日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

2012年ロンドンオリンピック会場周辺を訪れ、英国の医療・薬局の移り変わりを振り返った(下)

 

今回のエントリは、前回からの続き(⬇︎)となっています。2012年ロンドンオリンピック会場跡地周辺訪れ、英国の医療・薬局などの移り変わりを振り返った記録です。


日常よく使用している喉スプレーを持ってくるのを、うっかり忘れてしまった私。早速、2012年ロンドンオリンピック会場跡地周辺の薬局巡りをすることにした。

まず入ってみたのは、ここ(写真下⬇︎)。現在、東ロンドン・ストラットフォード地区と言えば、オリンピック会場跡地という他に、この街の新たなシンボルとなっている、巨大ショッピングモール「ウェストフィールド (Westfield) 」。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210821214512j:plain

この写真では伝わりにくいのですが、ここ、とにかく広い。端から端まで歩くと、隣の駅へたどり着くほどの大きさ。オリンピック開催直前にオープンし、ロンドンで暮らす者たちの買い物や娯楽スタイルをガラリと変えた新スポット

ここには、英国のどの街にもあるとされる「ホランド&バレット」「スーパードラッグ」「ブーツ」が、全てテナントとして入っていた。しかも、どれもピカピカの大型店舗でだ。

ホランド&バレット(写真下⬇︎)では、無事「エキネシアの喉スプレー」を購入でき、一安心。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822021011j:plain

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822021504j:plain

日常で欠かさず使用している喉スプレーもここで、無事ゲット(笑)

スーパードラッグ(写真下⬇︎)

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822031036j:plain

元々は、物販に強いドラッグストアですが、最近は、医療・薬局のオンライン化に力を入れているようです。店頭には「専用のアプリを使って、電子処方せんサービスをご利用下さい」との広告もありました。

ブーツ(写真下⬇︎)

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822023026j:plain

ここのブーツ、超巨大店でした。過去に訪れた中でも、ワンフロアの展開としては、恐らく全国で1−2位を争う大きさの店舗だったんじゃないかな

ところでブーツは「各店舗で提供している薬局サービス」を、店頭や店内で、下の写真(⬇︎)のような、全国共通の分かりやすいパネルで具体的に明示しているのが特徴です。で、こちらの店舗では、薬剤師により「新型コロナウイルス (COVID-19) 」「髄膜炎 B 群」「肺炎球菌」「海外渡航用」の各種ワクチンが接種できるとありました。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822033336j:plain

英国では、現在、ほぼ全ての薬局で、薬剤師によりインフルエンザワクチンの接種が行われています。しかしながら、そのほかの予防接種がこれだけ手広く行われている薬局を目にしたのは、今回が初めてでした。

そう言えば、ワクチン接種の分野での薬剤師の職能の拡大も、ちょうど 2012 年ロンドンオリンピックの時期を前後して確立されてきたものです。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210821210010j:plain

こちらのブーツ、特にワクチンの接種を手広く行なっている店舗のようで、接種を行い、その直後の副作用が現れないかを確認するためにしばらく座っていることができるブース(写真上⬆︎)さえ設置されていました

英国の主要な街には必ずと言っていいほど出店されている「ホランド&バレット」「スーパードラッグ」「ブーツ」を、英国西部の街バースで訪れた時のことは、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ。今、英国で最も近未来的な街ロンドン・ストラットフォードと、古代ローマ時代から続く街での各店の雰囲気の違いが、写真から感じ取れると思います。

 

それから、このショッピングモール内では「献血漿センター」(写真下⬇︎)というものも見つけた。

何なんだろ? と不思議で、帰宅後調べたら、英国の新型コロナウイルス(COVID-19) の治験で、血漿の投与が一群として加えられていた頃、国内中で血液が不足しており、ドナーを募るべく、英国国営医療サービスが急遽開設した場所であったことを知った。そして今では、血漿のみならず、市民が気軽に入れる献血センターの機能を果たしているとのこと。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822052246j:plain

ファッショナブルな商業施設内に開設された、英国国営医療サービス (NHS) の献血センター。結構な数の人々が、入れ替わり立ち代り出入りしていました

ところで、2012年ロンドンオリンピックの選手村には、薬局が開局されていた。どこの薬局がオフィシャルサポーターになるかで、英国の最大手「ブーツ」と、2番手「ロイズ」が、熾烈な入札を繰り返したの。で、選ばれたのは「ロイズ」だった。

それまで、英国のチェーン薬局の「絶対的王者」と言えばブーツだったので、私自身「あれ?」と思ったこと、覚えている。

でも、その後、ロイズは、大手スーパーマーケットの薬局部門を買収したり、家庭医院内の敷地内薬局開局へいち早く進出したり、国営病院内の外来薬局を請け負ったり(写真下⬇︎)と事業を拡大し、急成長を遂げた。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822034641j:plain

英国国営医療 (NHS) 病院内に開局された、英国大手チェーン薬局「ロイズ (Lloyds Pharmacy)」。外来調剤業務を、病院建物内に開局された民間の薬局へ譲渡する病院が多くなってきたのも、2012年ロンドンオリンピックの時期を前後しての傾向だ

一方、ブーツはその後、米国のウォルグリーンへ買収された。

極めて個人的な見方だけど、今振り返ると、オリンピックが命運を分けたの? とさえ思えるのよね。

英国チェーン薬局の雄「ロイズ」が展開するスーパーマーケット内の薬局を訪問した時の記録は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

 

選手村と言えば、2012年のロンドンオリンピック開催中は、英国国家薬剤フォーミュラリー「British National Formulary (通称 BNF)」(写真下⬇︎)が、選手村内で働く医療団たちへ無料配布され、活用されていたんだって。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822234752j:plain

でも英国の医療書籍は、ちょうど 2012 年ロンドンオリンピックの開催を前後して、デジタル化が急進した。英国保健省はそれまで、BNFの新刊が年に2回出るたびに、医療業務の必需品として、国営医療サービス (NHS) に勤務する者全員分を買い上げ無料配布していたのだけど、それを廃止した。医療従事者たちも、BNF をウェブ上や個人でダウンロードしたアプリで使用するようになっていったので、BNF の書籍版の売り上げはガタ落ち。出版元の英国王立薬学協会は収入源を大幅に失い、編集者たちのリストラが相次いだ。

英国の国家薬剤フォーミュラリー「BNF」についての詳細は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

 

それから、2012年ロンドンオリンピックを前後して、英国国営医療 (NHS) の、特にロンドン市内の病院では、近代化と統合が相次いだ。

その最初となったのが、オリンピックが開催された東ロンドン地区。このエリアで、250年以上前から利用され続け、ロンドンー朽ち果てていた病院が建て替えられた(写真下⬇︎)。それを皮切りに、その近辺の病院群との統合が推進された。このビジネスモデルを模倣し、現在、ロンドン市内の国営病院ではどこも「グループ化編成(=地域ごとに4−5病院が連合し、薬局業務も効率化させる)」の真っ只中だ。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822053419j:plain

今、英国一の規模と最新設備を誇る医療施設と言えば、間違いなく、ここ「ロイヤルロンドン病院 (The Royal London Hospital) 」だ。

 

話を戻し。。。

このエリアに、個人薬局ってないのかな。。。 と、歩いていると;

ストラットフォード駅の、オリンピックスタジアム出口とは逆側に、こんな昔ながらのショッピングセンター(写真下⬇︎)を見つけた。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210821193137j:plain

この街に長年住む同僚から聞いた話によれば、2012年ロンドンオリンピック開催以前、この街には、このショッピングセンターしかなかったそうです

そうそう、私が英国へ移り住んだ頃のロンドンって、こういった(垢抜けしない)小中規模のショッピングセンターが多かったんだよね。。。。

なんて思い出し、懐かしくなり、中に入ると、案の定、タイムスリップ。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822054450j:plain

破格で叩き売りされている衣料品に店頭をすっかり占拠されている「ブーツ薬局」。英国で暮らす人々の生活に根付いたエリアの店舗では、こういった光景もちょくちょく見受けられます(笑)

そして、最後に、この冴えないショッピングセンターの一番奥で見つけた「個人薬局」。

新型コロナウイルス (COVID-19) のサービス一色でした。薬剤師により 15 分で判明する抗原検査を行っていたり、海外渡航前に必要な PCR テストの受付もしていました(価格、なんと日本円換算で2万円ほどだった!)。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822055700j:plain

 

歩き疲れて、あれこれ考えながら、巨大ショッピングモール内に隣接するホテルにチェックインすると。。。。

 割り当てられた客室は、何と「バリアフリールーム」だった。

入室した直後は気づかなかったのですが、広々とした部屋の割には調度品が皆無。ベッドの高さが、通常ではあり得ない低さで、あれ? これって。。。。?! と。

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822060734j:plain

トイレや洗面所が低位置かつ奥行きがある設計がなされており(車椅子で使用される方の高さに合わせているため)

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210822061221j:plain

浴槽がなく、シャワー室に折りたたみ式の腰掛けがあるのって。。。? ということで「あ、ここ、バリアフリールームだ」と気づいた

何でー?!?! 世間では夏休み期間で、ギリギリに予約したから、普通の客室は満室で、最後に残ったここにチェックインさせられたのかな? なんて思っていたのですが、オンライン予約内容をまじまじと見ると、自ら「バリアフリールーム」をクリックしていたことが判明(ガーン。。。😱)

 

英国の過去10-20年の医療・薬局の変化を辿るステイケーション、そして、物忘れがひどくなり、注意散漫でバリアフリールームをチョイスした私(苦笑)。

 

確実に年をとってきているな。。。。と思い知らされた週末でした。

 

でも、バリアフリールーム、ベッドが広々としていて、寝心地最高でした。今回、思いがけずこのような体験をし、パラリンピックへ出場される選手の方々へ想いを馳せる良い機会にもなりました。

 

では、また。

 

f:id:JapaneseUKpharmacist:20210823002348j:plain

今回利用したホテル、英国全土のどこに泊まっても内装が同じということが売りのチェーン系ホテルなのですが、この支店では特別に、アスリートの絵が随所に飾られていた。オリンピックのブランド力って本当に凄い