日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

見知らぬ街の薬局と家庭医院を訪れてみた。英国・湖水地方編

 

かなり時間が経ってしまったが、先々月、1週間ほど休暇を取った。

今年1月から大学院で履修していた「処方薬剤師免許取得コース」が終了したので。

私が目下、薬の処方ができる薬剤師を目指している過程は、こちら(⬇︎)でシリーズ化しています(→注:かなり時差のある記録となっています。ご了承下さいませ)。

 

本当は2週間、日本へ里帰りをする予定でいた。航空券も購入し、渡航する気満々でいたが、日本への入国には依然、外国人はビザが必要、かつ、団体ツアー旅行者以外受け入れない、という時期が続いていたため、それではパートナーの来日は無理ということになり、またもや中止せざるを得なくなった(皮肉にも、私たちが日→英の帰国を計画していた10月中旬頃から、この制限がなくなったらしいです。。。涙)。

それにしても、ここ9ヶ月(入学の準備期間も含めると1年以上)、公私共々トラブル続きだった。大学院のコース終盤は、身体的にも精神的にも極限まで追い詰められた。

最終口頭試験が終わった直後は、教材が山のように散乱する自宅に居ること、そして、それを片付ける体力も気力も無くなってしまった自分自身に、耐えられなくなってしまったのよね。。。。

 

で、日常から地理的に離れたどこかで、心身共にゆっくりしたい、と急遽決めた行き先は;

英国北西部のカンブリア州。俗に「湖水地方」と呼ばれる場所。

そこに、国内で「3大スパ」の一つと称されるホテル(リンク⬇︎)があると聞き知り。

 

そんな訳で、今回の旅は、ここ(⬇︎)から始まった。

ロンドン・ユーストン駅。英国北部へ向かう列車が発着するターミナル

早速、この駅の構内で、今回、真新しい薬局を発見。

「Well (ウェル) 」という名の、最近、よく耳にするチェーン系薬局だった。あ、ここに実店舗があるんだ! って感じで中に入ってみたら、すごく斬新なレイアウトだった。

英国の新興チェーン薬局「ウェル薬局」

で、後で調べてびっくり。こちらの店舗、去年の秋頃から、英国の小売業の王者である「WH Smith」と提携して開局した、国内初の「コンビニ薬局」とも言えるスタイルの事業形態とのこと。

店内の奥には薬局カウンターがあり、薬剤師が常勤していました

各種市販薬も日本の薬局並みに美しく陳列されていました

英国の小売業の代表格「WH Smith」は、国内の至るところにあります。私の過去のエントリ(⬇︎)にも度々紹介しています。

 

その後、列車に乗り、3時間ほどで着いたのがここ。

英国北西部カンブリア州オクセンホルム駅。湖水地方への入り口として知られている交通の要所

よく見ると、駅のプラットフォームに、こんなポスターが。

「人生に辛くなったら、僕たちがいつでも、君の聞き手になるよ」と書かれていた

「サマリアンズ(サマリア人協会)」- こちら、英国人であれば、知らない人いないのではないかと言えるほど有名な慈善団体。日本の「いのちの電話」とほぼ同様のもの。匿名での電話相談を受けつけている。

実は、私の元上司(→注:かれこれ 10 年以上前、精神科病院でファーマシーテクニシャンで働いていた時の主任薬剤師)、この協会の相談員としても働いている。彼自身は、1990年代のナイジェリアの内戦の最中、学生の強制兵役を拒否し、英国へ逃げてきた人。ヒースロー空港に着いた時、自分の全財産は、ポケットの中の5ポンド紙幣 (= 日本円換算で800円程度)だけだったと話してくれたことがある。そんなスタートから苦学の末に、この国で薬剤師となったが、仕事中はいつも極めてリラックスしており、

「Worry won't help.(くよくよしてもしょうがない)」

と言うのが、口癖の人だった。

こちらの上司と働いたのは、2007-2009年頃でした。私のこれまでの道のりにご興味のある方は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ。

 

で、その日は、この駅から最寄りの「ケンダル」という町で、一泊することに。

湖水地方で最も栄えている町の一つとのことでしたが、到着した午後3時頃で、すでに、町のほとんどの店が閉店準備をしており、閑散としていた。まあこのエリア、夏の休暇先として人気の場所だからねえ。。。(苦笑)。

でもそれでも、全国津々浦々ほぼ必ずある「ブーツ薬局」と「ホランド&バレット」だけは、まだ開いていた。英国内の薬局は開局時間を厳守することが、一大規定となっているから。

英国最大手「ブーツ薬局」と「ホランド&バレット」は、国内のどんな町にもある店の筆頭と言っても過言ではありません。そんな話は、以前、こちらのエントリ(⬇︎)にも書きました。

英国最大手ブーツ薬局の店頭の立て看板には「インフルエンザワクチンを今日接種しましょう」やら「今日、飛び入りで検眼ができます」と(写真下⬇︎)。

英国の薬局の秋冬の風物詩は、薬剤師によるインフルエンザワクチン接種サービスだ(ここ数年では、新型コロナウイルス COVID-19 ワクチン接種も含む)。それと、ブーツ薬局は、大きな店舗であれば、眼鏡、コンタクトレンズ、補聴器コーナーが併設されているところも多い。

それからブーツ薬局では各店舗ごとに「当店では、このようなサービスを提供しています」という案内看板を出し、そのサービス内容が説明されたリーフレットを置いている(写真下⬇︎)。

で、これらをよーく見ると。。。

「薬物中毒の置換・解毒サービス (Substance Dependency Service)」の案内もあった(写真下⬇︎)。この街、一見とても平和そうだが、違法ドラッグ使用者が多いのだろうと察した。

英国は「ドラッグ王国」であり、中毒患者の治療をごく普通の薬局で行なっています。そんな実情は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

新型コロナウイルスの自己検査キットも売られていた。「学生 10% 割引」だって(写真下⬇︎)。

あと、こちらの店舗は、乳幼児の調整乳製品の種類が豊富な薬局だった。事実上、この町の唯一の薬局のようだったから、需要があるのだと思う。

私は小児科の専門薬剤師ではないけれど、週末の業務中や夜間当直中に、問合せを受けることが多々ある。だから、ここぞとばかりに、これらの製品の一つ一つの違いが何なのかと、まじまじと見入ってしまった。薬局巡りは、究極の卒後教育の機会デス。

 

英国のビタミン剤・健康食品などを扱う会社の代名詞である「ホランド&バレット」(写真下⬇︎)

これまたよく見ると、ショーウィンドウには「学生 20% 割引」(写真下⬇︎)。学生は社会のお客さまですな(笑)

私、もし、現在履修中の大学院のコースの最終試験に合格しているのであれば、学生証、今年末で失効する。この街のいたるところに表示された「学生割引」を見て「何か買わなきゃ!」という購買意欲に煽られました(爆笑)。

 

その晩宿泊する予定であったホテルの前に、家庭医(=かかりつけ医)院があった(写真下⬇︎)。普通の民家を改造したような建物だった。英国の家庭医院は、日本のクリニックのように、一目見て医療施設だと分かるような外装や看板を掲げていないところが多数。

この医院の入口に、勤務する医師の名のリストが掲げられていたのですが;

典型的な英国人の苗字ばかりで仰天。ロンドンでは、今、大半の医師が、英国へ移民としてやってきた者かその子孫だから。ちなみに私が現在登録している南ロンドンの家庭医(=かかりつけ医)は、スリランカ人です。

こちらの家庭医院入口前には、尿・便・痰の検査に使用されるボトルと、採取後の検体を置く箱も設置されていた。多分、新型コロナのパンデミックで、人と人との直(じか)の接触を避けるために、このようなシステムがとられ始めたのだと思う。

各種検査についてと正しい検体ボトルを使用するよう、分かりやすく解説されていました

そうそう、英語で尿 (urine) と大便 (stool) は慣用的にそれぞれ「wee (ウィー)」「poo (プー)」と言う。日本語で言えば「おしっこ」「うんち」と言った言葉づかいなのであろう。私も日頃、職務中、患者さんに説明する時、urine や stool と言っても、理解してもらえないことが多々あるため、頻用している語。だから、この上のポスターで(括弧書き)された意図、よーく理解できる。

ちなみに、私、日本では、米国系キリスト教団体が運営する病院で働いていた。そこの初代院長は、第2次世界大戦前に来日した米国人医師だったそう。日本語を熱心に学び、診察も流暢な日本語で行っていたが、その先生が「ガンソウシテクダサイ」と言うと、患者さんは皆、意味不明でキョトンとしていた、と今は亡き上司(=薬局長)が笑いながら話してくれたことを思い出した。ガンソウ=含嗽=うがい。「含嗽」って、確かに、薬学の教科書でしか目にしなさそうな日本語よね。。。。(笑)。医療用語を一般の患者さんにどれだけ易しく説明できるかということは、世界中の医療従事者全員の課題なんじゃないかな。

私が日本で働いていた病院についてご興味のある方は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

 

この家庭医院の前には、門前薬局もあった。なんと、これまた「ウェル薬局」だった。

家庭(かかりつけ)医院の前にある門前型の「ウェル薬局」

今回の旅では、なぜか「ウェル薬局」に立て続けに遭遇したため興味を持ち、この休暇からの帰宅後、英国内の薬学雑誌を検索してみたら、こんな記事(リンク下⬇︎)も見つけた。

今、英国は EU から離脱した影響で、薬剤師不足となりつつある。だから、この「ウェル薬局」では、英国で薬剤師として働きたい外国人薬剤師へ、免許変換のための奨学金を日本円換算で130万円ほど出資し、プレレジ(=仮免許薬剤師)研修場所も確約し、薬剤師となった暁の初任給も 800 万円/年程度にする意向だとのこと。

当初は EU 加盟国内ですでに働いている薬剤師に限るとしているみたいだけど(→薬科大学のカリキュラムが EU 全体で統一されている背景から)、将来的には、日本人とかも応募できるようになるんじゃないかなあ。。。と私自身、予測している。

 

そんなこんなで、ようやく辿り着いたホテルにチェックインした後、疲れて数時間仮眠したら、すでにとっぷりと日が暮れていた。

夕食を。。。と思って、再び外出したが、マクドナルド(写真下⬇︎)しか開いていなかった(笑)。

 

で、この真夜中のマクドナルドを後にした後、これまた仰天するような「薬学紀行」に出くわすのであった。

 

その話は。。。

次回に続きます。

 

では、また。