日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

見知らぬ街のスーパーマーケットの薬棚と病院を訪れてみた。英国・湖水地方編

 

このエントリは、こちら(リンク⬇︎)からの続きとなっています。昨年10月(かれこれ4ヶ月も前!)に、英国北西部カンブリア州で休暇を過ごした時の記録となっています。

 

湖水地方への入り口であるケンダルという街で、夜中に唯一開いていたマクドナルドで夕食をし、

ホテルの部屋が乾燥していたので、ミネラルウォーターが欲しいと飛び入ったこのスーパーマーケット(写真下⬇︎)、

英国 No. 1 の売上を誇るスーパーマーケット「テスコ (Tesco) 」。住宅地に溶け込んでいる店舗や、駅直結型、何でも揃うデパートのような郊外大型店など、さまざまな形態で展開しているが、こちらは町の中心の目抜き通りに所在していた小型コンビニ店

英国の市販薬の現状を知る絶好の機会となったので、ここにレポートする。

まず最初に「えっ?!」と目を引いたのは、こちら(写真下⬇︎)。英国の市販薬の代表格である「ニューロフェン(イブプロフェン)」や胃薬「ガビスコン」と並んで、なんと、花粉症・アレルギー全般に適応のあるフェキソフェナジン (Fexofenadine) が売られていたのだ。

フェキソフェナジン、知らぬ間に英国では、要処方せん薬 (POM = Prescription Only Medicine) から、薬局薬(P = Pharmacy) のカテゴリーを通り越し、一般薬(GSL = General Sales List)へ格下げされていた。ちなみに日本での用量は、大人は1錠 60mg を1日2回服用とのことですが、英国の市販薬は1錠 120mg を1日1回服用となっています。

日本では数年前まで、ジャニーズ「嵐」のリーダーさんが CM 宣伝をされていた「フェキソフェナジン(日本の商標名はアレグラ)」。英国では薬剤師不在の場所でも販売可能な薬となりました

私が数年前、日本への里帰り帰国中に「アレグラ」を購入したことについては、こちら(⬇︎)からどうぞ

英国の医薬品の3分類「POM」「P」「GSL」については、過去のこちらのエントリ(⬇︎)でも説明しています。

それから、新型コロナウイルス (COVID-19) の自己検査キットも売られていた(写真下⬇︎)。一回分 2.3ポンド(日本円 360円程度)という廉価で。でも英国では、各自で地方自治体へ連絡すれば、自己検査キットはいまだに、100回分/箱が無料で受け取れるようになっているのだけど。

こちらの棚には、これまた英国の市販薬のロングセラーが(写真下⬇︎)。痔の薬の代名詞とも言える「アニュソール (AnuSol)」、口唇ヘルペス治療薬「ゾビラックス (Zovirax) 、一般名:アシクロビル) 」、そして、カンジダ症に使用される「カネステン (Canesten)、一般名:クロトリマゾール 」。

階級社会の英国には、スーパーマーケットにも階級がある。その中でも「テスコ」は大衆層・低所得者をターゲットにしているため、商品の陳列がずさんであるところが多い

ちなみに英語で、ゾビラックスはゾバイラックス、アシクロビルはエイサイクロヴィア、クロトリマゾールはクロトライマゾールと発音している。

この「英国式薬剤名発音法則」の私的考察については、過去のエントリ(⬇︎)も是非どうぞ。

それから、私の日常生活での必需品「オルバスオイル (Olbas oil) 」も在庫していた(写真下⬇︎)。ちなみに右端の「Calpol (カルポール)」は、小児用アセトアミノフェンシロップの英国内での代表ブランド名。お子さんのいるご家庭には、必ず常備している薬のはず。

それにしてもこの棚、医薬品以外にも、なぜか、ケーキに飾るロウソクや、アーモンドの粉、そして海水浴に使うバケツが一緒くたに置いてあった。一体、どんな基準でこんな陳列になったの。。。? ここ、英国のドンキだね(爆笑)

オルバスオイルについては、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ



翌日;

今回の休暇の主目的である、スパ・ホテルに向かう途中で、こんな場所(写真下⬇︎)も通り過ぎた。

足治療医院。英語では Podiatry、米語では Chiropody とも呼ばれている

足治療医院って、日本ではよく知られていないかもしれないけど、英国の街を歩いていると、時々見かける。足治療師 (Podiatrist) は、英国ではれっきとした医療免許職で、足にできた潰瘍や、私が処方免許を取得した分野である骨髄炎も治療できる。そのため、抗生物質の使い分けとか、心疾患や糖尿病の総合的管理、適切な創傷の手当て、そして最悪のケースとなる足の切断を防止するなど、多岐にわたる医学知識・技術に精通している人たちである。

私が昨年取得した薬剤師免許の過程は、こちら(⬇︎)からどうぞ。今なお不定期に掲載しているシリーズものとなっています。ちなみに英国では、足治療師 (Podiatrist) へも処方権が与えられています。

 

で、ケンダルの街から、タクシーに 30 分ほど乗り、たどり着いたホテル(リンク⬇︎)。

かなり直前に予約したため、本館は満室で、離れの別館(写真下⬇︎)に泊まることになった。

人里離れた自然豊かな湖畔の隠れ家で、非日常的な時間をゆっくりと過ごすという趣向のホテルでした。客室は1日6組の限定。この広大な敷地を全部貸切にし、プライベートな結婚式を挙げるのにも人気の場所とのこと

ここに3泊したのだけど、私自身、処方免許取得のための大学院のコースが終了した直後で、もう疲労困憊でね。スパのセッションと食事の時間以外は、ほぼ全ての時間を寝て過ごした。

湖畔が一望できる部屋で、スパのトリートメントを受けたり。。。

野外のバスタブでリラックス。でも、日本の温泉の方が断然良いと、今回、つくづく実感しました

 

でも、こちらでの滞在中、一番面白かったのは;

全国津々浦々からいらしていた宿泊客6組中、私たちを含めて、半分が医療従事者たちのカップルだったんですよ、このホテル(笑)。

家庭医、心臓系の専門医、薬剤師、看護師、そして理学療法士たちだったようで、

「oo 州の心臓カテーテルの挿入訓練の日程は。。。」

とか、真剣に話し込んでいたから。

医療従事者って、私に限らず、休暇中も仕事のことが頭から離れられない人多いんだなと知り、今回、一安心。

大人たちだけの静かなホテルで、全員がほぼ同じ時間に朝食を取っていたため、他の宿泊客の会話が意図せず耳に入ってきた。そしてほぼ半数の方が、医療従事者であったことが判明

 

で、その「休暇中も仕事のことが頭から離れない」度合いの激しい私は、どんなに疲れていても、見知らぬ土地を訪れると、その周辺の薬局やら医療施設に立ち寄ることが止められない。

という訳で、こちらのホテルのチェックアウト時、帰りのタクシーの手配の行き先として「ここから最寄りの病院へお願いします」と言ったら、スタッフの方から「お具合が悪いのですか?」と(要らぬ)心配をされてしまったよ。。。(苦笑)。

 

ホテルを後にし、近隣の病院へ向かう途中、乗ったタクシーの運転手さんの奥様もなんと、医療従事者であることを知った。

そしてその会話を通して、このエリアの病院は常に低予算に苦しんでおり、スタッフたちは業務上に必要なコンピューターも一台を6名ぐらいでシェアしなければならず、それで仕事が全く効率的に行われていない、といった話を伺った。

ああ、これ、英国の国営医療サービス (NHS) の「あるある」だな、と頷けた。

英国の主要都市の大型病院は、首都ロンドンの病院群と比べても、はるかに施設・設備が良く、医療従事者への教育・訓練が充実している所もある(代表例:バーミンガム、リーズ、ニューカッスル、オックスフォード、ケンブリッジ、サウサンプトンなど)。でもその一方で、地方でも人里離れた病院の大部分は低予算で運営されており、設備投資もなく、人材不足の場所が多いのだ。

数年前、オックスフォード大学の附属病院を訪れた時のことは、こちらのエントリ(⬇︎)もそうぞ

 

で、到着した、湖水地方から最寄りの国営医療病院は、こんな感じだった。

英国北西部湖水地方にある「ウェストモーランド一般病院」

病院の全景は、こんな感じ。かなり老朽化の進んだ建物で、特に外壁はボロボロの状態だった。

 

早速、病院内にある薬局の場所を探してみた。

英国のチェーン薬局の2番手である「ロイズ」が請け負っていた。最近の国営病院は、外来調剤部門を民間の薬局に委託しているところが多くなってきている。病院内に民営の薬局が開局する際の規制もない。

以前、英国チェーン薬局2番手「ロイズ薬局」が国営医療サービス (NHS) 病院内への進出に意欲的であるという状況を説明したエントリは、こちら(⬇︎)もどうぞ

 

病院の廊下の壁一面には「院内改革」を訴えるパネルが(写真下⬇︎)。

 Plan (計画) とか Implement (遂行) 、 Sustain (持続) など、いかにも英国国営医療サービス (NHS) らしいスローガン用語が散りばめられていた

可愛らしいイラストと共に、この病院の小児科部門の現状と、その具体的な改善点の提案が盛り込まれたポスターも、廊下に張り出されていた。

じっくり見てみると、以下のような内容だった:

1)新生児室やその集中治療室内で、静寂な時間を設けるべき

2)「赤ちゃん日記」を導入して欲しい(→アプリを利用した、小児科病棟スタッフからご家族へ、入院中の赤ちゃんの日々の記録が写真と共に届けられるサービス)

3)病院の外来予約のお知らせの手紙の紛失防止(→これ、英国では目下、郵便局が断片的にストライキをしている影響もあるのだけど。。。)

4)小児病棟におもちゃがたくさんあるプレイルームを用意して欲しい

5)看護学生のレベルと質は素晴らしい。看護師の離職をいかに防ぐかが重要(→英国で、看護師の給与が良くないことは周知の事実。それでついに、昨年末、全国レベルでストライキが決行されたしね)

6)病棟と外来の協働を高める。特に退院後のフォローアップを改善すべき

7)全てのスタッフがハドルミーティングに集まって一丸となり、問題を解決しよう(→これ、私が現在勤務する病院でも、数年前から導入された。日本の朝礼夕改のようなもの)

8)職員食堂のメニューを増やして下さい。シェフが作ってくれるピザ🍕は美味しいけど(→え。。。この病院、従業員にピザを提供しているの?!)

9)病院の駐車場を増やして欲しい(→これ、私が現在勤務するロンドン郊外の病院でも、スタッフや病院へ見舞いに来る家族にとっての死活問題となっている)

そして最後は。。。

10)何で薬局で、長ーーーーーーーい時間待たされるの? 

という、グサリとくるご指摘が。。。(→ごめんなさい。。。でも、薬局の業務って、ただ棚から薬を取り出して、ラベルを貼り付けているだけぢゃないんですよ。。。)

「薬局での長い待ち時間」って、世界中で共通の問題なんじゃないかな。。。

「何で、薬局で長時間待たされるんだっ!💢!」という苦情に対応すべく、私の勤務先では「調剤の流れ」を説明したポスターを作成し、待合室に掲げています。そのポスターの実物にご興味のある方は、こちら(⬇︎)からご覧になれます。

 

よく言われている通り、英国の国営医療のサービス自体は国全体で標準化されている。でも、病院の財政状態によって、その提供具合や、そこで働く人たちのモチベーションには雲泥の差があるのも事実。そして根本では、どの医療施設も大なり小なり同じような問題を抱えているのだということをここで認識しつつ、ロンドンへの帰路についたのでした。

 

では、また。