今回のエントリは、シリーズ化で、前回はこちら(⬇︎)になっています。
8)目指す人への注意事項
今回は、あえて、現実的な話をしようと思います。
イギリスで免許を変換し、薬剤師になるにあたって立ちはだかる「壁」いろいろについてです。
一般論ならびに、私がぶち当たった事例も含めて、ここに紹介してみます。
ケース1:人生に求めるものを明確にする
近年、日本の薬科大学は6年制となりました。そこを卒業し「イギリスで免許を変換する」準備をしたとしても、英国の薬剤師となるのは、最短でも30歳前後。ご自分の力で、日本で薬剤師として働いたお金を主な元手にやるとなると、現実には、さらなる年数がかかることになるでしょう。人生の貴重な時間、特に20-30代を「英国の薬剤師になる」ことに費やす、そして、それはうまくいかない可能性もあるものであるということを、くれぐれも熟考下さいませ。
特に女性の方で、結婚や出産を「絶対に」希望される場合、英国薬剤師への免許変換への道は、かなりリスクの高いものになります。途中、想定外であった事が、数多く起こるものなので。。。
でも逆に、例えば、英国在住中に英国籍を持つ人と結婚し、滞在ビザの心配も無くなり、英国の薬剤師になる可能性がより拡がるというケースもあります。英国の薬局業界、「出会い💖」が多いです(笑)
ケース2:免許変換申請に必要な語学試験 IELTS の得点 7.0 になかなか達しない
この試験に合格するまで、何年もかかった、という方をよく耳にします。その場合、私のおすすめは、一旦別の道を探ること。例えば、その勉強した英語力が活かせるような外資系製薬会社に転職するとか。そして、その新しい仕事の中で、語学力も自然とアップし、人生の次のステージで「また英国薬剤師免許へ挑戦」ということもできると思います。
私も、IELTS の受験自体は一回きりでしたが、実質5年ぐらいの(ゆるーい)準備期間を費やしています。
ロンドン大学薬学校大学院卒業後、是が非でも英国に残りたく、滞在ビザ延長の手段として「当座、英語学校の学生になろうか」と考えたことがありました。早速、近所の公立カレッジへ行き、そこの IELTS コース担当者にお会いしました。
私が20年前、渡英した当初の目的であった「ロンドン大学薬学校大学院」のコースについては、こちら(⬇︎)からどうぞ
でもその先生、私に英作文を一つ書かせ、ちょっと会話をしただけで、
「今の状態では、7.0は無理だね。あと1年はかかると思う」
とはっきりと仰ったのです。プロの先生でしたので、私の実力もすぐに見抜けたのでしょう。ちなみに IELTS は、他の英語語学試験と比べて「短期間でのスコアアップを望めない」試験としてよく知られています。
そこで一旦、IELTS は諦め、ファーマシーテクニシャンの職探しに集中することにしました。幸運にもロンドンの病院に就職できたため、そこで英国での薬局実務経験を得つつ、語学力も自然とアップすることにしました。そして、新しい職環境に慣れ、時間の余裕ができた時、こちらの学校(写真下⬇︎)を再び訪れ、IELTS試験対策の夜間コースへ通いました。そして、英国の永住権を取得した後に IELTS を受験したところ、自分ではさほど努力したと思えぬ状態でも、一回で合格したのです。
人生で遠回りしたと思っても、その道中でも、何かしら得るものはあります。
ちなみに、IELTS の受験を一旦諦め、英国でファーマシーテクニシャンの職を得た時の話は、こちら(⬇︎)もどうぞ。12話のシリーズとなっています。
ケース3:カルチャーショックに要注意
英国へ移り住んだ直後の「カルチャーショック」に要注意。英国、旅行で観光者として楽しむのと、実際に生活するのとは「全く」違う国です。よく言われていることですが、天気は悪いし、食事も不味い。私自身、アフタヌーンティーも年に数回するかしないか。バーバリーやアクアスキュータム、日本に住んでいた頃は大好きなブランドだったけど、皮肉なことに、英国へ移り住んでからは全く着ていません(笑)。
あと、海外免許変換コース (OSPAP) の学風にも要注意。世界中の薬剤師が一つのクラスに集まり勉強する訳ですが、当時、在英10年ぐらいを経過し、英国での多様性にも慣れていたはずの私にとっても、そこでのクラスメイトとの交流は、新たな衝撃でした。単刀直入に言えば、皆、我が強い(笑)。約束や時間にルーズ、グループ学習で貢献しない、話し合いがいつまでたってもまとまらない、露骨に競争的、同じ国出身同士の者が固まりやすい。。。などなど(苦笑)。英国に来て間もない者が多く、皆、自国での文化や価値観をそのまま持ち込んでいたからです。ちなみに、私が履修した年、日本人は私ただ一人でした。
ケース4:英国での就職口が探せない
英国薬剤師免許の取得と、英国内での就職は、全く「別個」のものです。日本の薬科大学を卒業し、日本の薬剤師国家試験に合格した能力があるのであれば、英国の海外薬剤師免許変換コースOSPAP も、プレレジ(仮免許薬剤師)研修を終了して英国の薬剤師免許試験に合格することも、さほど難しいものではありません(本当です!)。
一方で、日本人が英国で就職できるか否かは「労働許可書ビザ」の入手困難のために、時の運やさまざまなご縁もかかってきます。
でも、就職口が見つけられず、滞在ビザの有効期限が切れて日本へ帰国しなければならなくなっても、「英国の免許を取得した」ことにはなります。本当に志があれば、また英国へ戻ってこれる術(すべ)を探し、就職活動をすることはできるはずです。
私の日英薬剤師としての「弟分」的存在の人も、OSPAP終了後ビザが切れ、日本へ帰国せざるを得ませんでした。でもその数ヶ月後、英国に再入国し、見事、就職活動を成功させましました。詳細は、こちら(⬇︎)をどうぞ。
英国で暮らし、長年多くの就職希望者を見てきました。そして、自身の経験からも言えること、それは;
最後まで「諦めなかった人」が、勝つ! です。
ケース5:英国滞在ビザの規定の変更
英国のビザのルールは、しょっちゅう変わります。その不確実性を常に念頭に置くこと。
私自身「英国の永住権が取得できたら、免許変換コースへ行こう」と考えていました。ロンドンの国営病院にファーマシーテクニシャンとして就職できた際、幸運にも、永住権獲得に直結する5年間分のビザが発行されたからです。しかしそのビザ、当初は「4年働いた時点で永住権が申請できる」ものであったはずが、英国内務省の規定変更で途中から「5年」に変わり、文字通り一年を無駄にしてしまいました。でも、こればかりは、全くの不可抗力でした。
例えば日系企業の駐在員のご家族とか、すでに英国人と結婚されている方などは、ビザの心配もなく、より「英国薬剤師になりやすい」条件を兼ね備えていると言えます。でも、日本から一留学生として挑戦する場合「滞在ビザ」は、常に頭を悩ます問題となることを、ここに重ね重ね記しておきます。
私も、英国で就職し、永住権を取得するまでは、日々「今この瞬間クビにされても、後悔しない」働き方を心がけていました。「解雇、すなわち、ビザの喪失で国外退去」であったからです。
日本人が英国で就職する際に大きな壁となる「労働許可ビザ」については、こちらの私の体験例(⬇︎)もどうぞ
ケース6:予測不可能な社会的変化への対応
私自身、志ざしてから約10年をかけて英国の薬剤師になったものの、免許を取得できた年、英国は空前の薬剤師雇用氷河期になってしまいました。「何で、ここまで努力したのに無職になってしまったのだろう。。。一生を棒に振ってしまったな」と、それまでの人生の意味が揺さぶられるような経験もしました。これは極めて「極端な例」であり、現在、英国の薬剤師は再び、売り手市場に回復しています。でも、こういった社会的・経済的・職業的な動向変化は、今後も起こりうることでしょう。
という訳で、英国の薬剤師を目指す方には常に「何らかの『非常口』」を用意しておくことを、くれぐれも、おすすめします。
ケース7:海外生活では、お金が命綱
これね、私の大好きなピアニスト、フジコ・ヘミングさんの言葉の引用。著書の中で、留学中の貧困が原因で聴力を失い、そこから再出発した不遇の時代の回顧として、何のてらいもなく語っておられた。海外で勉強をする者に対し、これほどまでに的確な助言はないと、ハッとさせられた一文。
私自身、免許変換コース OSPAP 在学中、通学費を少しでも節約しようと、夜明け前の4−5時には自宅を出て、何時間も前に大学へ到着し時間を潰し、9時からの講義に出て、5時ごろに終わった後も時間を潰し、夜9半時ごろの復路の電車に乗り、ロンドンの自宅に真夜中に帰宅するという生活を一年続けました(注:英国の列車は、平日の通学・通勤時間のピーク時に乗車すると、高額な運賃となります)。その無茶なやり方のツケは、その後、明らかな体調不良となって現れた。十分な資金があれば、もっと快適に勉強でき、健康も保証されたであろうにと、うらめしかったです。
私の周りの日本人留学生を見ていると、大抵、卒業間近に資金が底を尽き、「破産」状態で帰国する人が大勢。皆、声高には言っていないけど。
難しいなあー、と思っています。自身の経験からも。
ケース8:常に1年先のことを考えておく
英国、日本のように、物事が何もかもスムーズにいく国ではありません。何かしようとすると、いつも「待たされてばかり」。
だから、英国で薬剤師になることを目指す人は特に「1年後、何をしているか・何をしていたいか」を念頭に置いて、日々、準備し、自ら行動していくことが大切。
具体的に言えば、免許変換申請準備と同時に、プレレジ(仮免許薬剤師)の研修希望薬局の下見や応募もし、場所を絶対確保する、とか
プレレジ研修中は、英国の薬剤師になった後に働きたい場所を見据え、その就職活動をいち早く開始する、とか
新卒薬剤師として働き始めたら、次のステップとして、どのような分野を専門にしたいのかを、アンテナを張り、見定めていく、
といった具合。常に2つのわらじを履くことになるので、決して容易なことではないけれど。。。
でも、これを心がけていれば、志半ばで夢を諦める、という事態を(できるだけ)防ぐことができます。
ケース9:英国薬剤師になってからの競争
これは、私自身の個人的な見方ですが、英国で薬剤師になった場合、最低5−6年程度は当地で働いてみないと、仕事の本当の面白さは実感できないであろうと、最近つくづく感じています。特に、英国国営医療サービス (NHS) の薬剤師の職は、明確な「階級制」となっているため、新卒薬剤師として働き始めた頃は、ホントに大変です。究極の下克上社会だし、ある意味、AKB48 の世界と似ています(→これ言うと、すごくびっくりされるのですが。。。笑)。
つまり、イギリスで免許を変換し、薬剤師になることをお考えの場合、少なくても、これから10年ぐらいを英国で過ごすことになっても問題がない方であることが、その挑戦の大前提になると思っています。
そんな訳で、今回は、かなり厳しいことばかりを書いてしまいましたが。。。
最後に;
ケース10:人生は、思いがけないことばかり
日本では「ダメダメ薬剤師」であった私が、英国へ来て、「臨床薬剤師」という仕事に可能性を見出し、どんなに人生が変わったか。
だから、もし、このブログをたまたま読んで下さっていて、日本での現状の仕事に何らかの疑問がある方がいらっしゃれば、世界の薬剤師市場は広く、日本の免許はイギリスで変換でき、実際に働けるのだということの一つの実例として、頭の片隅に記憶して頂ければ幸いです。
英国人の間で「薬剤師」は、安定した、失業の恐れのない職の代名詞。また、英国はじきに EU から脱退するため、今までのように EU 出身の薬剤師さんが優遇されていた時代は、もうすぐ終わる(はず)。勤勉で能力の高い日本人薬剤師にも、今後、英国でのチャンスは大いにあるであろうと、信じています。
「イギリスで免許を変換し、薬剤師になる方法」については、次回へ続きます。
以後は「似て非なる道もアリ」「今すぐできる準備」といった質問の答えを網羅する予定です。
では、また。