今月中旬、英国第2の都市「バーミンガム」に滞在していた。
「The Pharmacy Show (英国薬局ショー) 」(写真下⬇︎)へ、一般参加したため。
英国は、日本に比べると「薬局・薬学の学会・催し」といったものの数が、断然少ない。
誰もが気軽に参加できるのは、事実上;
1)毎年春にロンドンで催される、主に病院薬剤師向けの「The Clinical Pharmacy Congress (臨床薬学大会) 」
と
2)毎年秋にバーミンガムで催される、主に薬局薬剤師向けの「The Pharmacy Show (薬局ショー) 」
の2つしかない (はず)。
毎年、国内の異なった都市で開催される、英国王立薬学協会 (Royal Pharmaceutical Society) の年次総会もあるけれど、英国の薬剤師の中には、この協会に入会していない者も多い。よって、一部の薬剤師たちの「身内クラブ」色が際立った催しとなっている。
私自身は、英国で薬剤師になってから「The Clinical Pharmacy Congress (臨床薬学大会) 」にはほぼ毎年参加していた。でもこちらは、新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミックの影響を受け、この1−2年は、中止もしくはバーチャル形式となってしまっていた。
最後に「The Clinical Pharmacy Congress」へ参加した時 (2019年) の様子にご興味のある方は、こちらのエントリ(⬇︎)をどうぞ
「The Pharmacy Show (薬局ショー) 」の方は、長年ずっと「一度は行ってみたい」と思っていたものの、毎年どういう訳だか都合がつかなかった。かなり前からしていた約束とか、当直当番だったとか、 そもそも秋って日本へ里帰りするのに良い季節だし(笑)
私が直近で日本へ帰国したのも、2年前の10月でした。その際に観光がてら、東京・浅草周辺の薬局巡りをした記録はこちら(⬇︎)。
で、相変わらず日本への里帰りができず、思いがけず有給休暇も取れた私は、今回初めてこの「薬局ショー」へ行ってみることにしたの。
すごく楽しかったです。
予想を遥かに超えた、大きな学びがありました。
基調講演などから、今後の英国の薬局・薬剤師の「未来予測」といった最新情報にも触れることができ、
自分の専門じゃない分野のことも、ある程度は知っておくのって大切だよね。。。と、再確認した次第。
そんな訳で、今回のエントリでは、この「英国薬局ショー」のレポートを綴ってみることにします。
とても大きな会場でした。協賛団体・会社約300ほど。薬局・製薬会社・公官庁・大学・薬学出版社・教育団体・ベンチャー企業などなど、英国の薬局の「今・全て」のものが、ここにショーケース化されていました。
さっそく会場内を、色々見て回りました。
まずは、こちら(写真下⬇︎)。
英国では目下、医療記録に関する「全てのもの」を電子(ペーパーレス)化しようとしています。例えば、麻薬庫からの出し入れは薬局スタッフ各自の指紋認証にて行い、帳簿はコンピューター上で管理されるシステムが主流となりつつあります。
ちなみにこの上の写真の「CDRx」の「CD」とは、 Controlled Drug (麻薬) の略語。英国の薬局「業界略語」にご興味のある方は、以前のこちらのエントリ(⬇︎)に数例を紹介しています。
次は、こちら(写真下⬇︎)。これ、何だと思います?
じゃじゃーん! なんと、英国式「一包化」調剤ロボットなのです。
英国の薬局ではこれまで、日本の薬局では当たり前のように設置されている「一包化・分包機」が(ほぼ)皆無でした。薬局スタッフが一つ一つ手作業で調剤してきたのです。
英国の「一包化」は、一週間分の薬が全て「ブリスター・パック」と呼ばれる下の写真(⬇︎)のようなトレイに詰め込まれ調剤されるのが主流。
しかもこの他にも、別の会社のブースでは、日本式「一包化」パックが調剤できる機器(写真下⬇︎)が展示されていた。英国内では未だかつて目にしたことがなかったので、これには、ホントに魂消(たまげ)ました。。。
なぜこれほどまでに「一包化調剤ロボット」が展示されているのかな? と不思議に思った矢先、プログラムの一つであったこちらのシンポジウム(写真下⬇︎)に参加してみて、その謎が解けた。
今、英国の薬局業界では、調剤薬を供給する上で「ハブ & スポーク (Hub & Spoke) 」という考えが盛んに取り上げられている。ちなみにハブは「車輪の中心」、スポークはタイヤに向かう「細長い棒」の意。
薬剤師が「対物」から「対人」業務へ劇的に移行するには、調剤業務を大幅に効率化させる必要がある。「調剤をできるだけ会社のメイン工場のようなところ(ハブ)で一括して行い、調剤済みの薬は各店舗もしくは自宅(スポーク)に配送」することで、最適化が図れるのではないか? でもそれって「現実的?」「本当に利点があるの?」といったことが議論されているのだ。
ということで、このシンポジウムでは;
1)すでに「ハブ&スポーク」を実施している、薬の卸問屋も併業していることが強みの英国中規模チェーン薬局 'Numark' (薬局サイト下⬇︎) の CEO
2)目下「ハブ&スポーク」へ移行すべきか協議中の、インド系カリスマ創業者と同族経営で有名な英国の小規模チェーン薬局 'Day Lewis' (薬局サイト下⬇︎) の2代目御曹司社長。
3)「ハブ&スポーク」は今のところ考えていない・考えられない、個人経営薬局オーナー (薬局サイト下⬇︎) 。を招聘し、それぞれの意見を交えさせたのでした。
ちなみに英国では、ほとんどの調剤が、慢性疾患を対象にしたリピート(リフィル)処方となっています。そのため、特にこれまで各店舗で手作業で行っていた一包化は、会社の工場のような場所(ハブ)で調剤ロボットを駆使し一括調剤すれば、確かに効率的(なはず)。
この討論会の中では、ハブ&スポークを導入しやすいチェーン薬局に対抗するためには、各個人経営薬局が外注先として利用できる総合調剤工場といったものが、国の監修の元で作られるべき、といった提案へも発展しました。
ちなみに今回、個人経営薬局オーナーの代表として登場したアデ・ウィリアムズ氏(Mr Ade Williams、上の写真の左から2人目の男性)は、現在、英国で最も知名度のある薬剤師。数年前、英国 No. 1 の薬局薬剤師として表彰され、昨年の新型コロナウイルスのパンデミックの只中に「英国薬剤師の顔」としてポスターのモデルになった人なのだ。
去年の夏、ロンドンの主要駅に大きく掲げられたアデさんのポスターは、こちら(⬇︎)からご覧になれます。アデさん、このシンポジウム終了後は、会場内の別の壇上でご自分のトークショーの準備をされていたのだけど、そこをたまたま通りがかった私と目が合った。「さっきの討論会の聴衆だった人じゃない !」とすぐ気づいてくれ、愛嬌のある笑顔で手を振ってくれた。
さすが「英国一の薬剤師」。人間味のあるいい人でした。
再び、色々なスタンドを見て廻りました。
「CBD (カンナビジオール) 」製品の展示が、とにかく多かったです。
こちらも。。。
こちらも。。。!
こちらも。。。!!
こちらも。。。!!!
そして極めつけは、CBD 製品プロモーションのトークショーに、何とこの方(写真下⬇︎壇上中央)までゲストとして来場しておられ、びっくり👀👀👀。
こちらの写真(⬆︎)のステージ中央の方、元ラグビー選手のイングランド代表マイク・ティンダル氏。英国現君主エリザベス女王の孫の一人であるザラ・フィリップスさんの夫としても知られている。
ちなみにザラ・フィリップスさんの母であるアン王女(=エリザベス女王の長女)は、ロンドン大学の名誉学長で、その薬学校へ過去何度も訪問されている。
意外なところで、英国王室と薬学の繋がりを目の当たりにした次第。
私が英国へ移り住むきっかけとなった「ロンドン大学薬学校 (The School of Pharmacy, University of London, 現 UCL School of Pharmacy」の一紹介はこちら(⬇︎)から。私の在学中にも、アン王女がここを訪れ、留学生たちと歓談されたことがありました。
その他にも会場を色々と廻っているうちに、英国王立薬学協会出版部のブースの前に辿り着いた。
全く存じ上げない新しい世代の編集者たち3人が立っていたが、私自身「元インターン」ということでご挨拶申し上げた。向こうも私に興味を持ってくれ、英国国家フォーミュラリー (British National Formulary, 通称 BNF) 編集部の昨今と、互いの共通の知り合いの話を長々とすることになった。忘れかけていた昔の記憶のかけらを一つ一つ拾うような時間となった。
BNFについては、これらのエントリ(⬇︎)もどうぞ。
でもね。。。
会場を一周をしてまた再度ここへ戻ってきたら、先ほどの編集者さんたちは皆、早々と帰宅してしまっていた。周りはどこも「ノリノリ」に盛り上がっているのに、このブースだけ無人。だからかなり目立っていた(苦笑)。
こちらの出版社は「フレックス制度」を採用していた。午前 10 時 - 午後 2 時にオフィスの自分のデスクに居さえすれば、その日は出勤扱いとなり、それ以外の時間はいつ出勤しても退社しても、どこで働いても構わないという「完全出来高制」だった。
私自身も在籍中は、きらびやかな世界を味わった。ロンドンの一等地のオフィスの最上階にて、テムズ川対岸に国会議事堂を眺めながらの専用デスクでの仕事。英国の薬学書籍・医薬品情報データベースの全てにアクセスできる環境。毎日ほぼ無料の協会建物内食堂での人脈ネットワーキングを兼ねたグルメ昼食などをね(笑)。だから私自身「英国で臨床薬剤師として2−3年働いたら、正式なBNF編集者になりたい」という目標を掲げていた時期もあった。
でも私は結局、英国国営医療 (NHS) 病院の臨床薬剤師として、かれこれ8年働いている。
机上で人工的に薬学文献を編纂するより、その内容を実際に応用させ一人一人の患者さんに合った薬剤治療を考える医療現場の仕事の方が、遥かにエキサイティングであると、毎日実感しているから。たとえそこが地雷が埋め尽くされている戦場のような職環境で、昼食時間もままならなくても!(苦笑)
この「薬局ショー」のレポートは、次回へ続きます。
では、また。