日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

英国の風邪の時の対処法

 

今回は、英国での風邪の際の一般的な対処法について書きたいと思います。一応、前回(リンク下⬇︎)からの関連となります。

 

私は、風邪を引くと、基本、薬をできるだけのまないで治すほうです。服用するとしても解熱・鎮痛剤のパラセタモール(=日本名アセトアミノフェン)やアスピリンを最小限(写真下⬇︎)。そして、水分を多く摂り、ひたすら身体を休める。すなわち、こことぞばかりに寝る。

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英国で解熱・鎮痛に定番の「パラセタモール」(左)。どこの薬局でも、1ポンド (=135円程度) 以下で購入できます。アスピリンとパラセタモールの合剤(右)もあります

でも、今回は、風邪の引き始めから、あまりの鼻水の量の多さと、くしゃみの連発、そして、気管支が全部痰で詰まってしまったのではないかと思えるほどの窒息感と、それに伴う絶え間ない咳が一気に押し寄せてきた。さすがに、総合感冒薬を買ってみようという気になりました。

 

で、その日の勤務終了時、薬局のオフィスにいた同僚のステファニーさん(→集中治療室主任薬剤師)(写真下⬇︎)に、ふと興味本位で;

「総合感冒薬を買いたいんだけど、どこのが一番おすすめ?」

と聞いてみた。

そうしたら、彼女、笑顔でたった一言

「一番(価格の)安いやつ。みんな一緒だから」と。

「。。。。はあ?」

 

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薬局のオフィスで、私の隣の隣のデスクに座っているステファニーさん。フランス系英国人で、出生と幼少期を香港で過ごしたというバックグラウンドを持つ。私が勤務する病院薬局にて、プレレジ(仮免許薬剤師)研修をし、その後、臨床ローテーション薬剤師→入院(トライアージ)病棟専門薬剤師→集中治療室主任薬剤師と、次々に内部昇格してきた。将来、薬局長レベルを嘱望されている、尊敬する先輩です

 

早速、勤務先の病院から最寄りのこちらの薬局(写真下⬇︎)へ立ち寄ってみました。

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英国大手チェーン薬局「スーパードラッグ (Superdrug) 」。英国内で、日本のドラッグストアの形態に最も似通った薬局だと思う

で、仰天した。

総合感冒薬は、なんと、これ(写真下⬇︎)しかなかった。

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英国大手チェーン薬局「スーパードラッグ」の総合感冒薬コーナー

どれがいいかなあと、一つ一つの製品の箱の側面や裏をひっくり返し、成分を比較してみることにした(写真下⬇︎)。ちなみに、英語で総合感冒薬は「ALL IN ONE」と呼ばれている。

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事実上、こちらの3社の総合感冒薬しか販売されていなかった

左が、英国の風邪薬の代表ブランド「レムシップ (Lemsip) 」(製造・販売:レキットベンキーザー社)。こちらの薬局の総合感冒薬の棚の半分以上を占めていた。この陳列棚を買い取っているの? と思えるほどの展開(→注:レキットベンキーザー社は、独占禁止法的に問題のある会社なのではないかとして、英国では時々話題に上がる)。

中央は、英国を代表する(というか、世界でもトップクラスの)製薬会社、グラクソ・スミスクライン (GSK) から販売されている総合感冒薬の「ビーチャムズ (Beechams) 」。レムシップとは対照的に、一番下の棚に押しやられていた。ご高齢者などで、身体を屈めない人には、手に取るのが(絶対に)無理な位置。総合感冒薬の販売において、GKS は、レキットベンキーザー社に完全に負けている。

そして右が、こちらの薬局「スーパードラッグ (Superdrug) 」のプライベートブランド (PB) 製品。で、これ、ほとんど在庫がなかった。3つの中で最も安価で、一番売れているのが、一目瞭然だった。

 

そして何と。。。

3つの異なる製薬会社から発売されているこれらの総合感冒薬、全てパラセタモール(解熱・鎮痛)、グイアイフェネシン(去痰)、フェニレフリン(鼻水・鼻づまり)の3成分で一緒。しかも、それぞれの各成分の含有量が(ほぼ)同じ分量だったのです!!!

 

ステファニーさんが言っていた「どれも、一緒」って、冗談ではなく、本当だったんだと驚愕。

 

でも、まあ、これ、私も英国の薬剤師だから(同僚に聞かずとも)知っておくべき事実だったんだけどね(汗)

私、英国の薬局業界にかれこれ15年ほどいるけれど、ほぼ、病院一筋でやってきた。街の薬局で働いたのは、仮免許薬剤師研修の年、2週間実務訓練した経験のみ。だから英国のOTC 薬の個々の商品知識にはあまり精通していない、というのが言い訳でーす(謝)

私の仮免許薬剤師時代の、街の薬局での研修の詳細は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

 

で、結局「一番安い」こちらの薬局スーパードラッグのプラベートブランドのものを購入しました。成分は皆一緒なのだから、名の知れた製薬会社のロゴが入っているファンシーな外箱に余分なお金を払う必要はないよね、と思って。

これぞ、個人レベルでの、ジェネリック薬の使用推進の実践。

 

それから今回、さらにお得な情報を得た。

お会計の際、バッグから財布を出そうとした際、私の国営医療サービス (NHS) 従業員用ネックストラップを目ざとく見つけたスタッフの方が;

「NHS にお勤めですか? こちらの会員カード(写真下⬇︎)を作ると、私どもの薬局の全ての商品がいつでも10%割引ですよ」と。

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英国の2大ドラッグストア「ブーツ (Boots) 」と「スーパードラッグ (Superdrug) 」の会員カード

英国内では大手チェーン薬局「ブーツ」の会員カードが有名(写真上⬆︎)。1ポンド(日本円135円程度)の買い物につき4ポイントがつき、1ポイント=1ペンスの換算として電子コインとなる(1ポンド=100ペンス)。その他にも、優待券とかボーナスポイントとかも定期的にメールされてくる。だから、ブーツの会員カードは、英国のリテール業界では、1−2位を争うほど魅力のあるものとして知られています。

英国の代表的な薬局チェーン「ブーツ」についての過去のエントリは、こちら(⬇︎)からどうぞ


一方、スーパードラッグで最近始めた会員カードは「国営医療サービス (NHS) 従業員」を優待。

ライバルのブーツに対抗すべく、英国の医療従事者のほぼ全員を味方につけるって、すごく上手な戦略だなと、いたく感動しました。

そんな訳で、さっそく入会。その場で割引をしてもらった総合感冒薬(4日分)で、今回の風邪の治療費は、総額わずか6.1ポンド (=800円程度) でした(写真下⬇︎)。安かったなー。 

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それから、今回は、英国人が風邪の際によく行う対処療法も、一つ紹介;

こちら、オルバスオイルという製品です(写真下⬇︎)。主成分は、メンソールとユーカリの混合油。

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鼻づまりの軽減薬として、英国国家医薬品集 (British National Formulary, 通称 BNF) にも収載されています(写真下⬇︎)。

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オルバスオイルの主成分(メンソールとユーカリ油)の蒸気吸入は、英国国家医薬品集 (BNF) にも収載されています

英国国家医薬品集 (BNF) についての詳細は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ 

ちなみに英国薬剤師免許試験では、高血圧の持病を持つ方への風邪薬の販売方法が、頻出問題として出題されています(写真下⬇︎)。原則「パラセタモールとオルバスオイル」しか販売できない、というのが正解です。

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英国薬剤師免許試験問題の一例。風邪薬の販売に関するケーススタディは、頻出問題のうちの一つ

だから、英国の薬局であれば、オルバスオイルは、どこでも必ず在庫しています(写真下⬇︎)。

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本家本元の商品であるオイルの他にも、鼻噴霧器や、トローチ製剤としても販売されています

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小児に安心して使用できる薬としても知られています

私、今からかれこれ15年前、スペイン人の助産婦さんとシェアハウスで一緒に暮らしていた。ある日、彼女がキッチンテーブルの上で、大きな鍋に湯を張り、湯気が立っているそのお湯にこのオルバスオイルを数滴垂らし、顔をその鍋の水面すれすれまで突っ込み、その湯気を無言でひたすら吸い込んでいるという、仰天するような光景を目撃した。それが、この「オルバスオイル」の存在を知った最初でした。

その後、自身のプレレジ(仮免許薬剤師)時代に、同期であったレバノン系ベルギー人の仮免許薬剤師さんと、研修の一環として「英国の風邪の時の対処法」という共同プレゼンテーションをしたことがあった。幼少期はベルギー、子供の頃はドイツとフランスでも過ごし、レバノンの薬科大学を卒業した彼は、オルバスオイルはこれらのどこの国でも頻用されている、と話していました。オイルをティッシュに数滴垂らし、それで鼻をかむようアドバイスすると言ってたな。米国でも発売されているようなので、これ、日本では見かけないけど、世界では一般的な「風邪の対処法」なのだと思います。

ちなみに私は、このオルバスオイルを、バスタブの端々に垂らし、シャワーを勢いよく浴びながらその蒸気を吸い込むという使い方をしています。鼻づまりが軽減されるだけでなく、全身もリフレッシュできます。

また、頭痛の時には、数滴をこめかみに直に塗ったり、肩こりの際は、それでマッサージをしたりといった使い方もできます。なので、私は、風邪の時に限らず、このオイルを自宅に常備しています。

 

以前にもこの話をしたことがありますが、英国では「風邪ごとき」で、医者の所へは行きません。特に今の時期、家庭医医院への予約は取りにくいし、大病院の緊急医療室は重症患者さんで溢れかえっているし(写真下⬇︎)、待合室でのストレスで、よけいに体調が悪くなること必然だからです。

私が英国へ来て初めて風邪を引き、家庭医へ行った時の話は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)からどうぞ

 

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英国の国営病院の緊急医療室の入り口には、どこでもこのような掲示がなされています。「現在、重症患者が殺到しています。緊急でない場合は、近所の薬局を利用して下さい」と。

だから、風邪の時は、まずは「薬局」へ行く。そこで、市販薬を購入・服用し、それで様子を見、それでも治らなかったら、家庭医の予約を取る、というのが常識。

そんな状況から、どんな国民にも分かりやすいように、総合感冒薬の種類も成分も限定されたほうが、迷いがなくて良いのかも、しかも、そのほうが、廉価のジェネリック薬も容易に手に入るしねえ、などと今回、自身の経験からも実感したところがありました。

日本の市販薬は他社との差別化を図るべく、さまざまな工夫が加えられています。それこそが、日本の開発技術の凄さの真髄。でも、実のところ、そのちょっとした違いで、風邪の回復が劇的に向上するとは、思えない。。。 タミフルですら、半日か1日程度の回復の短縮だしね。

 

そんなこんなで、医療の費用対効果をことごとく図る国で暮らしていることを、また改めて再確認した機会となりました。

 

では、また。