日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

イギリスで免許を変換し、薬剤師になる方法(3)

 

今回のエントリは、シリーズ化で、前回はこちら(⬇︎)になっています。

 

6)英国の薬剤師免許変換・取得まで、総額どのぐらいの費用がかかりますか?

ずばり「ピンキリ」です。個々の状況や進捗、日本からやってきて行うか、それともすでに英国にある程度の期間在住している者か、そして、英国での生活レベルでも、かなり異なったものとなるはずです。

とりあえず、必要最低経費は;

免許変換申請料(申請料そのものの他に、IELTS試験準備に要する費用、その受験料、日本で卒業した薬科大学からの卒業証明、科目一覧・成績表などの発行手数料、戸籍謄本の写しなどの手配料なども含む。そして、必要に応じてそれらの英文翻訳費用。その上、出願時にこれらの証書や本人の写真が「確かに正真正銘のものか」という法的な認証が必要で、弁護士との事務手続き料金もかかった。それから、申請書類一式の郵送費。必ず「書留・損害賠償保険付き」で送ること!)。この総経費に、日本円で恐らく最低25-50万円程度

免許変換コース OSPAP (= Overseas Pharmacists' Assessment Programmeの略) の年間授業料。学校によって異なりますが、現在、日本円換算150-180万円ほど

これらだけだったら、200万円前後でしょうか。

 

日本からくる場合、言わずもがな、渡航費が必要。忘れてならないのは、プレレジ(仮免許薬剤師)研修場所は、OSPAP 開始前に確保すべきものなので、その試験・面接などを受けるために、最低一度は、渡英する必要があります(もしくは、OSPAP開始前の数ヶ月前から英国に住み始める)。OSPAP を提供する各大学を事前見学する場合は、観光などを兼ねるにしても、さらなる回数の渡英が必要とされるでしょう。

そして、何より重要なのは、日本からやってきて OSPAP をやる場合や、英国にすでに在住していても永住権を持っていない人は、英国滞在のための学生ビザの申請や更新に、相当な料金がかかるはずです。この点に関しては、私、最新知識が(全く)ないので答えられません。ごめんなさい。

私、2008年末に永住権を取得して以来(⬇︎)、英国のビザ情報には、本当に疎いです。 

その上で、英国での生活費(家賃、食費、通学交通費、通信費など。必要に応じて、医療・家財保険とか)。英国の賃貸住宅は、殆どが家具付きなので、身一つで住み始められるけど、場所によっては、ベーシックな調理器具とか、勉強机とかを(慌てて)買う必要に迫られることもある。ちなみに、ロンドンに在住する場合、一人でフラット(=アパート)を借りると、住居費は半端なく高くつきます。学生寮も比較的割高。シェアハウスに住むと割安になるけれど、大家さんの人柄とか、誰と住むかで、生活の快適さは雲泥の違いとなるので、くれぐれもご注意。

免許変換に関しての教材は、私が卒業したブライトン大学 OSPAP の「指定教科書」は、全て学費に含まれる形で、コース開始時に、学校から履修生へ、新品のものがセットで配布されました(写真下⬇︎)。

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ブライトン大学 OSPAP (海外薬剤師免許変換コース) で使用された教科書の一部。全て、英国薬剤師たちの間では「定番モノ」ばかり。オリジナルの教材も充実していました

でも、科目の一つの「参考図書」(リンク下⬇︎)が、大学の図書館に限られた数しか在庫していなかったのにも関わらず、試験出題箇所が満載の本であったため、常に誰かに借りられており、私自身、試験前になって慌てて、自腹で購入せざるを得なかった思い出があります。

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それから、例えば、突然のコンピューターの故障の修理費とか買い替えとか、異国で暮らす上での予期せぬ出費は(常に)出てくるものだということを、念頭に置くべき。

OSPAPコース在籍中やプレレジ(仮免許薬剤師)研修中の休暇期間に、日本に帰国して骨休みをしたいとか、せっかく英国で暮らしているのだから、勉強の息抜きに、近隣の国々へ旅行したいよね、といったことをお考えであれば、その予算も必要に応じて。それからOSPAP終了後、プレレジ研修の薬局所在地の土地が変わる場合、その引っ越し費用も必要。

でも、OSPAP を終了すれば、プレレジ(仮免許薬剤師)研修期間は、給与が出ます。年収330万円程度。

薄給。。。? と思いきや、仮免許(プレレジ)薬剤師の年は、基本、訓練と勉強に明け暮れるため、私自身はものすごくシンプルに暮らしていました。有給休暇もできるだけ国試の準備の勉強時間に当てたかったため、大好きな旅行も(ほぼ)せず、貯金ができていたほど。大きな出費と言えば、英国王立薬学協会の会員費と英国薬剤師国家試験の過去問集(リンク下⬇︎)の購入ぐらいでした。

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私のプレレジ(仮免許薬剤師)研修時代。チューター (=個人指導薬剤師) であったユダヤ系英国人薬剤師シャロン先生と共に

そうそう、忘れてた。英国の薬剤師は、国家試験に合格した後、英国薬剤師名簿に名前を載せるための「登録料」が必要。それから、免許は更新制となっているため、毎年の「免許維持料」が必要。それと、医療訴訟が多いので、仮免許薬剤師(プレレジ研修)の時から個人で「薬剤師賠償責任保険」に加入すのが義務。これら、かなりの出費になります。

英国薬剤師としての諸経費の詳細は、以前のエントリにも書きました。こちら(⬇︎)をどうぞ

 

英国で薬剤師として就職するに当たっての「就職活動費」も、全国レベルで仕事を探すことになると、面接試験会場へ行く旅費がかさむ。今回の「コロナ禍」で、就職面接の大部分がオンラインで行われだしているので、将来、この傾向は変わっていくだろうとも思いますが。。。 

 

ちなみに私の「英国薬剤師になるために費やした総額」実例としては;

免許変換申請までに要した金額は、恐らく日本円25万円弱程度。IELTS の受験が一回で済んだことが大きかったです。あと、実は私、英国内の取引先銀行のミスで、免許変換申請料 (現在687ポンド=10万円程度) を全額、自分で払っていません(→えーっつ、なにそれ! でしょ。この「笑える話」ついては、いつかの日か、このブログでも書きたい)。

OSPAP 履修の一年は、6年半働いたファーマシーテクニシャンの職を辞し、学業に専念しました。当時のブライトン大学 OSPAP Diploma コース年間授業料は日本円 120万円程度。それと1年弱の生活費で、当初250万円程度の予算と考えていましたが、色々と予期していなかったことが起こり、途中から日本の薬業雑誌への毎月の連載(写真下⬇︎)での原稿料で収入を得て、何とか帳尻を合わせました。

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OSPAP (英国薬剤師免許変換コース) 在学中、急遽、収入源が必要になり、こちらの薬業雑誌社に「英国の薬局事情と、自身の英国薬剤師免許取得過程を実況中継する」企画を持ち込んだ。連載を即決して下さった当時の編集長さんは、私の今までの道のりで欠かすことのできない恩人です

プレレジ研修中は給与の中から貯金できていた一方、英国の薬剤師免許試験に合格してから、長い間、正規の仕事が得られず、アルバイト的なもので繋いでいたので、絶体絶命と言えるほど、経済的に大変な時期もありました。英国の薬剤師になるために費やした額の元が取れ始めたなと思えたのが、免許取得後4−5年目ぐらいの時。

でも、今振り返り、人生の本当にいい投資だったなと思っています。

 

 

7)英国薬剤師としての仕事は楽しいですか?

はい、とても楽しく、充実した職業生活を送っています。

で「何が具体的に、日本で働くのと違うのかな?」と改めて考えてみたのですが;

特に、臨床薬剤師業務が発展している

薬局内で、通常、ファーマシーテクニシャンやアシスタントが、薬剤師と同等の人数雇用されているため、薬剤師は「薬剤師にしかできない業務」に専念できる

免許取得後も大学院へ戻り、系統的な卒後教育を受けるのが当たり前。どの薬剤師も、教え、教わる立場にいる。

医療が国営事業の最たるものとして運営されており、国家主導の元「医療の効果・効率化」が追求されている。

特に、街の薬局のサービスが、日本の「ちょっと先」を進んでいる。その多くが、数年後、日本で、似通った形で開始される傾向にある。長年、このトレンドを数多く見てきて、私自身、日本がこれから薬局でやろうとしていることが、大体予測できるようになりました

薬局の仕事がとてもシンプルに構築されている。中学卒業程度でもなれるファーマシーテクニシャンや、薬学の知識のないアシスタントにも理解できるぐらいに業務を単純化させないと、医療事故に繋がり危ないという実情から

国の標準医療ガイドラインや薬剤フォーミュラリーの使用が徹底されている。だから「個々の医師の采配によるナンセンスな処方や治療」が、ほぼ皆無

多職種連携が当たり前。医師、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士、ソーシャルワーカー、退院コーディネーターなどが一つのチームになって、皆、それぞれの専門性を活かし、患者さんの治療に当たる「チーム医療」が浸透している

世界中からやってきた薬剤師・医療従事者と働くことができる(写真下⬇︎)

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英国の街の個人薬局の典型的な光景。英国で、生粋の英国人薬剤師を見つけるのは難しいです

薬剤師に対する、明確な「キャリアパス」が確立されている。特に、国営医療 (NHS) サービスの薬剤師は、役職や勤続年数で、給与額も一目瞭然。

やればやるほど「自分の実力が上がっていく」のを実感できる。昇格の機会も均等に与えられている

かっこいい「スター薬剤師」が身近にゴロゴロいる(写真下⬇︎)。そういう輝かしい人たちと仕事ができる喜びが大きい

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私の職場の臨床薬剤師の先輩たち。集中治療室主任薬剤師のステファニーさん(左)は、今回の新型コロナウイルス (COVID-19) パンデミック時の立役者(注:私の現在の勤務先、国内の最も早い段階で死者が出た病院でした)。サイモンさん(右)は、南西ロンドン腎臓透析・移植センターの主任薬剤師で、国家レベルで知られているエキスパート薬剤師。こういった「スター薬剤師」たちが、互いの専門分野の観点から、患者さんの薬剤治療を助言しあっているのを間近で聞けるのも、英国で臨床薬剤師として働く醍醐味

転職がしやすい。どの国営病院・薬局へ転職しても、英国の薬局業務のやり方は、ほぼ一緒だから

薬剤師の職種も豊富。街の薬局薬剤師、病院薬剤師、地域の医療を画策する組織の薬剤師、家庭医院勤務薬剤師、出版業界、大学教員など、適性やライフステージに合わせて、様々な仕事が選べる。

妊娠や出産を経ても、第一線に戻れる。パートタイムやジョブシェアなど、フレキシブルな働き方ができる

有給がきちんと取れる。現在、私の年間有給休暇は、なんと33日。

英国国営医療サービス (NHS) は、英国一、年金がいい職業団体らしい。老後は安泰だ(本当。。。?!)

 

色々、魅力あるでしょ。

 

あはははは。。。

 

「イギリスで免許を変換し、薬剤師になる方法」については、次回へ続きます。

 

以後は「目指す人への注意事項」「似て非なる道もアリ」「今すぐできる準備」といった質問の答えを網羅する予定です。

 

では、また。