日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

見知らぬ街の薬局を訪れてみた。ロンドン・ガトウィック空港 北ターミナル編

 

今月の中旬、10日ほど、休暇を取っていた。

6年ぶりにクルーズ客船に乗り、地中海とその周辺諸国を巡った。

今回のクルーズ旅が始まる直前の、スペイン・マヨルカ島の船上からの眺め

色々な好条件が重なり、近年稀に見るほど疲労回復し、心身共にリフレッシュできた、本当の意味での休養期間となった。

毎日10−12時間よく眠った。好きな時間に起き、行く先々の国ならではの食事を楽しんだ。世界的な史跡や観光名所もいくつか訪れた。

 

でもね、私、見知らぬ国へ行くと、薬局巡りがやめられない(苦笑)

今回も、船が寄港した先々の街の薬局を、片っ端から訪れた。

 

そんな訳で、これから数回に分けて、今回の「地中海諸国の薬局紀行」を書いていきたいと思います。

 

まず最初は、出発点となったロンドン・ガトウィック空港。北ターミナルの保安検査場を通過した後の、英国最大手チェーン薬局「ブーツ (Boots) 」(写真下⬇︎)。

こちらは、今回のクルーズの始点となったスペイン・マヨルカ島まで行く飛行機に搭乗する直前に利用しました。

早朝・深夜発着の格安航空が多く乗り入れているロンドン・ガトウィック空港。ここで開局しているブーツ薬局は、なんと早朝3時から営業しています。ちなみに私はこの写真を午前4時台に撮影しましたが、この後すぐ、店内は旅行者たちで溢れかえり、会計を待つ人が薬局の外に並ぶほどまでになりました

ちなみに私、7年前にも、ロンドン・ガトウィック空港のブーツ薬局について、以下のエントリ(⬇︎)で書いています。こちらは南ターミナルの保安検査場の店舗です。

世界中の国際線で、100 ml 以上の液体を機内に持ち込めないようになってしまったのは、かれこれ20 年ほど前、ロンドンの空港から米国やカナダへ向かうはずだった複数の飛行機の同時多発爆破テロ計画が、未然に防げたことに由来しています(→使用予定であった、500ml の市販飲料ボトルに隠し入れていた爆撃剤を押収)。そのため、ロンドンの空港の薬局はどこも、100ml サイズの旅行トイレタリー製品が充実しています。ここの薬局も、例外ではありませんでした。実に店舗の4分の1ほどの面積を占めていました。

で、今回、それらを一つ一つ眺めていくうちに「英国の旅行用トイレタリー製品というものは、国内で『最も売れ行きの良い商品』ばかり」ということに気づきました。言い換えれば「日常生活の必需品」とも言えるべきものばかり。

ということで、今回のエントリでは主に、これらの一つ一つを解説してみることにします。私自身の使用状況や見解、それにまつわる思い出話とかも含めて。

 

1)日焼け止め

ブーツ薬局は、自社製品もたくさん扱っている。日焼け止め製品は、上の写真(⬆︎)の「Soltan」というブランド名で販売されている。

こちら、私自身も以前ずっと使用しており、手頃な価格で「妥当な」製品でした。一度、急に必要に迫られ、仏化粧品会社クラランスの高級日焼け止めを購入して使ってみたこともあったけど、正直、こちらの Soltan の方が断然良かったです。

でも、私が現在使用しているのは、以下(リンク下⬇︎)の日本のビオレ製品。この商品、日本国外に住む日本人、そして外国人にも愛用者が多いというのは、結構よく聞く話。

 

2)男性用化粧品

英国の男性用化粧品で一般的なのは「LYNX(リンクス)」「NIVEA(ニベア)」「GILLETTE(ジレット)」など。

特に最上段の「LYNX」は、日本のマンダムと言った位置付けの、英国で長年の歴史を誇る男性用化粧品会社。この写真にもある「AFRICA」シリーズが最も人気ある。英国人男性はエキゾチックなものを好む人多いから。

私自身、この製品には、一つの思い出がある。

英国の職場では、クリスマスの時期、どの同僚にも公平にプレゼントが行き渡るよう「シークレット・サンタ」というものを行うのが一般的。皆でくじを引き、贈る人(=自分の名)を匿名にして設定金額内のプレゼントを用意し、クリスマス・パーティの最中に、皆で一斉にそのプレゼントを開けるのだ。そして、そのプレゼントを受け取った人の反応を(こっそりと)窺い楽しむ、という慣習がある。

で、私自身、英国で働き始めてまだ2−3年目のクリスマス時のこと。

私が引いたくじに書かれていた贈り先の相手は、英国人の男性ファーマシーテクニシャンだった。

「え〜、何を買ったらいいか分からない。。。😨 」

迷った挙句、ブーツ薬局のクリスマス・ギフト売り場へ行った。すると、この LYNX が「この度、ギフトセットの中身を刷新しました」と大々的に宣伝していた。それがこの「AFRICA」シリーズだった。

「あ、良さそう!」とそのギフトセットを購入。

で、受け取った男性テクニシャン、本当に喜んでおり、私は内心、そっと安堵の胸を撫で下ろしたのだった。

ちなみにこちらの製品、20 年前と変わらぬデザインで販売していることを今回知り、感慨深いものがありました。

 

3)女性・ユニセックス用基礎化粧品

この写真の最上段の「Simple(シンプル)」は、黄緑と白のパッケージが特徴的な、英国の廉価で良質な基礎化粧品として、根強い人気を誇る。例えれば、日本の「ちふれ」に相当するブランドと言えよう。

この「Simple」にも、私自身、一つの思い出がある。

英国在住2年目、学生シェアハウスに住んでいた時代のこと。ものすごくユニークな人たちが大勢住んでいる住居であったが、その中の一人に、生活費や学費を補うため、男娼をしている人がいた。イケメンで、高級男娼のプロとして、身だしなみにものすごく気を遣っていた。で、この人が絶賛していたのが、この「Simple」化粧品だった。

ちなみにこの人、中学卒業後、英国陸軍へ入隊し、イラク戦争に出征した。除隊後、ベーコン工場で働きながら、コミュニティーカレッジにて高卒の資格を取り、ロンドン大学へ社会人学生として入学し、当時、考古学を専攻していた。卒業後、英国政府職員となり官庁に就職したが、突然辞め、バスの運転手になった。その後は IT 技術者となり、そして、今から数年前、地方議員に立候補したが落選したと、風の便りで知った。愛用している化粧品「Simple」の名とはおよそかけ離れた、複雑怪奇な人生を送っているが、この化粧品を巷で見かけると、 彼のことを、ひょこっと思い出す。

この学生シェアハウスに住んでいた時代と、そこの住人たちとの思い出については、以前こちらのエントリ(⬇︎)で一部紹介しています

 

4)歯磨き粉

この棚のほぼ半分を埋め尽くしているのが、英国の歯磨き粉の代表格「Colgate (コルゲート) 」製品。英国のみならず、世界中で発売されている製品だと思う。

そしてこの「コルゲートの歯磨き粉」にも、私には、忘れられない思い出が一つある。

1998 年6月、ポーランドを旅していた時のこと。

アウシュビッツ強制収容所を訪れ、クラクフまで戻ってきた時「そういえば、日本から持ってきていた歯磨き粉、なくなりそうだ」と気づいた。

駅前のキオスクで買おうとしたのだけど、当時のポーランドは、まだ共産圏国の名残があり、英語を話せる人がほとんどいなかった。私は身振り手振りで「歯磨き粉を買いたい」と伝えようとしたが、どうにもこうにも通じなかった。

そのやりとりを見ていたのであろう。若い男性が近づいてきて、助け船を出してくれた。「君、アウシュビッツで見かけたけど、僕も同じ帰りのバスに乗っていたんだ。何かできることある?」と英語で話しかけてきて。そして、キオスクの主人には、ポーランド語で「この女性、歯磨き粉を買いたいんだ。コルゲートない?」と言ってくれた。

彼のお陰で「コルゲート」を入手することができた後、話をしていくうちに、クラクフ市内で宿泊しているホテルが、なんと隣合わせということが分かった。互いに一人旅であったため「じゃあ、夕食を一緒にどう?」ということになった。一歩間違えれば危ない話であったかも知れないが、私が宿泊していたホテルのスタッフの方が勧めてくれた、中央広場沿いの洞窟のようなイタリアン・レストランへ2人連れ立って行った。

ポーランドとハンガリーに祖先のルーツを持つユダヤ人で、彼自身はユーゴスラビアで出生したが、その後、家族で米国に移住。カルフォニア州に在住しているという、私より2歳上の人だった。大手石油会社に勤務しながら、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校で MBA を取得したばかりで、2年間頑張ったご褒美に、祖先の国々である中欧各地を旅している最中だと話してくれた。今日、アウシュビッツを訪れ、祖父・祖母・親戚の名前を死亡者名簿に見つけ、言葉に尽くせない厳粛な気持ちになった、と。

私より2歳しか違わないのに、数ヶ国語を流暢に操り、一流大学を卒業し、すでに MBA を取得し、この休暇の後は、コンサル会社へ転職しようとしていた。明るく爽やかで自信に満ち、そして自身のキャリアに明確な上昇志向を持つ人を前にし、

「私も自分の人生で、もっと高い目標を持ち、冒険していいんだな。一体、何を躊躇しているんだろう?」

と(ふと)思った。

その晩、私は「日本を出て、海外に住む・学ぶ・就職する」という選択肢を、人生の視野に入れると心に決めた。

彼の名前は、ミドルネームも含めて、今でも覚えている。現在、どこで何をされているか、全く不明だけど、間違いなく、私の人生を変えた人の一人だったから。

 

5)ボディソープ

これぞ、英国を代表する製品ばかりが陳列されていた。ちなみに日本語のボディソープは、英語ではシャワージェル、もしくは、ボディウォッシュと呼ばれている。

最上段の「Original Source」は、原料が全て植物由来のもの。この写真にもある緑色の「ミント&ティーツリー」が一番有名だけど、実に様々な香りの製品を発売している。ただし私自身は、以前使用していたが、泡立ちが悪く、一度に大量に使いがちになり、コスパが悪いので止めてしまった。

3列目左側が「Radox」。恐らく、英国で最も普及しているシャワージェル。特にこの写真にある濃紺のボトルが印象的な「Radox for Men」は、英国に在住している男性であれば、一度はどこかで必ず使ったことがあると言えるほど普及している製品

3列目右側が「Sanex」。敏感肌の人に特化したシャワージェルの代名詞的存在

そして、4列目左側のオレンジ色の製品が「Sanctuary Spa Covent Garden」。ロンドン中心地コベントガーデン地区にかつて存在した、英国の伝説的なスパの施術で使用されていた製品を一般商品化したもの。

で、この「Sanctuary Spa Covent Garden」にも、私自身、遠い昔の記憶がある。

ロンドン大学薬科大学院2年目以降に親しくさせて頂いていた日本人薬剤師の友人の M さんが、在英中、このスパにちょくちょく通い、この製品を愛用していた。劣等生であった私は、大学院の勉強も就職活動も、文字通り髪を振り乱し青息吐息。一方彼女は、学業も就職活動もスイスイこなし、ロンドンのスパ情報にも詳しく、女磨きにも余念がなかった。

当時の私とM さんの目標は全く同じで、ファーマシーテクニシャン経由で、英国の薬剤師になることだった。その後、道は分かれ、M さんは現在、日本の大手製薬会社に勤務し、医療経済学者の第一人者として活躍している。

この Sanctuary Spa 製品を目にするたびに、英国に住み始めた時期、無我夢中で生きていた自分のことを、愛おしく思い出す。そして私は、紆余曲折を経て英国薬剤師になった今なお、相変わらず、毎日怒涛のように降りかかるチャレンジを克服すべく、髪を振り乱し、青息吐息で働いている(苦笑)

M さんについては、こちらのエントリ(⬇︎)でも以前言及しています。私、英国での最初の勤務先となった病院には、事実上、一足先に入局していた彼女の信用力で就職することができました。ゆえに M さんも、私の人生で欠かすことのできない大恩人です。

 

6)シャンプー

上段が「Aussie (オーストラリア人) 」と名付けられた、英国人にとって根強い人気のあるシャンプー。つい最近、このシャンプーは、米国のブランドであったという事実を知った。随分と、国際色のある製品。

そして下段が、ドライシャンプー。私自身、数年前、手術を受けた直後、一度だけ使用してみたが、使い心地がいまいち好きになれず、それっきり。でも、水の供給の乏しい国へ旅する時は、ドライシャンプーは便利ですよね。

上の写真にあるドライシャンプーを。私自身購入した時のことは、こちらのエントリ(⬇︎)に記しています。

 

7)整髪剤

下の写真の上半分の「Frizz Ease」、欧米の人々には絶大な人気を誇る商品。

私、日本で薬剤師として働いた最後の年、アメリカン・ファーマシー(現・トモズ)に勤務していました。当時、日米の架け橋的なドラッグストアとして、他では扱っていない商品を多く扱っていたことから、時々「以前、日本国外に住んでいた時に使用していて気に入っていたものなのですが、在庫していませんか?」と問い合わせがよく来る商品がいくつかあり、その一つがこの「Frizz Ease」でした。今の日本では、殆どの欧米商品が手に入るのに、この「Frizz Ease」は未だに販売していないようですね。不思議。

 

あらあら、気づけば、今回のエントリは、自らの昔の思い出話ばかりになってしまいましたが。。。。

この薬局を訪れた、本来の目的を忘れてた。私、最近、五十肩(→英語では俗に「frozen shoulder」と呼ばれている)に苦しんでいて、NSAID の塗り薬とかが欲しかったんだよな。。。 と、店内を探してみると;

え。。。。👀👀👀?!?!

なんとこちらの薬局で、日本の「Salonpas = サロンパス」を見つけました(写真下⬇︎)。

 

うわあ、日本の湿布剤の良さが、英国人にも分かってきたんだな、と即決で購入。

このサロンパスの箱を片手に、英国を脱出すべく、飛行機の搭乗口まで向かいました。

ちなみに、英国内で販売されているサロンパスの実物は、こんな感じ。開封した途端に、あの独特な香りが漂い、これまた昔の記憶が蘇りました

英国では、日本の湿布剤に相当する製品はほぼ皆無です。その理由は、以前、こちらのエントリ(⬇︎)で紹介しています。

 

「地中海諸国の薬局巡り紀行」は、次回に続きます。

 

では、また。