日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

イギリスで免許を変換し、薬剤師になる方法(5)

 

今回のエントリは、シリーズ化で、前回はこちら(⬇︎)になっています。


9)似て非なる道もアリ

前回までのエントリの要点になりますが;

「かかる予算は、最低300-500万円程度。恐らく、5年程度の準備・変換期間を要することになる。免許取得後、イギリスで確実に就職できる保証はない。薬剤師として働き始めてからも、卒後教育・訓練のため、最低5年程度は、引き続き在英できるような人であることが理想」

となれば、イギリスで免許を変換し、薬剤師になるというのは、誰もが気軽に選べるキャリア・生き方とは言い難いでしょう。

 

でも、イギリスで薬剤師にならずとも、その実務を「実体験」もしくは「垣間見」できる機会があります。

今回のエントリでは、そのいくつかを具体的に紹介したいと思います。

 

<英国の薬科大学への留学>

このブログでも度々書いていますが、私が20年前、渡英した当初の理由は、英国で実践的な「臨床薬学」を学びたかったからでした。

英国のいくつかの薬科大学院では、通常1−2年間の海外薬剤師向けの薬学実務・臨床薬学のコースが開講されています。これらの課程の大きな特徴は、大学院での理論的な授業の他に、国営医療病院 (NHS) での実習が含まれていること。

私が入学・卒業したロンドン大学薬学校大学院の「臨床薬学・国際薬局実務&政策修士コース (MSc in Clinical Pharmacy, International Practice & Policy) 」は、過去20年以上に渡り、世界中からの薬剤師を受け入れています。 

このコースの現在のサイトはこちら(⬇︎)です

私が在籍した時代の個人的な思い出は、こちら(⬇︎)から

ここでの学びが、私の人生を大きく変えました。私自身は、そのさらなる挑戦として、英国の臨床薬剤師になりましたが、歴代の日本人卒業生は、現在、ほぼ全員帰国し、ここでの経験を活かし、日本で活躍されています。

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ロンドン大学薬学校(現 The UCL Shool of Pharmacy)。私の人生を変えた学校。ここの臨床薬学・国際薬局実務&政策修士コースは、これまでにも多くの日本人薬剤師たちが卒業している

それから、このロンドン大学薬科大学院のコースに類似したものとして、ロンドン北部の州に隣接するハートフォードシャー大学の「高度臨床薬学実務修士コース (MSc in Advancing Clinical Pharmacy Practice) 」も挙げられます。こちらは、上記のロンドン大学薬学校のコースを開講した私の恩師たちであった先生方が、ハートフォードシャー大学薬学部を創設後、開講したもの。

このコースの現在のサイトはこちら(⬇︎)です

多分、現在のロンドン大学薬学校のコースよりも、より少人数制で面倒見の良い雰囲気になっているはず。高額の追加料金が必要ですが、6ヶ月という期間、大学近隣の国営病院の薬局や病棟でじっくり過ごすことができるのも、大きな魅力。

但し、これらのコース、入学願書を出す時点で、IELTS 6.5 に達していることが(絶対)必要。私が応募した当時 (1999年) はその草創期であったということもあり「IELTS 6.0-6.5程度の語学力」という条件で、すでに、日本で受験したケンブリッジ英検で「ファースト・サーティフィケート (FCE) 級」に合格していた私は、それで入学が許可され(てしまい)ました。でも、実際にコースが始まってみると、私の英語力の乏しさに、講師陣たちが唖然。翌年から「今後は全員、理想的には7.0、最低でも6.5を達していない者は入学を許可しない」という規定になってしまったのです(謝)。

そして、これらのコースの学費、現在は(私が在籍した頃とは比べものにならないほど)値上がりし、日本円で250-400万程度。生活費を含めると1−2年間の留学で450-600万程度が必要。 結局、イギリスで免許を変換し、薬剤師になるのに要する費用と大差ないか、それ以上を要することになります。

でも、これらのコース、卒業後は「いい仕事」が保証される。

過去の日本人卒業生の就職先は、聖マリアンナ、エーザイ、日本BCG、ファイザー、第一製薬、聖路加、北里大学病院、日本調剤の医薬品情報提供サービス事業部長、などなど。

という訳で、英国の「薬局実務・臨床薬学」に特化した薬科大学院のコースへの留学は、イギリスの薬剤師にならずとも、その実体験が得れ、日本での薬剤師としてのキャリアアップに繋がる、有意義な選択だと思います。

 

<ワーキングホリデーを利用する>

英国は、30歳以下の日本人へ、英国内で2年間就労できる「ワーキングホリデービザ」を発行しています。薬剤師とファーマシーテクニシャンは国家資格職なので無理ですが、ファーマシーアシスタントとして英国の薬局で働ける、絶好のチャンスです。

英国で、薬局スタッフの職種は「薬剤師」「テクニシャン」「アシスタント」の3種に大別されます。その概説は、過去のこちら(⬇︎)のエントリもどうぞ

で、このビザで仕事を得る「秘訣」は;

通常の就職活動もさることながら、求人を出していない薬局にも、最初は「無給でも可」と交渉し、試用させてもらうこと! 

日本ではどんなに有能な薬剤師であった人でも、英国内での職経験がないと、薬局側は雇用を躊躇します。でも、特に個人経営薬局は人手が欲しいので「当初はボランティアでも」と交渉すれば、喜んで受けつけてくれる所が少なくありません。そこでちょっとでも働いてみると、日本人の勤勉な働きぶりにびっくりされ、後日、有給の仕事をオファーしてくれたりすることもあります。たとえ雇用に繋がらなくても、英国の薬局実務経験は得られ、履歴書にもその旨を記載できるようになり、就職先をより迅速に手にする足がかりとなります。

ボランティアをしたり、実務実習をすること(⬇︎)は、英国で仕事を得るための第一歩です。過去に私が行なったこちらの「薬局実習」の話(⬇︎)も参考まで

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英国の個人薬局では、ボランティアワークを気軽に引き受けてくれるところが多いです。私も、約10年ほど前、街の薬局での実務経験を得るべく、こちらの西ロンドンにある小さな薬局にて数日間、無給で働いてみました。エジプト人のオーナー薬剤師(右)は、元英国大手チェーン薬局ブーツ (Boots) のマネージャーさんだったということもあり、短期間ながらもいろいろなことを教えて下さいました。左に写っている女性は、ファーマシーアシスタントとして働いていた方

私のロンドン在住の日本人薬剤師の友人の例を挙げましょう。彼女は、英国の薬局でアシスタントとして就職したいと考えたものの、一般求人募集での就職面接試験では良い返事をもらえない日々が長く続きました。でも、履歴書を片手に、自宅近隣の薬局を一軒一軒廻り、地道な活動を続けた結果、英国内でも超有名大学病院の外来を請け負う英国最大手チェーン薬局に「数日間の仮試用」を経て就職することができたのです。

大抵の日本人は、英国特有の就職面接試験で自分の能力を誇示することにハンデがあります。でも一度でも薬局現場で働かせてもらえれば、その実力を分かってもらえ、すぐに雇ってもらえたという大成功例。

現在は、ロンドン市内のホメオパシー薬局に勤務している友人ですが、英国最大手薬局に自ら乗り込み「数日間の仮試用」を経てその仕事を手にした時は、本当に感動しました。その詳細は、こちら(⬇︎)をどうぞ。ちなみに、彼女のブログでたびたび出てくる「Kさん」は、どうやら私のことのようです(笑)

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現在、英国の国営病院 (NHS) の外来薬局の多くは、病院建物内もしくは敷地内で開局されている民営の薬局(主に大手チェーン薬局)により運営されています

英国の街の薬局でのボランティアや職経験を積みながら、一般求人に応募したり、人材派遣会社にも登録しておくと、次第に、病院内薬局の仕事も得れるようになります。特に、ロンドンの国営病院 (NHS) 薬局は人の入れ替わりが激しく、スタッフが一人退職した後に、その後任者が正式入局してくるまでの「ギャップ期間に働いてくれる人」の手配を、よく人材派遣会社に依頼しています。そのような機会を掴み、好印象を残すと、いずれ常勤することも不可能ではないでしょう。

ただし、英国でファーマシーアシスタントとして働くということは、すなわち「薬剤師の助手」。主に薬局カウンターや調剤室での仕事、もしくは医薬品倉庫や病棟での医薬品在庫管理が業種となります。時給も安めの場合が多いです。

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英国の薬局カウンターで働いている人は、ほぼ全員「ファーマシーアシスタント」。資格職ではないため、ワーキングホリデービザで英国に滞在する日本人薬剤師に最適の職種です

 

<ロンドンの日系医療クリニックで働く>

また、英国に来たばかりで、最初から現地薬局で働くのは、ちょっと敷居が高いかもと感じる方は、ロンドンの日系医療機関の薬剤師職に応募してみるという手もあります。

私、今から7−8年前、ロンドン市内の日系医療クリニックの1つ(写真下⬇︎)でアルバイトをしていました。日系企業に勤務する駐在員やそのご家族が利用者の大半を占めますが、使用している医薬品は全て英国のもので、日英の医薬品の類似点や薬局実務の違いの「初歩」を知ることができる理想的な職場です。私自身も、それまで英国の薬局業界に10年以上居ながらほぼ無知であった、英国の小児・海外渡航予防接種スケジュールや、英国で流通しているワクチン製品と日本のものとの対比などを詳細に理解することができ、新しい学びがありました。

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ロンドン市内の日系医療クリニックの1つ「ジャパングリーンメディカルセンター」

現在に至るまで、英国で親しくさせていただいている日本人の友人たちは、こちらのクリニック勤務時代に出会った方々の繋がりが多く、ここは事実上、ロンドンに在住する日本人医療従事者たちのネットワークの一端を担っています。求人もある時とない時がありますが、英国で薬剤師として働く場所として1つの選択肢となるでしょう。

ただし、こちらで働くと、同僚は日本人ばかりなので、英語は上達しません(泣)。ご注意下さい。

 

「イギリスで、薬剤師の仕事を実体験する」方法は、まだいくつかあるのですが、長くなってきたので、今回はここまでで。

 

(不定期連載ですが)次回に続きます。

 

では、また。