日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

処方薬剤師免許取得への道(5)自分の専門と監督医師を決定

 

このエントリはシリーズ化で、こちら(リンク下⬇︎)からの続きとなっています。


2021年9月入学の扉が閉ざされたため、失意の中にいたが、4ヶ月後には、2022年1月入学の締切日がやって来る。

それに向けて、私は再び、走り出した。

 

まずは、上司のドナさんとミーティング。処方薬剤師免許取得についてのサポートを確約してもらい、文書に残した。

私の現在の上司「ドナさん」にご興味のある方は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)を一例としてどうぞ


それから、入学願書の一部として明示することが必要であった、処方免許取得を目指すに当たっての自分の「専門」を決めた。

英国で薬剤師が処方免許を取得すれば、法律上は「どんな薬も」処方できるようにはなる。しかし実際のところ「自分の専門外、つまり、責任が持てない分野の処方はやらない」ということになっている。

例えば、自分の専門が呼吸器系で、喘息治療薬の分野にて処方免許を取得したとしよう。その場合、免許取得後は、自分が受け持った喘息患者さんがうつ病を併発していても「ついでだから」と言って、不慣れな抗精神系の薬は、自ら処方しない、といった具合。

そのため、英国の処方免許取得の入学願書では、どの学校でも「免許取得後は、どのような分野での処方がしたいのか」を記入させる欄がある。

私が入学を希望していたロンドン大学キングスカレッジの願書では、それをさらに明確にさせる目的で;

「免許取得中の実務実習中に、処方する予定の薬剤をカテゴリー化せよ」といった質問まであった。

 

さて、私自身の専門分野であるが、当初「抗生物質の長期治療が必要な足潰瘍」が念頭にあった。しかし、それを職場の副薬局長に申し出ると「すでに誰かが選んだ分野は、ダメ」だと。病院内で、様々な専門を持つ処方薬剤師を増やしたいという意向によるものだという。残念ながら、上司のドナさんが「糖尿病由来の足潰瘍の抗生物質治療」で免許を取得したため、私のエリアはあまりに類似していると指摘され、別のものにするよう迫られた。

それで第2希望として「クロストリジウム・ディフィシル腸炎」を考えた。現時点の英国ではたった3剤の限られた抗生物質での治療なので、容易に免許取得できるだろうなと思ってね(笑)。しかも、患者さんがそれまで服用してきた薬剤の総見直しが必要な病態で、処方薬剤師として明らかに貢献できるエリアだと。

でも、その意向を上司のドナさんに伝えると「却下」された。

というのは、処方薬剤師免許取得課程では、大学院内での講義・実習の他、各自の職場内で最低 110 時間、実際に患者さんを診察し、処方に関するさまざまな訓練を積むことが必要とされる。

私の病院内では、110 時間の処方練習が行えるほど多くのクロストリジウム・ディフィリス腸炎患者さんが、9ヶ月間のコース履修期間中に「算出できないであろう」との予測からだった。

英国では、抗生物質の適正使用を目指し、クロストリジウム・ディフィリス腸炎発症患者さんの年間上限目標数が、どの国営医療 (NHS) 急性病院にも各病床数に合わせて定められている。そして、その人数を超えると、英国保健省に「罰金」を払うという仕組みとなっている。できるだけ最少に留めようと努力している病態なのだから、おいそれと患者さんは現れない(はず)。だから、実務実習で苦労するよ、と。

英国で使用されているクロストリジウム・ディフィリス腸炎治療薬。フィダキソマイシンは日本発のとても高価な最新特効薬。バンコマイシン内服カプセルも高価だが、英国のほとんどの国営医療 (NHS) 病院では、入院患者さんには、廉価の注射バイアル溶解液を内服してもらい、カプセルは退院薬のみに使用するという措置を取り、費用対効果を高めている

フィダキソマイシンは、日本が開発した薬であることを、私、つい最近まで知りませんでした。。。という話は、以前こちらのエントリ(⬇︎)で書きました。

 

それで困り果てて、一般的な「尿路感染症」か「市中肺炎」あたりにしようと考えた。しかし、この「ありふれた」感染症に羅患する患者さんが、慢性疾患を併発している場合、その網羅すべき範囲はあまりに広域だ。自分の手に追えなくなった場合、どの時点で専門医に引き継いでもらうかの線引きが、難しく思えた。

それで最終的に、自分の専門を「長期抗生物質投与が必要な骨髄炎」とした(写真下⬇︎)。本来の第1希望であった、抗生物質が必要な足瘍がさらに悪化した状態の患者さんを主に対象とするが、椎間板炎や整形外科手術後の感染など、より広範囲なものも含めるということにし、薬局上層部からようやく了承が得られた。

「処方薬剤師としての訓練・実務で、適した分野と、適さない分野があるんだな」

と、つくづく思い知らされた一件だった。

私が実際に提出した、ロンドン大学キングスカレッジ処方薬剤師免許取得コースの願書の一ページ。「自分の専門」と「処方する予定の薬剤」を挙げさせ、処方初心者としての安全性を図るため、コース課程の実務実習は、その分野の処方のみに限定するよう誓約させられました

 

そして、自分の専門を決めるのと並行して、勤務先の病院内で実務訓練を行うに当たっての監督医師も選出しなければならなかった。

医師であれば誰でも良いという訳ではなく、原則、医療現場で後進の育成に2年以上携わっているベテラン医師に限定される。

私が専攻する骨髄炎の診断・治療に精通しているということだけではなく、先生の人柄や相性といったことも重視した。それと、たとえ評判の高い先生でも、あまりに多忙な方であれば、私の実習に付き合ってくれる時間は自ずと少なくなるであろう、といったことも考慮した。

その結果、最終的に、私が依頼したのは「オン(恩)先生」という中国系マレーシア人医師(写真下⬇︎)。勤務先の関連病院の一つの緊急医療室長で、それまで一緒に直(じか)に働いたことはないものの、互いに面識のある先生だった。私が免許取得後、主に貢献したいと思っている抗生物質長期投与の点滴外来や、レビュークリニックも監修しておられる。そこで働くナースプラクティショナーさんたちが処方免許を取得した時の実務訓練も、オン(恩)先生が、一手に引き受けたとのこと。そのため、先生が忙しい時は、その看護師の方々が、私の実習の採点・評価をしてくれると仰って下さったため、心強いと感じ、お願いすることにした。

私の処方免許取得の実地訓練の監督医師「オン(恩)先生」。いつもこんな笑顔で患者さんに接している。医療教育に卓越した医師であり、敬虔なクリスチャン。そしてなんと、英国のグルメサイトやトリップアドバイザーに自身の評価を書き込む常連としても知られている。この写真は、その評判を聞きつけた全国版新聞 ('The Daily Telegram') の記者が、ロンドン市内の有名スイーツ専門店にて、彼がどのように「評価」を下すのかを取材した時のもの。だから、私の監督医師依頼にも「僕の『採点・評価』は厳しいよ」と笑いながら引き受けて下さいました 😅

 

このエントリはシリーズ化で、その後の話は、次回へ続きます。

 

では、また。