日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

母校を10年ぶりに訪れた。英国ブライトン大学薬学部・海外薬剤師免許変換コース(上)

 

先日、ちょっと思い立って、「母校」を弾丸で訪れてみた。

今からちょうど 10 年前 (2010/11年)、日本の薬剤師免許を英国の資格へ変換するために通った「ブライトン大学薬学部 (School of Pharmacy and Biomolecular Sciences, University of Brighton) 」へ。

 

海外薬剤師が、英国の免許を取得するための1年間の課程 (= Overseas Pharmacists' Assessment Programme, 通称OSPAP) は、現在、英国内の5つの大学院で開講しています。そのうちの一校であるブライトン大学のコース概要は、こちら(⬇︎)のリンクからどうぞ。

ちなみに OSPAP を開講している大学院への入学は、志望者が独自に申し込みをすることができません。まずは英国の薬剤師登録機構である 'General Pharmacuetical Council (通称 GPhC) ' へ免許変換願いを申請し、GPhCからの「審査通過通知」と共に、入学希望の大学院へ出願するステップとなっています。

英国で免許を変換し、薬剤師になる方法は、こちらのシリーズ(⬇︎)もご参照下さい

 

10年ぶりにその場所へ行ってみたら、すっかり忘れていた当時のいろんな記憶が、堰を切ったように蘇った。今回のエントリでは、そんな私の思い出話も織り交ぜながら、ブライトン大学薬学部を紹介してみたい。

 

ブライトン大学は、英国の夏の海水浴場の代名詞とも言える、イースト・サッセックス州の海辺の街「ブライトン」に所在している。

でも実際のキャンパスは、ブライトンの東側の、これまた海辺の街として有名な「イーストボーン」にまでまたがる、計4ヶ所に点在している。ちなみにブライトンとイーストボーンの間は 30 km ほどの距離。東京 ↔︎ 横浜間とほぼ同じぐらいの広範囲だ。

私が以前、イーストボーンの街を訪れた時の記録は、これら(⬇︎)からどうぞ。 

 

薬学部のあるキャンパスは、ブライトン駅からさらにローカル線を乗り継いで2つ目の「モールズクーム駅」(写真下⬇︎)というところが最寄り。ちなみにここ、ブライトンの観光中心地の雰囲気とは打って変わった、山間と言った方が適切な場所。だから大学のイメージ写真としてよく掲載されている「素敵な海辺の写真」を見て、入学後「詐欺だーっつ!!!」と思わぬよう、要注意(笑)。

事実、私はこの大学に在学中、近場と言えど、ブライトンの海辺に行くことは、一度もありませんでした。新学期は日照の短くなる秋から始まり、集中的な授業や実務実習、試験の一部が寒い冬から春にかけて行われ、気候の良くなる春から夏にかけて課題物の提出や最終大型試験が相次ぐという年間スケジュール。しかもロンドンから通学していたので(ふらっと、授業の合間とかに)海岸に遊びに行くなんて、とても無理だったなあ(苦笑)。

 

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ブライトン大学薬学部キャンパスから最寄りの、英国鉄サザン・レイルウェイ線「モールズクーム駅

ここ、普段は無人駅。なので、ロンドンから来る場合、ブライトン駅まで(だけ)の乗車券を購入し、ブライトン駅⇄モールズクーム駅を無銭乗車する人多い。でも時々、駅員さんと警察官たちがそういった不正を取り締まっている。

万が一摘発されると、たとえ薬学生とあれど、英国の薬剤師登録機構 GPhC にも通報され、最悪、将来のキャリアが台無しになってしまう。「絶対に」しませんように。。。

 

駅の出口はこんな感じ(写真下⬇︎)。右側のメタリック色の建物が、もうすでに、ブライトン大学薬学部新館。

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この新館(写真下⬇︎)、私が通った年の前年に完成した。最上階が、薬局実務の実習をする大きなラボになっている。ブライトン大学では、処方薬剤師免許取得コースも開講しており、その最終 OSCE 試験もここで行われている。

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ブライトン大学薬学部新館校舎全景

薬学部新館正面玄関は、こんな感じ(写真下⬇︎)。

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ブライトン大学薬学部新館校舎 (Huxley Building) 玄関

 

そうそう。この薬学部新館の目の前に、学生寮(写真下⬇︎)が一つある。

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ブライトン大学薬学部に隣接する学生寮

ここ、かなり以前から運営されている「伝説の寮」。私の現在の同僚の薬剤師の中でも、ブライトン大学卒業だと「学生の時に(あそこに)住んでたよ」と言う人、けっこういる。校舎が目の前だし、勉強だけに集中できるから、最終学年の時に住むのが人気なのだとか。

私が在学した年の海外薬剤師免許変換コース (OSPAP) のコースメイトの一人も、ここに住んでいた。結婚したばかりのインド人女性だったのだけど「大家族で、皆で一つ屋根の下で暮らしていて、うるさくて勉強できない」という理由で。彼女は平日はここで一人で勉強に集中し、週末だけロンドン郊外の家族の元へ帰っていた。

ブライトン大学が直営する各学生寮の情報にご興味のある方は、こちらのリンク(⬇︎)からどうぞ


ブライトン大学の海外薬剤師免許変換コース (OSPAP) は、実際に大学で授業が行われるのは、毎週木と金曜日だけ。残りは自宅学習で可ということが、他のどの大学とも異なる特色であり魅力。だから当時は、私も含め、受講生のほとんどがブライトン圏外(→主にロンドン)に在住し、残りの日は、地元の街の薬局や病院で働きながらこのコースを履修していた。英国北部の大都市マンチェスターの国営病院でファーマシーテクニシャンをしながら、水曜日の夜の飛行機でブライトンに来て、ホテル住まいをしながら木と金曜日の授業に出席し、金曜日の最終便でマンチェスターに戻るという強行ぶりで、仕事と学業を両立させている者すらいた。

 

ところでブライトン大学は、英国内でかつて「ポリテクニック(通称:ポリテク)」と呼ばれた高等職業訓練校が起源。比較的近年である1992年に大学へ昇格した経緯を持つ。

この「元ポリテク」であった大学は、学問を極める場所というよりは、実務訓練を重視する学風のところが多い。

英国内の薬科大学は、歴史的に3つのタイプに分かれていると言えます。そんな区分は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

 

事実、ここブライトン大学薬学部では、まだ「ポリテク」であった時代から、地元の薬局・病院薬剤師たちに講義を任せた。そして授業の一環として、学生が近隣の大学病院や薬局で実務実習をするという取り組みをし、評判を博した。これらはいずれも、英国内で初めての試みであったため、その結果、ブライトン大学薬学部は「臨床薬学の教育に特に力を入れている」学校として、長年、高い人気を誇っていた。

でも現在、こういった薬学生向けの実践教育は、どこの大学でも行なわれるようになった。しかも英国では2000年代中盤から、意欲的な新設薬科大学も数多く開校されたため、現在のブライトン大学は、かつてほど優秀なレベルを誇る薬学部とは言えなくなってしまっているね。。。(泣)

 

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ブライトン大学薬学部旧館 (Cockcroft Building)。「元ポリテク」であった大学は、キャンパスも実用的で近代的な様相をなしていることが多い。

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薬学部旧館には「教務課受付」「食堂」「学生組合」「売店」「医療室」「図書館」「カフェ」などが完備している。

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そしてこの旧館ビルの1階には「学科試験場 (Exam Hall)」と呼ばれる大講堂が。私もここで「臨床薬学」「薬事法規・倫理」「ドラッグデリバリー」といった最終試験を、大勢の学生と共に受けた。10年が経とうとしている今でも、以前と全く変わらぬその外観に、あの時の臨場感がフラッシュバックし、胸のバクバク感が止まらなかったな。。。(苦笑)

 

こちら、図書館を外から撮った写真(⬇︎)。すごく充実した設備で、私、講義のない時間帯は、ほぼ全ての時間をここで過ごした。

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ブライトン大学薬学部キャンパス内の図書館。最上階の隅っこの窓際の席がお気に入りで、勉強の合間の気分転換に、この庭をよく眺めていた

 

ちなみに、私が在籍した年のブライトン大学海外薬剤師変換コース (OSPAP) は、50名ほどのクラスだった。毎年定員は30名とのことであるが、その当時、外国人留学生が英国に滞在するためのビザの規定の大幅な変更があり、「海外薬剤師が英国への免許変換を行える、最後の年になるかも」という噂が(まことしやかに)出廻った。だから、世界中から応募者が殺到し、ブライトン大学も、急遽受け入れ定員を増やした年だった。

私は2008年に永住権を取得(⬇︎)しましたが、英国は確かその直後に、外国人滞在ビザの大々的な改定を行い、現在に至るまで採用されている「Tier 制度」というものに移行したようです。

 

蓋を開けてみれば、それは結局「誤情報」だった。10年経った今でも、英国では相変わらず、海外薬剤師免許変換コース (OSPAP) が開校されている。志(こころざし)があれば、日本人を含めた世界中の外国人薬剤師が、英国の薬剤師資格を取得でき、ここで働くことができます。

でも、英国滞在ビザの発行規定の変更には、くれぐれもご注意を。不可抗力的に、人生を翻弄させられるからね。。。。

ビザの問題など、英国で薬剤師になることをお考えの方が考慮すべき点いろいろについては、過去のこちらのエントリ(⬇︎)を是非ご参照下さいませ。

 

この「ブライトン大学薬学部を10年ぶりに訪れた」話は、次回へ続きます。

 

では、また。