先月は、自身の英国薬剤師免許の更新月だった。
例年のごとく、その手続きを、月末の締切日ギリギリで行った(苦笑)。
今回のエントリでは、その詳細について、書いてみることにする。
英国の薬剤師免許は、日本と違い「一生モノ」ではない。毎年、各自が指定された月に、免許登録先の General Pharmaceutical Council (通称 GPhC) へ、規定された卒後教育の記録などの各種書類を提出。その上、薬剤師として働くに当たり心身共に支障のないことを宣誓し、高額の更新手続き料を支払うことにより、薬剤師免許が維持されるというシステムが取られている。
卒後教育の記録も、各自の職務に沿った内容のものを提出するよう求められる。だから、定年退職をした薬剤師は、事実上、免許の更新を行うことができなくなる。それよりまず、ご高齢になってくると、体力・気力的にも「もうたくさんだ」と感じ、自主的に薬剤師名簿からの除名を希望する(=免許を返上する)人も多くいる。薬剤師って、ホント危ない仕事だから、これはある意味、妥当だと思っている。
ちなみに、この「英国薬剤師免許更新制度」、ちょうど2ー3年前ぐらいから、その仕組みが大幅に刷新された。
その新システムの初回であった免許更新 (2019年) の様子は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)からどうぞ。
しかーし。。。。
その後すぐ、新型コロナウイルス (COVID-19) の世界的パンデミックが勃発。
「医療の最前線にいる薬剤師は、業務を最優先せよ」との通達で、去年の免許更新は「卒後教育の提出物などは一切不要。年次登録料さえ支払えば、全員自動更新する」という特別措置が取られた。
新型コロナウイルス (COVID-19) が英国に上陸し、国内中の医療教育・訓練がことごとく中止されていた頃のことは、こちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ
で、それからほぼ1年半が経ち、新型コロナウイルス (COVID-19) も、ようやくほとぼりが冷めてきた英国。今年の免許更新手続きはどうなるのかな。。。? と思っていたら、
「過去一年間の自分の仕事を振り返り、英国薬剤師規範・倫理 (Standards of Conduct, Ethics and Performance) に則った行動を取っていたかを実証できるような『内省的記述書』のみを提出せよ」
との知らせが、私の元に届いた。
本来ならば「過去1年間に行なった卒後教育の具体的事例4点の記録」と「自分の業務に関して第3者と面談したことのレポート」と、「薬剤師規範・倫理に則った行動を取っていたかの内省的記述書」の3点の提出が求められるはずであったのだが、今なお、暫定的免除措置が取られているのであった。
ラッキー!(笑)
ちなみに、薬剤師規範・倫理 (Standards of Conduct, Ethics and Performance) とは、免許規制機構 (GPhC) が定めている、英国薬剤師の『掟』。どの薬科大学でも、学生の時から「薬事法規・倫理」の講義などで必ず学ぶ。
時代に合わせて(少しずつ)改定されていっているものなのだけど、現時点での「9か条」は、以下の通り。
薬剤師たるもの;
(1)国民・患者さん中心の医療を提供せよ
(2)患者さんやご家族と信頼関係を築き、多職種の方々と協働せよ
(3)効果的にコミュニケーションを図るべし
(4)職業上必要な知識や技術を維持し、自己研鑽せよ
(5)プロとしての判断を下せ
(6)プロとしてふるまえ
(7)接する方のプライバシーと情報を守秘せよ
(8)不正には声を上げること
(9)リーダーシップを発揮せよ
(注:↑ 多少、意訳しています)
で、今年の英国薬剤師免許更新では、この「9か条」のうちの特に「3)効果的にコミュニケーションを図る」「6)プロとしてふるまう」「9)リーダーシップを発揮する」の3点に焦点を当て、この1年間で、いかにこの「掟」に則って自身が仕事をしてきたかの具体例を挙げ、それを「内省的記述書 (reflective account)」として提出しなさい、とのことだった。
Reflective → Reflection (内省) とは、己のしてきたことを振り返り、反省し、その経験を糧に今後、何か少しでも改善できることがないか? と徹底的に自己分析する「思考法」。英国人、これ、ホント大好き。現時点での英国の医療系の教育って、根本的には、ほぼこのやり方に尽きると言っても過言ではない。残念ながら、私は、語学の壁もあり、苦手なんだけど。。。。
でも、とにかく締切日が迫っていたので、もっともらしく「作文」した(⬇︎)。
以下に、私が今回、実際に提出した「内省的記述書 (Reflective Account) 」を、日本語訳(⬇︎)にてここに公開。
私の日頃の仕事の一コマの紹介でもありまーす(笑)。
<題名>:「欠勤の同僚の仕事の肩代わり」
私は現在、国営医療 (NHS) 急性病院にて、感染症専門臨床薬剤師として働いています。
通常は、勤務先の病院の中でも、最大病床数かつ超多忙な一般内科病棟を担当しています。患者さんへ最善の薬剤治療を提供するため、複数の医局長、医局長補佐、研修医をはじめ、他医療職種の方々とも密接に協働しています。
ある日のこと、職場の主任薬剤師の一人が、急に欠勤してしまいました。しかもなんと、その日の昼過ぎまで、薬剤部の殆どの者は、その方が欠勤したことを把握していませんでした。よって、彼女が通常担当しているプライベート(=全額自費)病棟には、代理の薬剤師が手配されておらず、放置されていました。
副薬局長である人材管理マネージャーさんは「皆で話し合って、何とか一人手配して」と言ってきましたが、現場の薬剤師の誰もが「私が(代理として)働きます」と自主的に名乗りませんでした。というのは、その日の薬剤部は、通常に輪をかけて人手不足で、誰もが手一杯だったからです。そのあまりのプレッシャー下で、実のところ、薬剤師たちの間では「一体誰が、引き受けるのか?」の言い争いとなりつつある、一触即発状態でした。
その日の私のスケジュールも、激務そのものもでした。しかしながら、私自身、目下、職場内で最も経験のあるシニア臨床薬剤師になりつつあります。ここはひとつリーダーシップを発揮し、プロとしての模範を示さねばと自覚しました。という訳で、最終的に、私が皆へ「私が引き受ける」と言い、副薬局長にもそう報告しました(→職場の諍いを解決すべく、プロとしてふるまった。そして、上司にも『報連相』した)
普段は馴染みのない、勝手の知らぬ病棟へ到着すると、本当ならば、数日前から解決すべきであったであろう、多くの薬剤的問題が山積みとなっていました。その病棟の医局長の先生は、見知らぬ薬剤師であるはずの私の突然の訪問を大歓迎して下さりました。そして、私が提言した各患者さんの薬剤治療(例:腎機能低下に即した減量、ガイドラインに則った抗生物質の選択、いつ、次回いつTDMのための血液を採取をすべきかや、抗生物質を長期投与をしていた方への肝機能検査の実施など)を全て実行に移して下さいました(→プロとしての職能を発揮したことを、ここで強調。通常、経験の浅い薬剤師は、こういった際に医局長ではなく研修医に話しかけるのだけど、私は、医局長へも臆せず直接話す方。ちなみに私は、勤務先の病院内で稀有な日本人薬剤師として、私は存じ上げなくても、医師の先生たちの方が、私のことをすでに知ってくださっている場合が多々ある。英国でマイノリティとして働くことが有利となる一例。笑)
次の日の朝、前日欠勤した主任薬剤師さんが出勤した際、私は彼女に、昨日の患者さんの薬剤治療に関する申し送り表を手渡し、最重要事項に関しては口頭にて手短に報告を行いました(→注:書面・口頭の両方でコミュニケーションを取ったことを強調)。
その主任薬剤師さんからは、その後「マイコの臨床薬剤師としての腕は、もはや私の及びのつかないレベルになっている」とのお褒めの言葉を頂きました(→この方、現職はフォーミュラリー担当主任薬剤師ですが、なんと前職は、英国北部の大型教育病院の感染症専門薬剤師でした。私、内心、ガッツポーズだったよー!)
今回の件のでの、私自身の反省点としては;
1)院内で、最も経験のある臨床薬剤師となりつつある今、後輩の薬剤師たちに対して、より一層のリーダーシップを発揮することが、自身の今後の課題。そして、薬局内の危機を未然に防げるよう、自分の業務以外にも、全体に目を配る姿勢が大切。
2)主任薬剤師とは言え、専攻分野が異なったりすると、精通していない・忘れかけている薬剤知識があるのは当たり前。自分の専門分野(=感染症)に関しては、もっと積極的に、薬局内での教育・訓練を促進していくべき。新型コロナウイルスの影響でしばらく停止していた、昼食休憩時間を利用したセミナー勉強会とかも、再開する時期に来ていると感じている。
以上、こんな感じの内容を書き連ねました。
ちなみに、この内省的記述書、内容が貧弱だと、英国薬剤師免許登録先 (GPhC) から「再提出」を求められるとのこと(ヒエーッ)。
なので、自分としては「これ、如何にも作り上げた文章っぽいな(笑)」と思ったけど、できるだけ大袈裟に書いてみた。英国人の間では、これぐらいの「盛り」は普通だとも思う。
で、オンライン上から提出ボタンを押した後(内心)ドキドキしていたのですが。。。。
私の上記の内省記述書、無事受理され、今年も免許が更新されました。
やったー!(笑)
では、また。