、薬の外箱パッケージ上の日本の製薬会社のロゴマークを目にして気づいたものや、自主的な勉強の中で、日本で誕生した薬だったと偶然知ったもの、はたまたその昔、日本の薬科大学時代に教わったことなども織り交ぜながら、それらの薬の英国での実際の使用状況を語ってみます。

これらはあくまで、私自身の観察によるものです。各製薬会社さんとの利害関係は一切ありません。英国内の売り上げランキング順でもありません。ご了承下さい。

 

1)ランソプラゾール(開発・販売:武田薬品工業)

英国の医療では、国内であまねく「薬剤フォーミュラリー」が浸透している。各病院や地域で、費用対効果の点から、処方できる薬を限定したもの。同種・同効薬が市場に数種類ある場合、その中で特許の切れていないもの(=ブランド薬)は、よほどの効果や違いが証明できない限り、採用されにくい。

私が英国で薬剤師免許を取得した当時、武田薬品工業が開発・販売しているランソプラゾールカプセルは、英国内では、まだ特許の切れていないブランド薬だった。そのため、就職した大学病院の院内フォーミュラリーのプロトンポンプ阻害剤 (PPI) 第1選択薬は、すでにジェネリック薬となっていたオメプラゾールカプセルだった。ランソプラゾールカプセルは「クロピドグレルを併用している患者さんにしか使用できない」という制限付きになっていた。

一方で、英国内で流通するオメプラゾール口腔内崩壊錠は、依然特許が切れておらず、ランソプラゾール口腔内崩壊錠より高価。そのため、そのため嚥下障害や経鼻胃菅を挿入している患者さんへは、ランソプラゾール口腔内崩壊錠へ切り替える、といった措置が取られていた。ややこしかった。。。。

でも、英国内でランソプラゾールカプセルの特許が切れた途端に、私の病院も即、ランソプラゾールを院内フォーミュラリーに正式収載した。医療現場の混乱は一気に解消された。今や、英国のプロトンポンプ阻害剤 (PPI) の使用量は、ランソプラゾールの方が上なのではないかと思う。

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私が現在勤務する病院のプロトンポンプ阻害剤 (PPI) 内服薬在庫

ちなみに、エーザイが開発・販売している「ラベプラゾール錠」は、英国内で認可されてはいるものの、残念ながら(ほぼ)全ての病院でフォーミュラリー非採用薬となっています。

 

2)マイトマイシン(発見:北里研究所、創薬:協和発酵)

この薬(というか土壌細菌)、私が日本で卒業した大学に隣接する、東京港区の「北里研究所」で発見された。その特許で得た莫大な富を元手に、研究所がその創立 50 周年の記念事業として「大学を設立しよう!」と考えたのが、北里大学の始まりだったらしい。

発見から65年以上経った今なお、現役の薬ですね。英国では、膀胱癌の治療の定番(写真下⬇︎)です。

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英国内で流通するマイトマシンの膀胱内カテーテル注入セット製品

ちなみに「マイトマイシン (Mitomycin) 」の名前の由来は「Mito=水戸」。茨城県水戸市から採ってきた土壌から発見されたため、こう命名されたとのこと。

余談ですが、この研究所は、近年ノーベル賞受賞となったイベルメクチンの前駆体も、静岡県伊東市の土壌から発見した。そんな伝統を受け継ぎ、私がこの大学の薬学生だった頃は、各学生が自分の出身地や自宅近所の土を持ち寄り培養して「次世代の画期的な薬が発見できるかな?」と、まるで宝探しをするような実験実習があった。

これ、今でもやっているんでしょうかね。。。?

 

3)高濃度ビタミン B & C 剤「パブリネックス」(販売:協和発酵キリン)

以前のこちらのエントリ(⬇︎)でも紹介した通り、

英国内の急性アルコール中毒患者さんの解毒に使用する「高濃度ビタミンB & C 剤」は、現在、日本の協和発酵キリンの製品(商標名『パブリネックス』)が 100% のシェアを独占しています。

 

4)カルシウム剤全般(販売:協和発酵キリン)

上の4)「高濃度ビタミンB & C 剤」とは真逆に、英国内では無数の製薬会社が「カルシウム剤」や「カルシウム+ビタミン D 合剤」を製造・販売しています。

そんな競争の中でですね。。。

現在、ロンドン中のほぼ全ての国営病院薬局が、こちら(写真下⬇︎)の、これまた協和キリン製品のものを購入しています。ホント、これ一辺倒といった様相を成している。

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「KYOWA KIRIN」のロゴが眩しい

 

5)クラリスロマイシン(創薬:大正製薬)

英国人は、ペニシリン系の抗生物質にアレルギー反応を起こす者が多い。クラスロマイシンは、その場合に欠かすことができない代用薬。そんな抗生物質を創薬した、大正製薬の偉業に恐れ入る。

ちなみに英国では、アジスロマイシンは、クラリスロマイシンの処方量に比べると(ほぼ)使用されていないと言っても過言ではありません。急性の感染症に用いるよりは、低用量での抗炎症作用を利用し、慢性閉塞性肺疾患 (COPD) の患者さんに週2−3回長期投与するものとして、主に使用されています。

 

6)タゾバクタム+ピペラ(創薬:大正製薬)

現在、英国の急性病院で最も頻用されている抗生物質の1つ。ということで、その歴史と開発の経緯を知りたく調べたら、なんと、クラリスロマイシンと同じ日本の大正製薬であったことを、私自身、つい最近知った。すごく感動した。

私が現在勤務する大学病院では、この「タゾバクタム+ピペラシリン」と「クラリスロマイシン」の組み合わせが、今回の新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミックで、2次細菌性肺炎を起こした者への標準治療となり、大活躍した。

  

7)メロペネム(創薬:大日本住友)

超オールマイティな「究極」の抗生物質。タゾバクタム+ピペラシリンやその他多数の抗生物質を投与したけど一向に改善しない患者さんへ、最後の切り札的に使うのが王道。これを投与すると、見事、死の淵から回復することが多い。今までのジタバタは何だったんだ? ってほどに。

 

クラリスロマイシンといい、タゾバクタム+ピペラシリンといい、メロペネム(写真下⬇︎)といい、日本で創薬された抗生物質の数々は、これまで英国の、いや世界中の数え切れないほど多くの人々の命を救ってきたであろうと、感染症専門薬剤師の私は断言できる。

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日本で誕生した、世界に誇る抗生物質(の氷山の一角)

 

8)タムスロシン(開発・販売:山之内)

英国内で「前立腺肥大症のアルファブロッカー薬は『タムスロシン』以外に存在していないのでは?」と錯覚してしまうほど、頻用されている。私が日本で働いていた当時は「ハルナール」という商標名で、0.1mg と 0.2mg の用量で製造されていたように記憶しているけど、英国では 0.4mg のみとなっています。

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現在、英国で流通する薬の殆どが、1ヒートあたり14錠/カプセルとなっていますが、タムスロシンは例外的に10カプセルとなっています。そんなところにも「日本の薬」であることを彷彿とさせられる

 

9)ドネペジル(開発・販売:エーザイ)

認知症のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に関しては、英国内では 2012年まで、全ての薬が特許の切れていない「ブランド薬」であった。そのため国の標準医療ガイドラインを作成する機構 NICE (National Institute for Health and Care Excellence) が、その使用基準を明確に定めていた。

同種・同効の3剤、すなわち「ドネペジル錠」「ガランタミン錠」「リバスチグミンカプセル」のうち、ドネペジルが最も廉価かつ1日1回投与のものであったため、NICE は当初、ドネペジルを第1選択薬として推奨した。要するに、英国は「エーザイ」を選んだ、ということだった。

この競争に負けた残りの2社は、以後、英国内では、ガランタミン(英・シャイアー社)は液状ドロップ剤を、リバスチグミン(スイス・ノルバティス社)はパッチの剤型製品を発売することで、ドネペジルに対抗する販売路線変更を余儀なくされた。

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アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、現在、全てジェネリック薬となっため、各医療機関・地域のフォーミュラリーによる使用規制は(ほぼ)なくなっています

 

10)エドキサバン(開発・販売:第一三共)

現在、英国内で認可されている直接作用型経口抗凝固薬 (DOAC) (=リバロキサバン、アピキサバン、ダビガトラン、そして、エドキサバン) の中で、最後の市場参入であったにも関わらず、エドキサバンは私が現在勤務する病院とその地域のフォーミュラリーでは、第1選択薬になっている。9)のドネペジルと同様、4剤の中で最も廉価かつ、全ての適応・治療過程において1日1回投与の製品であるという理由で。

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英国仕様の「エドキサバン」。日英薬剤師の私としては、決して見逃すことのできない Daiichi-Sankyo のロゴと社名

ところで、第一三共は、営業がとても上手だと思う。英国の国営病院内で、MR さんの立ち入りはものすごい規制があるのだけど、こういった機会(リンク下⬇︎)で「エドキサバン」を大々的に宣伝していた。さすがです。

 

次回のエントリでは、日本が誇るべき、英国で使用(→頻用とは言えないまでも、常時処方)されている薬剤10選を紹介してみたいと思います。

 

では、また。