今回のエントリは、シリーズ化で、前回はこちら(⬇︎)になっています。
朝食が終わると、上司のドナさん(写真下⬇︎)がお見舞いに来てくれた。というか、偶然にもその日、私が入院した「特別需要病棟」の担当薬剤師になったとのこと。その後は「集中治療室」と「骨折外科病棟」でも働くという激務ぶり。
だから「今日は、優先順位をつけてやることにする。患者マイコ・コクブンの薬歴聴取並びに薬剤治療の最適化は、自分でやってね。任せたよ!」と(爆笑)。
「コ・アモキシクラブ注射」を投与されたんですよ、といったら笑っていた。良い上司だ。。。
そんなこんなしていると、先ほど朝食を給仕したおばさんが「昼食は何にする?」と聞いてきた。朝食を食べたばかりで、まだお腹一杯なんだけど。。。。でも、なるほど。病院の厨房というところは、何百人という患者さんの食事を、限られた時間内で用意しなければならない。だから、こうやって常に先回りして聞いてくるんだな。
メニュー表を見ると、その日は金曜日ということで、本日のおすすめは「フィッシュ&チップス」とあった(→注:英国では、古くからの伝統で、金曜日は「魚料理」を食べる習慣になっている)。
英国の代表的料理「フィッシュ&チップス」の写真は、こちら(⬇︎)からどうぞ
きょえーーーーーっつ。病人食に、あんな油ギトギトしたものを提供しているの?! 手術後の身体にはちょっとな。。。。 ということで、主食は「トマトとチーズのオムレツ」、副菜は「ライス」と「サラダ」、それからデザートに「ゼリー&クリーム」を頼んだ(写真下⬇︎)。
給仕のおばさんは「オムレツとライスなんて、最低の組み合わせだな」と、ぶっきらぼうに言い放った。
英国で暮らしていると、こういった人に(時々)遭遇する。典型的な英国人で、「自分の常識」から逸脱しているものを受けつけられない人。日本人にとっては、卵焼きとご飯って、一緒に食べる定番だよねえ。
しばらくすると、どこからともなく一人の大柄なロシア系男性看護師が近づいてきた。とても怖い顔をして。
「お前、シャワーを拒否したんだってな。なんで拒否したんだよ!」と言いながら。
「え。。。? 拒否ではありません。術後ですし、このように静脈カテーテルもまだ挿入されていますし、今日退院しますので、シャワーは、今日、自宅に戻ってからでも浴びれます。問題ないと思いますが。。。」と答えた。
「それが、許されると思ってんのか?!」と言い捨てながら、立ち去った。
すごい剣幕で怒られ、私は、何が何だか訳が分からず「ぽかーん」。
この病院は、全ての物事において、患者への対応が遅い。お昼ちょっと前、ようやく一人の女性医師が私の元へやってきた。今まで一度もお目にかかったことのない、退院事務手続きを専門に行う役割の先生のようだった。
で、この先生も、私の今回の「手術→緊急入院」の状況を(よく)把握していなかった。これまた自ら「今までの経緯を1から10まで」説明するはめになった。
そして、自分が勤務する病院で、私自身、職務上それなりに「退院に必要な手続き」が分かっていたことから、
①「退院レター(=患者に直接渡される、入院中どのような治療を行なったか、退院後はどのようなことに留意すべきか、といったことが簡潔に記載された手紙。家庭医などへの申し送りとしても使用される)」
②「退院薬(必要あらば。その時点では、私自身、屯用の吐き気止めが処方されるかもと思っていた)」
➂「病気欠勤証明書」
④「術後のフォローアップのための予約。誰が、どのように再診をするのか」
といった具合に、私の方から「手配して欲しいこと」を、その先生に依頼していった状態であった。
先生は、①ー➂までを、自分が手にしていた患者申し送り表にメモし、これから準備しますと。④については「通常、今回の程度の手術では、執刀医によるフォローアップ外来診察は必要ない。でも今後しばらくは毎日、創傷のケアが必要ね。現時点でもかなり出血しているみたいなので、退院前に必ず、被覆材を交換してから帰宅するように」と言い、一旦去っていった。
で、入れ替わりに、また、あの「怖い」男性看護師が来た。
「お前、今日、退院なんだってな」と。そこでやっと、この人が、現在の私の担当看護師であることが分かった(注:夜勤シフトは午前8時に終了し、日中のチームに切り替わっていた)。
「はい。退院コーディネート医師が、たった今、来ました。目下、退院レターを作成し、必要あらば退院薬を処方しているはずです。それらを待っているこの間に、傷口の被覆材の交換をお願いできませんか?」と訊ねた。
すると、
「退院薬が出来上がるまで、創傷のケアはすべきでない!」と一言。
(??? よく分からない論理だな。。。)
「私の手術は比較的軽度のものだったので、もしかすると、退院薬が出ない可能性もあります。私、この病院に勤務している薬剤師ですし、自分の退院薬のオーダーがどのような状況であるかもオンライン上で確認できます。被覆材の交換を同時並行で行った方が、互いに時間を有効に使えると思いますが」と提案した。
その瞬間であった。
「てめえ、俺のやり方にいちゃもんをつけるのかよ! おまえがこの病院の薬剤師ということは分かったが、患者として自分の医療情報を勝手に閲覧するのは、違法なんだぞ!! この件に関しては、職務法違反として、お前の上司の薬局長に報告する。お前を、この病院で、二度と仕事をできなくなるようにさせてやる!!!」と怒鳴り始めた。
何も、自分の医療情報を見るとは言っていなかった。私が勤務する病院内では、アマゾンの配達追跡システムに似た、各患者さんの退院薬のオーダーと調剤プロセス状況がどのようなものであるかをチェックできるコンピューターシステムが導入されている。でも、大抵の看護師さんは、その確認方法に精通していない。だったら、私、調べることができますよ、と言ったつもりだったのだが、この看護師は、人材派遣会社からやってきた方だったため、私の意図したことが理解できなかったのであろう。
側にいた私のパートナーも「あなたの態度は、目に余るものがあります。病院の苦情対処部署に報告したいと思いますので、お名前を教えていただけますか?」と口にした。普通、病院のスタッフは各自名札を着用をしているが、なぜかこの看護師はしていなかった。
すると、なんとこの看護師、その場を逃げるように立ち去った。自分の名を名乗るのを避けたのだ。
そして、しばらくすると、相変わらず怒った赤ら顔で、私のところへ戻ってきた。「今から被覆材の交換をしてやるよ。お前の望むようにな!」と言って。
しかし、手にしている製品をよく見ると、なんと「足の潰瘍・壊疽部位の保護材」。私、首の手術をしたんですけど。。。あまりに「とんちんかん」なものだった。
その時点で、私自身(大袈裟かもしれないけど)「自分の命が危険に晒されている」と感じた。
「あのー、急にトイレに行きたくなりました。席をはずしてもいいですか?」と言い、ナースステーションへ駆って行った。そして、病棟看護師長へ逐一を説明した。
1)理由も分からず、シャワーを「拒否した」と言いがかりをつけられていること、
2)退院薬の準備の進行具合を調べましょうかと言ったら「職務越権」だと激怒したこと、
3)名札を着用していなかったので、名前を聞いたら、名乗らなかったこと、
4)首の手術を受けたのにも関わらず、持ってきた傷口被覆材の製品は「足用」のものであったこと
以上のことから「もう、あの看護師のケアは一切受けたくありません。看護師の交代を願い出ます。さもなければ、病院の苦情対処部門へ正式に訴えます」と、はっきりと言った。
私があまりに怒りを露わにしたため、婦長さんはすぐに詫び、直ちに「看護師交代」が行われた。
英国の国営医療サービス (NHS) では「患者が怒り出す」と、スタッフはそそくさと「正しい行動」を取り始める。言い換えれば、声に出さないと「何もかもが後回しにされ」「最低のケアを受け」「泣き寝入り」をすること多々。
だから、納得のいかないことは「苦情対処部門へ訴えます」と言うのが、何より効果的。私、本来は他人と敵対するの苦手だから、自分の精神衛生上良くないんだけどね。。。(溜息)。
この横柄な男性看護師については、その後、色々と考えた。なぜあれほどまでに、私に対して怒っていたのかな。人種差別? 元々の性格で怒りっぽい人だった? ただ単にその日、虫の居どころが悪かった? などなど。
1つ言えるのは、この看護師、英語が流暢でなかった。英国へ来て間もない様子で、語彙に乏しく、例えば「拒否 (refuse)」などという強い物言いをしていたため(→普通であれば「断る(decline)」といった語を使用するはず)、誤解を招きやすい要素を持っていた。私もネイティブではないため、人のことは言えないが、今回改めて、適切な語彙・表現を用いて仕事することは、職務上(本当に)大切なことなんだと再確認させられた次第。
この看護師とは、その後、病院内で会うことは二度となかった。恐らく人材派遣会社から、その日限りで手配された者であったのだろう。でも、そんな人が、人生初の入院での担当看護師になった私の身としてみれば、とんでもない経験だった。
で、急遽、担当看護師の交代が行われた訳ですが;
新しく担当になった女性看護師さんも、これまた人材派遣会社からやってきた臨時スタッフで、外科看護に精通していないことが一目瞭然だった。「おっかなびっくり」で始めたものの手に負えなくなり、途中から婦長さんに助けを求め、2人がかりで行った私の術後初の創傷被覆材交換は、正直、満足のいく仕上がりではありませんでした(泣)。
この術後の創傷の被覆材交換に関しては、退院後しばらく、ほぼ毎日外科アセスメント室に通い、数多くの異なる看護師さんに対応してもらうことになった。そこでも「各医療従事者のレベルと腕前」ということについて深く考えさせられたため、次回のエントリに詳しく書きたい。
ようやく午後2時頃、先ほどの退院手続き専門の女医さんが、再び私の元へやってきた。
「10日後に抜糸。傷口の被覆材の交換は、今後毎日必要」との内容の退院レター。発行された病欠証明(写真下⬇︎には「術後1週間、安静を要し、勤務しないこと」と記載されていた)。そして、退院薬は、特になしとのこと。
英国の国営医療サービス (NHS) スタッフの病気欠勤事情に興味のある方は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ
「術前に処方された抗生物質やイブプロフェンを継続して服用すべきですか?」と質問したところ、
これらの薬が処方された時のことは、このシリーズのこちらの回(⬇︎)をどうぞ
バラバラとカルテをめくり、
「執刀医からは何の記述もないので、分かんない。どっちでもいいんじゃない?」と。
こういった(いいかげんな)対応、ホントに、英国国営医療サービス (NHS) のあるある。一人の患者の治療にあまりにも数多くの医師が関わり、情報伝達が不全に陥っている。今回、どの医師として、私の病状の全体像を見れている人はいなかった。もし万が一問題が起きても、責任の所在が分かりにくくなってしまっている。責任逃れのために、意図的にこういうシステムにしているのでは? と疑いたくなるほどだ。
英国国営医療 (NHS) サービス内の入院費は、全無料である。
だから、日本の病院のように、各患者さんが退院前に支払いをする「医療会計課」といったものもない。
医師から「退院レター」を受け取り、退院薬がないと分かった時点で、すぐに退院できる。
お世話になった病棟の看護師さんたちにお礼を言いつつ、帰宅の路についた。あの横柄な男性看護師は(どこかに)隠れていたみたいだったけど。
自宅へ戻り、疲労困憊から、即、窓のカーテンを閉め、電気を消し、ぐっすりと昼寝をした。
好きなものに囲まれ、そして、電気が「自在に消せる」自室の居心地は、最高だね(笑)。
次回の「手術後のフォローアップ」がこのシリーズでの最終話となる予定です。