このエントリはシリーズ化で、こちら(リンク下⬇︎)からの続きとなっています。
英国で、医師・歯科医師以外の医療従事者でも、薬の処方をすることができる免許を取得するのに必要なコース課程を提供している大学院は、現在、国内に数多くあります。
今回は、その中で、私が実際に入学を決めた学校について、語ってみたいと思います。
「いつの日か、免許取得を目指すことになったら、是非ここにしよう」と、長年第1志望にしていたのは、英国南部の海辺の町にある「ブライトン大学」。ロンドンから急行列車で片道 1.5 時間程度の場所。交通の便も良く、日帰りで通学できる距離。
ブライトンは、ロンドンの金融街などに勤める所帯持ちの者が好んで住む町でもあります。よって、毎日通勤している人も多い。ロンドンからブライトンへ発着する主要駅の一つの様子は、こちら(⬇︎)をどうぞ
ブライトン大学は、私が日本の薬剤師免許を英国のものに変換する過程で必修であったコース「Overseas Pharmacists' Assessment Programme (通称 OSPAP) 」を履修した場所でもあった。
そして何とこの大学の「処方薬剤師免許取得コース」は、長年、OSPAP と全く同じ講師陣が担当していたの。
だから、私自身、英国での薬剤師免許は得たものの、就職先がなかなか決まらなかった時期、暇に飽かせて、この処方免許コースの授業のいくつかに潜り込ませて参加させてもらったことがある。卒業生というよしみで。だから、どんな構成であるとか、具体的な提出課題の内容とか、学生層やクラスの雰囲気とかも熟知していた。自由な学風だし「他の大学へ行くよりは、大分ラクして免許取得できるだろうなー」という皮算用があったのよね(笑)
ブライトン大学では、卒業生が再び母校へ戻り、さらなる学位を取得する場合、授業料の割引特典も行われている。それも魅力だった。
で、いよいよ、処方薬剤師の免許を取得する計画が具体化してきたかれこれ1年前、母校を再び訪ねてみたのだけど;
その時の訪問の様子は、これらのエントリ(⬇︎)もどうぞ
「あれ? 何かが、違う」
と(直感的に)感じた。
長い間、心の中に封印していた OSPAP 時代の辛かった思い出が、なぜか、パンドラの箱を開けたように、一気に押し寄せてきたのだ。
私が OSPAP を履修した年は、経済的困難、東日本大震災、そしてその後何年も続いた体調不良に悩まされた時期でもありました。詳しくは、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうそ
しかも、この大学の「処方薬剤師取得コース」の次回入学受付のお知らせは、新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミックを境に、ウェブサイト上に一向に上がらなかった。
そんなこんなで、ブライトン大学は、私の志望リストから(するりと)消えた。
つい最近、この大学の「処方免許取得コース」の講師の殆どが、他の大学へ移籍したことを、風の便りで知った。
「直感に従え」ということ、これまでの人生で学んだ大切な教訓の一つ。
次に真剣に考えたのは、ロンドン近郊ケント州の「メドウェイ大学薬学校」
ここの大学院で処方免許を取得した、職場内でもとりわけ尊敬している薬剤師2人が、そのコース内容を大絶賛していた。
新設大学ならではの、極めて実践的な教育法になっていると。
英国の薬科大学は、3つのタイプに大別されていると言えます。その区分は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ
私自身、キャンパスを訪問した時の印象も、非常に良かった(リンク下⬇︎)。
でも。。。
ロンドンから地理的には近いのであるが、公共交通網を利用すると、それほどアクセスの良くない(→電車とバスの本数が少ない)所在地であることが気がかりだった。車の運転ができれば問題ない場所なのだが、私は、運転免許を持っていない。
そして大学院の授業も、他とは異なり、週1日の通学ではなく、数ヶ月に1度、一週間の連続集中講義という形態で行なわれているとのことであった。入学することになれば、恐らくスーツケースを抱えて大学近くのホテルに泊まり、そこから通学することになるんだな。それって、結構不便かも。。。とも思った。
いまひとつ踏ん切りがつかず、結局、ここには出願しなかった。
でも明らかに、入学の意思を持っていた。結論からすると、第2志望であった大学である。
私自身、ロンドンに在住しているということで、母校「ロンドン大学ユニバーシティカレッジ薬学部(旧:ロンドン大学薬学校)」も(一応)検討した。
私が 22 年前、英国へ最初にやってきて、留学生として学んだ「ロンドン大学薬学校 (現:ユニバーシティカレッジロンドン薬学部、通称 UCL) 」についてはこちら(⬇︎)をどうぞ。元は英国王立薬学協会の付属校を起源とする、由緒ある薬科大学です。
ロンドン市内とその近郊の大学で提供されている処方薬剤師免許取得コースの中では、授業料を最も安く設定しているため、薬剤師個人の希望が特にない場合、奨学金を出す側の職場としては、ここへの入学を極力勧めている。
でも、私は今回、ここに入学することに、気乗りしなかった。
というのは、つい最近、新卒・若手薬剤師が履修する3年間の臨床薬学ディプロマコースの最終学年を「処方免許取得コース」と変更したため、学生の年齢層がかなり若い。
もし私がこの大学の「処方薬剤師コース」を履修することにしたら、3年間のディプロマ課程の最終学年に「編入」するという形になる。すでに確立された若手薬剤師たちのネットワークがあるであろう場所に「オバさん」が一人、突然入り込んでも、相手にされないだろうなあ。。。ってね(あはははは。。。苦笑)。
このロンドン大学ユニバーシティカレッジで3年間の臨床薬学ディプロマ+処方薬剤師免許を取得した、後輩薬剤師の例(ザヒール君)は、こちら(⬇︎)に記しています
でも、最大の懸念は;
ロンドン大学薬学校は、国内外でも「薬学教育・研究」で名高いことで知られている。でも、実際のところ、近年、この大学の講師陣たちは、実務を伴っている者が少ないの。
先駆的な薬学教育理論を提唱してはいるのだけど、実際にコースを履修している・した同僚薬剤師たちに聞いてみると、課題は(煩雑な)書類作りが中心で、その学習成果は、実践で活かしきれてない様子。皆、口々に「(できれば)他の大学を選んだ方がいい」と。
だから、ここは、私自身の志望リストの中でも、最初から最後まで、最下位だった。
で、「一体、どこの大学にしたらいいんだろう。。。?」と考えあぐねていたある日;
「そういえば、ロンドン大学内のもう一つの薬学校である『キングスカレッジ』はどうかな?」と閃いた。
ここの処方免許取得コース、実は私自身、長年、偏見を持っていた。
国内で最初に開講された「超老舗校」だったから。過去に履修した者たちからも「英国中の処方免許取得コースの中で、最も難易度の高いカリキュラムになっているよ」と脅されていた。そんな「正統派コース」であれば、実力の誤魔化しがきかないだろう、ってね(苦笑)。
でも、ふと;
そう言えば、私、ロンドンに長年住んでおきながら、キングスカレッジ薬学部の現校舎へ行ったことなかったな。。。。
と、気づいた。
そして、思い立ったが吉日ということで、とある週末の日、突然、その場所を訪ねてみることにしたの。
ロンドン市内には、現在に至るまで「ロンドン大学ユニバーシティカレッジ薬学部(旧:ロンドン大学薬学校)」と「ロンドン大学キングスカレッジ薬学部」の2校の薬科大学しかありません。ちなみに、ロンドン大学キングスカレッジ薬学部は、20年ほど前までは「チェルシーカレッジ薬学部」という学校名でした。これら2校の沿革についての詳細は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうそ
自宅から地下鉄一本で1時間以内で行くことができた。
実は、現在の自宅から最も近距離にある薬科大学(写真下⬇︎)だったんぢゃない! と大発見。
で、実際にその校舎の場所を訪れてみて、我ながら可笑しな表現なのであるが
「ここだ!」
と直感した。
ここであれば『絶対に』充実して学べそうだと。
やはり、学校の雰囲気とかを、実際に自分の目で見て感じ取ってみるの、ホントに大切。
しかもよくよく調べてみると、こちらの「処方薬剤師免許取得コース」の実務実習は、薬学部が所在する校舎ではなく、ロンドン大学キングスカレッジ医学校が所在する、別のキャンパスで行われるとのことだった。そこは「ガイズ病院」という、私が英国へ移り住んで最初に実習をした病院に隣接した場所(写真下⬇︎)なのであった。
私が約20年前、英国へやってきたばかりの頃、実習をした「ガイズ病院」については、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ。
私が渡英2年目に住んだ学生シェアハウスについては、こちらのエントリ(⬇︎)で触れています
例えようのない懐かしさが、こみあげてきた。
「(処方薬剤師免許を取得するのは)ここしかない!」
と確信した。
大学の「ネームバリュー」という点からも、ロンドン大学キングスカレッジはこの上なかった。医療系教育機関としての総合評価では世界ランキング5位以内に入る学術機関だし。
これまで私の周りの多くの先輩・同僚薬剤師たちが「処方免許」を取得してきたが、皆、こう言っている。
「薬剤師としての資格取得の勉強は、これで最後(にするつもり)」と。
言い換えれば、大概の英国薬剤師にとって、この「処方免許」を取得する大学院が、最終学歴になるケースが非常に高いのだ。
その学校名が、まだ評判の確立されていない新設大学よりは、百年単位での歴史を誇り、国際的にも評価されている大学の方が良いであろう。私は極めて現実的な人間だしね。
そして何より、私の上司「ドナさん」が、ここロンドン大学キングスカレッジで処方薬剤師免許を取得したばかりであった。ドナさんは、いつも私に本当に良くして下さっている。今回も、私が後日入学許可をもらうと、自分が履修中に苦心して仕上げたコース提出課題の全てを「見本」として譲ってくれたのだった。
このブログでたびたび登場する、私の現在の上司「ドナさん」については、こちらのエントリを一例(リンク⬇︎)としてどうぞ
ちなみに、現時点では、ロンドン大学キングスカレッジとユニバーシティカレッジ、そしてメドウェイ大学薬学校のみが、英国内で他の大学に先駆けて「高度臨床薬剤師(→ナースプラクティショナーの薬剤師版と言えるもの)」を育成する試行段階にある。そのため、この3校の処方免許取得コースは「臨床診断技術習得」の訓練がとりわけ強化されたカリキュラムとなっており、通常の履習期間6ヶ月に上乗せされた形で、9ヶ月に延長されたものとなっている。
この「臨床診断技術」の習得とやらが、10年ぶりに学生に戻った私にとって、実際、どんなに壮絶な学習体験となったかについては、後々、お伝えしたい。
でも、この校舎を訪れた時点で、
「絶対に、ここに入学する! 英国一難しい処方免許取得コースでも何でも、やったるわ」
と決意していた。
そんな経緯で、ロンドン大学キングスカレッジ薬学部を第1志望としたのは、去年の6月頃だったように記憶している。
でも、その直後から開始した出願手続きは、多難の連続であった。
次回はそのことについて、書いてみたい。
では、また。