日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

見知らぬ街の薬局を訪ねてみた。英国ハートフォードシャー大学薬学部内「キャンパス薬局」

 

先月、ロンドン北部近郊の州に所在する「ハートフォードシャー大学薬学部」に行ってきたのですが;

 

その時のことについては、こちらのエントリ(⬇︎)からもどうぞ

 

ここ、なんと、大学の校舎の内に、薬局がある。

その名も「キャンパス薬局」(写真⬇︎)。

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ハートフォードシャー大学内にある「キャンパス薬局 (Campus Pharmacy)」

 

数年来、ここを通りがかるたびに、「大学の中に、薬局があるなんて、珍しいなあ」と、思っていた。

 

大学関係者の方々からも、「ハートフォードシャー大学の薬学生は、ここで(ちょっとした)薬局実習もする」と伺っていた。

 

でも、

 

「ここって、本当に、『本物の』薬局なの? それとも、学生さんの実習場所としての、『人工的な』薬局?」

 

とか

 

「大学内の薬局って、一体、どのようなサービスを(特に)提供しているのだろう」

 

って、あれこれ興味が湧き。。。

 

今回、ついに、長年の疑問を解消すべく、色々と探索してみた。

 

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英国では、薬局の開局許可・登録は、全て「The General Pharmaceutical Council (通称 GPhC)」というところで、統括されている。そして、認可されている薬局は全て、こちらのウェブサイト(⬇︎)に登記されている。インターネット薬局も含めてだ。

The General Pharmaceutical Council (通称 GPhC) のサイトは、こちらです(⬇︎)

 

で、今回、ハートフォードシャー大学薬学部を訪れる前に、「キャンパス薬局 (Campus Pharmacy) 」を、こちらのウェブサイトから検索してみたところ。。。

 

わーっ、ここ、本当に「正真正銘の薬局」だったんだ!、と確認(⬇︎)。

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General Pharmaceutical Council (通称 GPhC) のサイトから検索した結果、こちらの「キャンパス薬局」は、ハートフォードシャー大学のベンチャー事業として経営している薬局であることが分かった

 

ちなみに、英国の薬局 (Pharmacy) は、店頭の看板に「緑の十字」を掲げることで、「ここは、薬局」と、国民に認識されている。上述の General Pharmaceutical Council (GPhC) が、薬局以外のビジネスやその他諸々に、「薬局 (Pharmacy) という名称を使用させず」、「緑の十字も使用させぬ」よう、厳重に規制している。

で、この「キャンパス薬局」にも、確かに、緑十字が掲げられていた(写真下⬇︎)。改めて、「ここ、本物の薬局だったんだ」と再確認。

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「キャンパス薬局」を、大学建物内の目抜き通りから撮影

 

薬局内部は、こんな感じ(写真⬇︎)。

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とてもベーシックな薬局で、全体的に、OTC 医薬品の品目が多い感じを受けた。というか、要処方せん薬が、カウンター越しからは、全く見られなかった。

でもね、奥の薬棚の裏側が、調剤を行う場所になっており、要処方せん薬は、そこに、目に触れないように陳列されているのだろうな、ということが、私には分かる。

 

というのは、英国の薬局のサービスは、「Pharmaceutical Services Negotiating Committee (通称 PSNC) 」という機構により、以下の3つにサービスが段階化されている;

 

「エッセンシャル(必須)」:薬局を開局する以上、必ず提供しなければならない、全国共通の業務。

「ローカリーコミッションド(地域契約)」:地域の医療機構によって各種サービスが画策され、支払いが行われるもの。そのため、その提供に、地域差が見られる。代表例は、禁煙支援。ちなみに、上(⬆︎)の「キャンパス薬局」カウンターの写真では、右端に各種「ニコチン代替製品」が見て取れるので、このサービスが提供されている様子。

「アドバンスド(高度)」:薬剤師の高度知識・技術が必要なサービス。全国統一された業務で、その提供に当たり、薬局の設備が整っていることや、薬剤師の認定が必要とされるものもある。

 

で、「エッセンシャル(必須)サービス」は、現在;

「医薬品調剤」「医療製品調剤」「リピート(リフィル)調剤」「医療安全対策」「公衆衛生(生活改善のアドバイス)」「不要医薬品の廃棄」「他の医療機関への紹介」「セルフケア支援(OTC 医薬品販売も含む)」

に小区分されている。

これを解釈すれば;

英国で「薬局 (Pharmacy)」と呼ばれる場所は、どこも例外なく「調剤」と「OTC 医薬品販売」を行わなくてはならない

のです。

つまり、日本の調剤だけを専門に行う「調剤薬局」も、OTC医薬品だけを扱っている「ドラッグストア」も、英国では「薬局」として認可されないのです。英国全土の薬局が、いわゆる「調剤併設型ドラッグストア」とも言い換えられる。だから、私、「あ、この『キャンパス薬局」では、カウンターから見えない場所が、調剤エリアになっているのだな」と推測できた訳。

 

英国の薬局サービスを審議する機構、Pharmaceutical Services Negotiating Committee (通称 PSNC) にご興味のある方は、こちらのウェブサイトから、どうぞ(⬇︎)

 

そして、こちらの薬局の入り口脇では、こんなものを発見(写真下⬇︎)。

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これ、英国の薬局で、時々見かける。薬局が閉店してから、処方せんを持って来局した患者さんが、このポストに処方せんを投函すると、薬局スタッフが、翌日の朝一番でチェックし、調剤をして取り置いてくれるというサービス。

 

それから、こんなものもあった。

性病クラミジア診断の自宅で行える尿テストだって(写真下⬇︎)。大学って、若い世代の人が多いから、これは需要がありそう。しかも、患者負担無料で行なっている! (→恐らく、前述の「ローカリーコミッションド(地域契約型)」で、その支払いは、この地域の医療画策機構が請け負っているのだと思う)

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薬局店頭には、「インフルエンザワクチン、今日接種しよう! 今からでも遅くないよ」との看板も(写真下⬇︎)

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インフルエンザ予防接種は、英語では、慣用的に「Flu Jab」と呼ばれている

 

英国では、インフルエンザ予防ワクチンは、薬局で薬剤師により接種するもの、という考え方が広まりつつある。その世相を反映してか、このサービスは、つい最近、英国の薬局で全国統一の「アドバンスド(高度)サービス」となった。

こちらの「キャンパス薬局」でも、そこに勤務する薬剤師さんが、その場で接種してくれる。7ポンド(日本円換算で 1000円程度)というのも、日本に比べて、かなり割安だと思う。

 

こちらの薬局では、薬剤師による海外渡航用予防ワクチン接種サービスや、マラリア予防薬も提供するクリニックも運営されている(写真下⬇︎)。学生って、長い休暇を取りやすいし、これらは全て自費での支払いとなるため、大学内薬局にとっては、いいビジネスに違いない。

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英国では、海外渡航用予防ワクチン接種やマラリア予防薬の販売は、薬局で行なっています。過去のエントリ(⬇︎)もご覧ください。

  

 それから、薬局内の各種パンフレットが手に取れる棚では、こんなものも見つけた

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英国では、家庭医(かかりつけ医)の予約が取りにくく、病院の夜間緊急医療室は、いつも生死を争う患者さんで溢れかえっている。そのため、薬局は、国民にとって、最も身近な医療サービス提供場所として認知されている。健康上で何かあったら、医者へ行く前に、まずは薬局へ相談する、というのが一般常識だ。

そんなことから、どのような場合に、どの医療サービスを適切に利用すべきか、という基準を示した看板も、こちらの薬局の脇に掲げられていた(写真下⬇︎)

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薬局の横を覗くと、隣には「メディカルセンター(家庭医院)」も設置されていた。

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英国で、家庭医院とは、俗に「Surgery」と呼ばれる。本来「外科」を意味する語のため、私自身、英国へ来た当初、意味不明、かつ、違和感を覚えた医療用語の一つ

 

大学のキャンパス内に、家庭医院があるのって、本当に便利でいい。私、英国へ来たばかりの頃、この国の医療サービスのことが全く分からず、しかも、私が入学した学校では、大学付属の家庭医院が、校舎外の建物に所在したため、その見も知らぬ場所へ行く道すがら迷いに迷い、「えらい目」にあったからねえ。。。。

私が英国で、一番最初に医師にかかったときの話は、こちらのエントリ(⬇︎)からどうぞ

 

ちなみに 、こちらの「キャンパス薬局」は、大学校舎内の目抜き通りに大々的に開局しているのに、一方、メディカルセンターの方は、その片隅にひっそりと位置している。こんなことからも、「薬局は、地域医療の中心的存在である」という英国政府の意向を汲み取って開局された薬局であることが見て取れ、(個人的には、すごく)嬉しい。

 

 

こちらのハートフォードシャー大学薬学部、ロンドン市内・近郊に所在する薬学部の中でも、一番交通の便が悪い。周りに何もないところに、突如大学を造ったような場所だからね。

そのため、大半の学生は、キャンパス内の学生寮で暮らしている。

だから、このように、大学内で薬局も開局され、医療センターも整えられたんだろうな。

 

私のロンドン大学薬学校大学院の恩師が設立した、このハートフォードシャー大学薬学部、ものすごく頑張っている。

 

ちなみに、英国の薬科大学は、3つのタイプに分かれている。

1つ目は、そのほとんどが100年以上の歴史を持つ、伝統的な大学

2つ目は、以前は「ポリテクニック」と呼ばれた、職業訓練高等薬学専門学校であったもの。これらの学校群は、1992年以降に、英国内での大学の数を増やすべく、大学薬学部へと昇格した経緯を持つ

そして、3つ目が、2000年中盤頃に、英国内の薬剤師不足を解消すべく開校された、新設大学。 

ハートフォードシャー大学薬学部は、「3つ目」のカテゴリーに入る。

開校当初は、入学生の定員割れなどが起こり、苦しいスタートだった様子。だから、この薬学部では、いかに魅力的な学校であることをアピールすべく、実に色々な試みがなされている。その一環だと思うのだけど、大学自体が薬局を経営する、というのも、かなり斬新な考えだよね。

 

そんなこんなで、今回のこの「キャンパス薬局」の訪問から、あれこれ考えを巡らせていくうちに、近々、このブログ内で、「英国の薬科大学の比較」をしてみよう、というアイディアが浮かんだ。

 

数ヶ月後に、掲載の予定でーす。

 

では、また。

 

<番外編> 

繰り返しますが、英国で「緑の十字」は「薬局のロゴ」。

だから、私は、日本へ休暇で帰国するたびに、工事現場の前(写真例⬇︎)で、いつもうろたえる。「へ? ここ、新しい薬局が建てられようとしているの。。。?」ってね(爆笑)。

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日本へ帰国するたびに、私は、工事現場の前で混乱する。。。(汗)