日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

イギリスで免許を変換し、薬剤師になる方法(1)

 

先日、本当に、唐突だったのですが;

「とある日本人の薬剤師さんが、英国で薬剤師になろうと考えていて、私にコンタクトを取りたいらしい」

という話を、ロンドン在住の日本人薬剤師の友人経由で受けた。

 

私、このブログに、自分の連絡先を記載していない。

でもね、その方は、色々な繋がりで、私を「探し出して」下さったの。

 

そのあり得ない「縁」は、以下の通り;

その方ね、まず、日本のテレビ局勤務の方へ事情を説明されたそう。で、そのテレビ局の方は、ご自分の後輩という、以前、ロンドンで特派員をされていた方へ「『日英薬剤師日記』というブログを書いている人を探し出してくれ」と依頼。

その元特派員の方は、ロンドンにある日系の旅行会社へ「『日英薬剤師さん』に心当たりはありませんか?」と問い合わせたとのこと。その旅行会社は「日英薬剤師さんは知らないけど、在英日本人医師を1人知っている。もしかしたら、何らかの情報が得られるのでは?」と、その先生を紹介。で、偶然にもその医師の先生が、上記の私の日本人薬剤師の友人とかつて同僚だったという間柄で。。。

ついに、私が「見つかった」、という経緯。

 

まさに「尋ね人」。いや、これを「国際『薬剤師』指名手配」と言わずして、なんと言おう(笑)

 

本当に、光栄です。

こういう風に「捜索」して下さったこと自体、「英国で薬剤師になろう」と真剣に考えて、行動を起こしている証拠ですよね。

 

で、その方と「英国で薬剤師になる方法」について、メールでいくつかやりとりをしていたのですが、ほどなくして

「一度、電話で相談させてもらえませんか?」

と。

そうよねえ、メールのやりとりでは、時間がかかるし、話の行き違いが無きにしもあらず。。。

ということで、先週、その方と国際電話にてお話することになったの。

 

で、2時間ほど会話をし、電話を切った後、

「今日、私が受けた質問とその答え、もしかしたら、これから『英国で薬剤師になりたい』と考える日本人薬剤師さんたちにも、何らかの役に立つ情報になるのでは?」と。

 

そんな訳で、質問の一部をリスト化し、ここに挙げてみることにします。

 

1)どうやって、免許を変換取得できますか?

英国の薬剤師の免許登録先は「General Pharmaceutical Council (通称、GPhC)」という機関です。日本の薬剤師免許を保有している者であれば、GPhC のウェブサイト内にあるこちらのページ(リンク⬇︎)の申請要項に掲げられている書類を全て揃えて、当局へ提出することが、免許変換取得への第一歩です。

日本の4年制・6年制の薬科大学のカリキュラムは、英国の薬科大学のものと(一応)同等のものとみなされています。そのため、GPhC へ必要な書類を提出すると、日本人薬剤師の場合、ほぼ例外なく「審査に通りましたので『OSPAP (Overseas Pharmacists' Assessment Programme の略) 』と呼ばれる英国薬剤師免許変換コースへ行って下さい」と通知が来ます。

英国薬剤師免許変換コース (OSPAP) は、毎年秋に、英国内の限られた薬科大学で開講されている「1年前後(→注:この「前後」の意味については後述)」の課程です。この課程を卒業することにより「英国の薬科大学を卒業したのと同格の資格」が得られます。OSPAP は、英国で薬剤師になろうとすべくやってきた世界中の薬剤師たちが一同に会して「国際薬剤師クラス」として学びますが、科目によっては(例:英国薬事法規とか)、その薬科大学の学部生の講義に混ざって学ぶものもあります。

免許変換コース (OSPAP) を卒業したら直ちに「Pre-registration Training, 通称 Pre-reg (プレレジ) 」と呼ばれる、1年間の義務実務研修を行わなければなりません。そしてこの一年に渡る実務研修の最後に、全国統一の英国薬剤師免許筆記試験があり、そこで合格すれば、晴れて「英国薬剤師」になれます。ちなみに、この「プレレジ」研修中は「仮免許薬剤師」という身分で、英国保健省教育機関からの財源で給与も出ます (年収日本円330万程度)。プレレジ研修先は、各自で探さなければならず、開始1年前の毎年6月頃、全国統一で募集が掲載されます(リンク下⬇︎)。よって、OSPAP 開始前に、研修場所を確保しておくべきです。

英国の仮免許薬剤師が行う義務実務研修「プレレジ (Pre-reg)」についての詳細は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)も合わせてどうぞ

 

2)今から準備して、大体、何年ぐらいで、英国の薬剤師になれますか?

人それぞれです。「最短で」5−6年でしょうか。

その内訳は;

GPhCへ「免許変換申請」に必要な数々の書類を用意・手配、そして提出。そしてその申請が受理され「免許変換コース (OSPAP) へ入学して下さい」という審査結果の知らせを受けるまで1年ほどかかるとみていい。ただし、人によっては、GPhC への提出書類の一つの英語語学試験「IELTS」で必要なスコアを達成できず、この免許変換申請のスタート地点に立つのに「何年もかかってしまう」場合もあります。

それから、OSPAP (海外薬剤師変換コース) 履修・卒業に1年前後。しかし OSPAP、現時点で、英国内の5校の薬科大学院が開講していますが、学校によって、カリキュラムや特色がかなり異なり、人気校は、すぐに定員が埋まってしまいます。自身の実例ですが、私が卒業した英国南部ブライトン大学の OSPAP は、当時 (出願 : 2009年、入学 : 2010年、卒業 : 2011年)、「ロンドンから最も近い薬科大学で、週に2日しか通学しなくて良い(=すなわち、実質パートタイムのコース)」という理由から志望者が最多で、毎年9月開講のコースに、前年の11月にはすでに受け入れ最大定員に達し、申し込みを締め切っていました。つまり、タイミングが悪いと、OSPAPへ入学するのに1年以上待たされるといったことも生じます

また注意すべき点として、OSPAP は現在、2種類の学位を授与していること。一つ目は「Diploma」という簡易的な学位で9ヶ月のもの。そしてもう一つは「MSc (Master of Science)」という修士号で1年ちょっとかかるもの。Diploma とMSc の違いは、コース課程の最終段階で卒業研究などを行い論文を提出するか否かだけの違いですが、現在、日本人が英国へ OSPAP 履修目的で入国する場合、Diploma では学生ビザが発行されないはずで、必然的に MSc (修士号) を取得することになります。すると OSPAP 卒業時期がずれ込み、通常毎年8月から始まるプレレジを、他の人より一足遅く始めることになります。その結果、翌年6月に行われる全国共通の薬剤師筆記免許試験の受験資格が得られず、次の9月の試験を受けることなります。9月の試験は、6月に不合格だった人の再試や、プレレジ実務研修の成果が思わしくなかった者が主な受験者で、OSPAP 履修海外薬剤師も、最初から「特殊枠」扱いされやすいのが実情です。

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私のブライトン大学海外薬剤師免許変換コース (OSPAP) 卒業証書。ちゃっちい紙切れ(笑)であるが、これにより、英国の薬科大学薬学部を卒業したのと同等の資格を得た(ちなみに私は、OSPAP入学時点で、すでに英国の永住権を取得していたため「Diploma コース」を履修しました)


また、英国薬剤師免許取得、イコール、英国薬剤師としての就職が保証されるという訳ではありません。英国の正統な薬学教育を受けた薬剤師たちと競って、就職口を探すことになります。日本人の場合、就職に際して、英国内務省からの「労働許可書」が必要となるため、他の応募者より不利になる場合がほとんどです。英国の薬剤師免許を取得することより、職を得るほうが難関と言えましょう。最初からロンドンをはじめとする人気都市で就職するのは、現在、ほぼ不可能です。ただし、日本人薬剤師は、能力そのものはとてもレベルが高いので、就職後の努力次第で実力を発揮し、次第に希望の職を得ていくことは、十分可能だと思います。

それから、英国の薬剤師は、免許取得後1−3年目の者は、まだ半人前と見なされ「ファウンデーション薬剤師」と呼ばれています。大方の薬剤師は、病院にしても薬局にしても、さまざまな部署や店舗を数ヶ月置きにローテーションとして廻り、色々な経験を積みます。この時期、大抵のファウンデーション薬剤師は、再度、大学院にパートタイムで戻り、薬局実務や臨床薬学の卒後教育を受けるのが普通です。なので実際に「英国の薬局実務に精通した一人前の薬剤師」となるのは、その後と言えます。

という訳で「英国薬剤師になるのには『最短』で5−6年」ですが、実際には、もっとかかるのが普通だと思います。

 

3)英国で薬剤師になるのに、年齢制限はありませんか? 

ありません。

ちなみに私は、29歳で英国へやって来て、41歳の時に英国薬剤師免許試験に合格しました。

免許を取得しても、就職先がなかなか見つからなかったため、長年の夢であった臨床薬剤師として働き始めたのは、42歳の時です。随分遅いスタートになってしまいましたが、ありがたいことに、英国の薬剤師は、他の医療職に比べて「社会人学生」としてなった者が多く、また「移民=外国人薬剤師が多い」ことも大きな特徴。

例えば、長年「ファーマシーテクニシャン」として働いた後に、薬剤師になる人がいます(例:写真下⬇︎)。私も、英国でファーマシーテクニシャンとして6年半働いてから、日本の薬剤師免許を変換したため、その1人と言えます。

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以前、私が英国で薬剤師になりたてだった頃に、一緒に働いたファーマシーテクニシャンのミッシェルさん。一児の母ながら、30歳直前で人生を考え直し「薬剤師になる」と決意。高校卒業の資格がなかったため、英国内の限られた薬科大学で開講している大学入学準備コースから始めた。月日は流れ、今年からプレレジ(仮免許薬剤師)研修開始予定

私が履修した OSPAP のクラスメイトの中には、祖国の内乱状態から英国へ亡命し「調剤なんか、一度もやったことがない」といった人たちも入学してきていました。世界は広く、薬剤師のレベルはまちまちです。こういった、さまざまなバックグラントの人たちに対してもチャンスを与えている英国の薬剤師免許変換制度は、本当に素晴らしいものだと(個人的には)思っています。

  

「イギリスで免許を変換し、薬剤師になる方法」については、次回へ続きます。

 

以後は「IELTSの勉強法」「免許変換コースOSPAPの概要」「英国薬剤師になるのに要する費用」「英国薬剤師としての仕事は楽しいですか?」「目指す人への注意事項」「似て非なる道もアリ」「今すぐできる準備」といった質問の答えを網羅する予定です。

 

では、また。