先週の土曜日は、東ロンドン地区の、ここ(写真下⬇︎)へ出かけてきた。
「英国臨床薬学大会 (The Clinical Pharmacy Congress) 」(写真下⬇︎)に参加するため。
英国の、特に国営医療サービス (NHS) に勤務する薬剤師は、利害関係のあるところから接待・金品を受け取ってはならないという、厳重な決まりがある。
だから、日本ではごく普通に行われている、製薬会社さんの薬局への訪問とか、製薬会社さん主催の勉強会といったものは、ほぼない。
でも、例外があり、その一つがこの「The Clinical Pharmacy Congress (英国臨床薬学大会) 」
世界中の100 社あまりの製薬会社がスポンサーとなり、英国の実務薬剤師たちが一同に会する、年に一度の「臨床薬学大会」。製薬会社の他にも、英国の薬科大学や薬学出版社、薬学卒後教育センターや、専門薬剤師会なども協賛している。要するに、ここへ来れば、「英国の臨床薬学の『今』」が分かる総会。
英国では、このような「薬学の大きな催し」も、日本に比べて、断然、数が少ない。
極端な話;
この、毎年春ー夏にかけて、ロンドンで行われる「The Clinical Pharmacy Congress (英国臨床薬学大会) 」と
毎年秋に、英国中部の都市バーミンガムで行われる「The Pharmacy Show (英国薬局ショー) 」
だけなんじゃないかな。
英国王立薬学協会 (The Royal Pharmaceutical Society) に入会していれば、毎年秋に開催される年次総会へも出席できるけど、こちらへは、別途の(高額な)会費が必要。だから、参加者する人は、ごく一部の人たちに限られている。私自身も、何年もこの英国王立薬学協会の会員になっているけれど、一度も出席したことない。。。
でも、この「The Clinical Pharmacy Congress (英国臨床薬学大会) 」へは、ほぼ毎年参加している。参加費は、£499 (日本円で7万5000円程度) と一般価格表示されているけれど、この大会のオーガナイザーは、英国内で働く薬剤師に対しては、ほぼ全員、参加費を無料にしてくれている。しかも、通常、金・土曜日の2日間で行われているのだけど、国営医療サービス (NHS) の薬局スタッフで金曜日に参加したい人に対しては「卒後教育研修の機会」として、勤務扱いとしてくれる場合が殆ど。
という訳で、今回のエントリは、この「臨床薬学大会」のレポート。まあ、私は、今年、土曜日の午後のみの参加だったのだけど。。。(→ 先々週から週末の日夜当直を挟み、12日間連続勤務。あまりの睡眠不足で、土曜日の朝早く起きれなかったというのが、主な理由。泣)
すごく大きな会場です。約150 ほどのブースが立ち、2日間の間で200以上もの講義やカンファレンスが行われていました(写真下⬇︎)。
会場到着後は、早速、色々なブースを見て廻りました。
で、時間になったので、お目当ての「Urgent & Emergency Care (緊急医療) 」という題の講義に参加しました。
今、英国では、薬剤師が「どれだけ緊急医療分野に関与できるか」ということが、大きな課題となっています。その国家戦略の研究者であり、かつ、現役で緊急医療薬剤師として勤務されている方 (Mr Stephen-Andrew Whyte) の講義でした。
私は、現在「感染症専門薬剤師」として働いていますが、もし、この分野を選んでいなかったら、恐らく「緊急医療専門薬剤師」を目指したであろうな、と思うほど、緊急医療には、興味があります。
英国では、現在、国営医療 (NHS) 病院の緊急医療室を訪れる3割の患者さんは、薬剤師で対応できるか、もしくは、今後、薬剤師の職能の拡大により、対応できるであろう、という話でした。
そして、それを実現するために、薬剤師として、今、この瞬間からできることは? という質問を参加者全員へ投げかけるような講義となりました。
それから、「ファーマシーテクニシャンの職能拡大」という講義(写真下⬇︎)にも参加しました。
この上の写真(⬆︎)の演者、英国内の「精神科専門ファーマシーテクニシャン」として、恐らく最も著名な方 (Ms Neelam Sharma) です。
私、英国で6年半ファーマシーテクニシャンとして働いていた時代、精神科を専門としていました。その「英国薬剤師になる準備期間」を無駄にしたくなくて、英国中部バーミンガムに所在するアストン大学薬学部と掛け合い、英国の精神科専門薬剤師を目指す人のほぼ全員が受講する、認定講座とも言うべき卒後通信教育を、2006-2007年にかけて、その講座初の「海外薬剤師」として、受講を特別許可してもらった経緯があります。
でも、その年、なんとこの方も「英国初のファーマシーテクニシャン」として、私と同様に、講座担当者に直談判し、そのコースを受講していたのです!
久しぶりに見かけた彼女と、相変わらず、インスピレーションと意欲溢れるその活躍を目の当たりにし、感銘を受けました。
実は、この「The Clinical Pharmacy Congress (英国臨床薬学大会) 」、参加者たちにとっては「同窓会」的な要素も含まれています。
ロンドンならびにその近郊の薬剤師は、ほぼ全員来場するから、以前勤務していた場所での元同僚とかに「絶対に」会う(笑)。そして、その再会の会話では、共通の知り合いのゴシップに花を咲かせる(爆笑)。そんな中、自分がどれだけ薬剤師として成長しているか否かを、再確認する時でもある。
私自身、今年は、以前、ファーマシーテクニシャンとして勤務していた精神科専門病院のコンサルタント薬剤師、副薬局長、教育・訓練専門薬剤師たちに、それぞれ、立て続けに鉢合わせ。。。
それから、現在の勤務先の大学病院で、3ヶ月ほど前に退職していったファーマシーアシスタントさんにも出くわし。。。
でも、一番驚いたのは、英国内で数少ない日本人薬剤師の一人である「ノリコさん」と、会場のトイレの前で、ばったりと会ったこと。互いに、本当にびっくり。嬉しい再会だったなあ!
英国内で数少ない日本人薬剤師の一人であり、私の尊敬する友人の「ノリコさん」についての過去のエントリは、こちら(⬇︎)からどうぞ
そんなこんなで、小休憩を挟み。。。
引き続き、色々なブースを見て廻りました(写真下⬇︎)
そして、また、講義に戻りました。題目は「スペシャリスト・ジェネラリスト薬剤師」。
この講義の、鍵となるメッセージは;
「今、薬剤師のキャリアの道は、一つのモデルでは到底収まりきれなくなってきている。専門を極めるのはもちろんであるが、ジェネラリストとしての基盤も忘れずに」
ということでした。
実は、この講義の題名でもある「スペシャリスト・ジェネラリスト薬剤師」、今回のこの大会中、幾度となく耳にした「新用語」であり、私自身、色々と考えさせられました。
私が、英国で薬剤師となった頃は「専門バカ?」と思えるほど、周りの同僚は皆、勢い勇んで「専門薬剤師」になりたがっていました。薬学教育のロードマップもそのように定められ、専門薬剤師になれば昇給する、といったレールが敷かれていた時代でもありました。そのため、皆、免許取得後1−2年も経たないうちに自分の「専門」を決め、昇格していきました。でも、そのように、基礎を固めず、専門を目指した臨床薬剤師たちが、今、伸び悩んでいる時代になってきているのです。
私は、当時からそういう風潮に「?」を感じており、入局した病院でも、異例の長さと言えるほど、基礎ローテーション業務を続けました。そのため、同時期に入局した同僚の中でも、昇格が最も遅い薬剤師の一人となりました。自分の専門を(一応)「感染症」としたのも、この分野だったら、引き続き、幅広い領域の患者さんに接することができるから、という理由が主でした。薬剤師が「専門」を一つに絞る(そして、それ以外の分野では無知でもいい)という考えを、心の中で、ずっと疑問視していたからです。そして今、私は、浮き沈みの激しい英国の薬剤師の同世代の者たちの中でも、有難いほど充実した職業生活を送っています。
人それぞれの見方があると思いますが、やはり、臨床薬剤師は、
「自分が選んだ『専門』を極めると同時に、全ての分野にも(それなりに)対応できる『ジェネラリスト』であるべき」
という私の直感、間違っていなかったのだな、とか
「薬剤師のキャリアは、短距離競走ではなく、長期マラソンと捉えるべし」
などと、自身に言い聞かせるような時間となりました。
で、この「スペシャリスト・ジェネラリスト薬剤師」の講義が、今年の大会の最後のプログラムであったため、後はこちらのブースをちょっとだけ覗いて、帰宅の路につきました。
この「The Clinical Pharmacy Congress (英国臨床薬学大会) 」、特に今年は、EU圏からの薬剤師もたくさん来場していました。
日本人の薬剤師さんでも、ロンドンの観光を兼ねつつ、十分楽しめる大会だと思います。事前に問い合わせて登録すれば (https://www.pharmacycongress.co.uk)、英国外からの参加者でも無料入場できる場合もあるようなので、今後のご参考になれば、幸いです。
では、また。