日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

新型コロナウイルス再感染?(上)その経過とセルフメディケーションの記録

 

このところ久々に、体調を崩していました。

あれ? 何か変だなあ。。。と感じてから、なんとか回復するまでの期間、何と23日間(実質の病気欠勤は11日)を要したほどの、ここ数年なかった度合いでの具合の悪さとなり、

最後まで確定できませんでしたが、かかりつけ医院からの病名証明書は COVID-19 (新型コロナウイルス) 感染であったとして発行され、

そして今回、英国の国営医療サービス (NHS) の新しい仕組み(遠隔診療や薬剤師へのタスクシフト、ITを駆使した医療証明書発行など)も、一患者として実際に体験することになりました。

 

ということで、今回から2回に分けて、絶不調であった今月の私の「新型コロナウイルス再感染(でも、真偽のほどは謎。。。)」を振り返ってみたいと思います。

 

9月1日(日)

英国は通年、9月になると、急に寒くなる。そして今年の気温の下がり方は例年よりかなり急激だった。9月最初のこの日は、秋を通り越して「もう冬に突入したのかな?」と思えるほどの冷え込み様だった。

 

9月2日(月)

私は数ヶ月前から、呼吸器系内科病棟を担当している。週末明け、朝一番で病棟へ向かうと、新型コロナウイルス (COVID-19) 陽性の重篤患者さんが、数名入院してきていた。

久々のことで、私も、病棟のドクターの先生方も、どんな状況で、どの新型コロナウイルス治療薬を使用すべきかの記憶がすっかり消えつつあった矢先のことだった。

でもね、私は生来の小心者気質から、いつどんな時でも、同僚からの質問にできるだけ迅速に答えられるよう、日常の業務で必要なマニュアルやらガイドラインのサマリーを収めたファイル(写真下・左⬇︎)を、自分の小さな仕事カバンの中に持ち歩いている。ラッキーなことに、COVID-19 薬剤治療の院内ガイドラインも、まだそこに残っていた。医局長の先生は大喜びで「マイコ、それ、コピーに取らせて!」と(笑)

私のしわくちゃな紙切れ(写真下・右⬇︎)のガイドラインのコピーは、新聞の号外のごとく呼吸器系内科の先生方に配布された。それで新しく入院してきた患者さんの新型コロナウイルス (COVID-19) の薬剤治療が開始されたような有様だった。

私の職業上の生命線とも言えるファイル。フォルダー自体は、日本へ帰国するたびに 100円均一ショップで入手している。英国では、こんなにコンパクトで高品質のものが見つからないからね。。。

 

9月4日(水)

研修医の先生の中で、吐き気がするとか、気分が悪いと訴えたり、咳こむ者が数名現れた。

え。。。(ひょっとして)COVID-19 ?

と懸念したが、彼らは、翌日にはピンピンしていた。相変わらず咳込んではいたが。。。

それにしても、前日にあれほど体調悪そうにしていたのに、翌日にケロっとしているとは、本当に若さの特権よね(笑)

 

9月5日(木)

私自身、喉の痛みが出てきた。このところ、疲労が蓄積していたからね。。。と、ビタミン C のチュアブル錠(写真下⬇︎左)を頻繁に舐め始めた。病棟の看護師さんや研修医の先生も半数以上が咳込むようになり、そんな方々に囲まれながらの仕事では、何らかの感染症をもらってしまってもしょうがないな。。。と、ある意味、達観した気持ちでいた。でも、この日の時点では、病棟スタッフの中ではまだ誰も、新型コロナウイルスの感染は確認されていなかった。まあ、ただの風邪だろう。私も、今日ぐっすり寝れば、持ちこたえるだろう、と思っていた。

英国では風邪を引くと、皆やたらとビタミン C 錠を摂るようになります。それからこの写真の右側の製品は、英国の代表的なトローチ剤。ロンドンの日系医療クリニックでアルバイトしていた時、風邪で来院した患者さんのほぼ全員に出されており、大好評だったのを覚えている(→注:普通の薬局でも購入できます)

「風邪の時は、ビタミンC」という話は、以前、こちらのエントリ(⬇︎)でも書きました。

 

9月6日(金)

体調は悪化の一途にあったが、1日の業務をかろうじて乗り切った。

週末はゆっくりして、この体調不良を治すぞー、と思いながら帰宅。

 

9月7日(土)

前夜から鼻水が止まらなくなったため、この日、自宅近所の薬局を訪れ、プソイドエフェドリン (Pseudoephedrine) を服用し始めた(写真下⬇︎右)。去年の冬、日本へ帰国した際に購入した抗ヒスタミン剤(写真下⬇︎左)が自宅に残っていたが、眠気の起きない薬が欲しかったため。

コルゲンコーワ鼻炎フィルム α、日本へ入国したばかりでバタバタ急いでいる時に「水なしで服用可能」という便利さに惹かれ、羽田空港内の薬局で購入した。こんな素晴らしい剤型は、英国にはない。日本の製剤技術は、世界一です

世界中の製薬企業関係者が、日本の技術を賞賛している事実については、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

ちなみに、プソイドエフェドリンは、覚醒剤の原料ともなり得ることから、英国内の薬局での一度の販売薬が厳密に定められている薬剤の一つ。そしてその「最大販売量 / 回」は、英国の薬剤師国家試験で必ず出題される質問の一つとなっている。

それと、日本語名「プソイドエフェドリン」は、英語では「シュードエフェドリン」と発音します。日英で、随分と発音が異なる薬剤名の一つと言えますね。

日本語と英語でカタカナ表記や発音が随分異なる薬剤名について語った過去のエントリは、こちら(⬇︎)からどうぞ

 

9月9日(月)

朝起きてみて、まだ体調不良から回復できず、身体の重い自分がいた。

でもこの日、私は、在英日本大使館へ行く用事があり、そのために特別に休みを取っていた。

理想としては、その訪問をキャンセルし、身体を休めるべきであった。でもこの日以外、職場での休みが取れなかったことと、締切日のある急用であったため、大使館が所在するロンドンの中心街へと出掛けた。

やっとの思いで大使館での用件を済ませた後、視界が揺らぎ、足元がふらつき、街の雑踏の中を真っ直ぐに歩けなくなっていることに気づいた。

うわー、体調、急降下しているな。もしかして、新型コロナウイルス (COVID-19) に再感染したのかな? と近くの薬局に飛び入り、市販の自己検査キットと一般総合感冒薬を購入して帰宅した。

で、何年かぶりに、恐る恐るしてみた検査結果は。。。「陰性」

だったら、インフルエンザ。。。? 

この晩から、発熱し出した。

高熱と悪寒を繰り返し、意識が朦朧とした夜を過ごした。

 

9月10日(火)ー9月13日(金)

この日から病気欠勤。水分(写真下⬇︎一例)とフルーツ以外、何も受けつけられなくなった。そして、こんこんと眠った。よくぞこれだけ毎日ほぼ24時間眠れるな。。。と自分でも呆れるほどに。でも、間欠的な咳も出始め、どうにもこうにもベッドから起き上がることができない日々が続いた。

こちらの「ルコゼード (Lucozade)」、英国で老若男女知らない者はいないと断言できるほど有名なグルコース飲料。日本人は体調の悪い時、ポカリスエットを買いに走るけど、英国人はこれを飲むのが定番。で、今回、久しぶりにこれを口にしつつ、ふとボトルの裏面を見て衝撃を受けたのが、日本のサントリーが販売元になっていたという事実。知らなかったよおおお 😲😲😲!!!(一昔前は、英製薬会社グラクソ・スミスクラインから販売されていたはず。。。)

発熱が続いた時点から(とにかく眠りたかったため)興奮作用のあるプソイドエフェドリンを中止し、総合感冒薬を1−2日服用していた。鼻水が止まった時点で、総合感冒薬を中止し、咳専用のドロップ剤に切り替えた。そして、高熱でどうしても辛い時だけ、アスピリンとパラセタモール(=日本名:アセトアミノフェン)を頓服するだけに留めた(写真下⬇︎)。咳も9月13日までには、ほぼ消滅した。

私が今回服用した「セルフメディケーション」:英国の総合感冒薬(左)は、通称「ALL IN ONE」と呼ばれており、どの会社のものも、ほぼ、パラセタモール(日本名:アセトアミノフェン)[解熱・鎮痛]、グアイフェナシン [去痰・咳止め]、フェニレフリン [鼻詰まり解消] 3剤の組み合わせ。その後の咳止めとして服用したのは、西洋生薬剤(蔦とタイムとリコリスの混合チンキ)とも言えるもの(中央)。そして、右側のアスピリン+パラセタモールの合剤は、慢性頭痛持ちの私の日頃からの常服薬

でも幸いなことに、丸4日寝込んだ後の9月13日午後から、急に気分が爽快になり、ベッドから起き上がれるようになった。

現在、英国では、新型コロナウイルス (COVID-19) 感染後の自己隔離期間は5日となっている。よって、COVID-19 にしても、インフルエンザにしても、皆、かかりつけ医にも行かず、セルフメディケーションで自宅で1週間ぐらいゆっくりしていれば、大抵治るでしょ、ぐらいの考えだ。

今回の私のケースも御多分に洩れず、1週間弱ほどで、元気になりつつあった。COVID-19 自己検査キットも一式しか購入しなかったため、結局、再検査せず終いだった。

英国では「風邪ごとき」で医者のところへは行きません、という話は、以前、こちらのエントリ(⬇︎)にも書きました。

 

9月14日(土)

病み上がりであったが、調子が良くなってきたため、随分前から約束していた、在英日本人の友人たちとの昼食会へ出かけた。

交友関係の少ない私の、数少ない「友人」と呼べる人からのお誘いだった。ロンドン中心街のチャイニーズレストランで飲茶をし、屈託のないよもやま話をして、とても気分の晴れる時間となった。数日前までは寝たきり病人だった自分が、中華料理を食べれるまで回復したことが、嬉しかった。

 

9月15日(日)

完全回復ではなかったが、ちょっと頑張れば、明日から職場復帰できるだろうというところまで来ていた。

 

9月16日(月)

朝、出勤すると、仮免許薬剤師の一人が「今週は、マイコの病棟で働くよ!」と満面の笑顔で近づいてきた。

内心(えーっつ。。。。😨😨😨。まだ、病み上がりと言える状態で、呼吸器系内科病棟と一般内科病棟で働きつつ、学生の指導という仕事量は、正直、きついなあ。。。)と。

でも、手前味噌であるが、私は職場内で「若手薬剤師を臨床現場で教えるのに最も長けている薬剤師」とされている。それが毎年「口コミ」として広まっているようで、どの仮免許薬剤師たちも、私の担当病棟での実習期間を心待ちにしてくれている。

という訳で、その期待を裏切っちゃダメだと、頑張ることにしました(苦笑)。

でもね、学生を指導する時って、ほんとーに、注意力と集中力が必要。

例えば、その日の一コマのことだったのですが;

「カルボシステイン (Carbocisteine) って何に使う薬か知っている?」と聞いてみたら、即答で

「てんかんです薬!」と。

(え。。。?! な、な、何を言っているんだ。。。😳😳😳 あ、でも、分かったぞ!💡)

「ねえ、それって、もしかして、カルバマゼピン (Carbamazepine) とごっちゃになっていない?」

といった具合に(頭をフル回転させながら、かつ、平静を装い)教えたりすることが要されるからね 😆

英国の仮免許薬剤師研修の初期は、大体こんな感じですが、皆、一年間の訓練を通じて急成長していきます。約6年前のこちらのエントリ(⬇︎)で紹介した、当時 DOAC の薬剤名を一つも挙げられなかった仮免許薬剤師のカーティス君も、今やなんと、英国最高峰の大学病院の心臓外科専門薬剤師になっています。

こんな感じで、午前中2病棟(=計40名程度の病床数。その日の新患は7名)で働きながら、学生の教育・指導もし、正直ヘトヘトであった。でも、その仮免許薬剤師からは「マイコにマンツーマンで教えてもらいながら働くと、すっごく自信がつく。楽しい!」と。こちらこそ、そう言ってくれて、ありがとう!

しかし、であった。

その仮免許薬剤師が昼食に出かけた直後、私は、便意を催し、トイレに駆け込んだ。

以前の新型コロナウイルス (COVID-19) 感染時と全く同じ緑色の便(リンク下⬇︎)、しかも今回は下痢様だった。その後は、視界がかすみ、薬剤師としての業務上の判断もうまく下せず、このまま働き続けると、確実にミスを引き起こすな、という状態にまでなった。

私が 2020年12月、新型コロナウイルス (COVID-19) に感染した時の体験談は、こちら(⬇︎)からどうぞ。計3話のシリーズものとなっています。

午後1時、薬局の上層部に「本当に申し訳ありません。やはり体調が回復しておらず、これ以上働くのは無理です。もしこれからでも予約が取れたら、今日、かかりつけ医を受診します」と連絡し、再び病気欠勤となった。

這うようにして自宅に戻った途端に、ベッドに倒れ込んだ。

次に目を覚ますと、夜の8時だった。かかりつけ医受診の予約の電話をかける体力すら失い、失神状態で寝込んでいたのだ。

その後も、一晩中、高熱と悪寒を繰り返した。

 

この「新型コロナウイルス再感染?」の話は、次回へ続きます。

 

では、また。