今回のエントリは、シリーズ化で、前回はこちら(⬇︎)になっています。
突然連れてこられた「特別需要病棟」。そこは、病院中で病床が足りなくなった時だけ、臨時的に開ける病棟であった。
英国国営医療サービス (NHS) の病院では、特に秋から冬にかけて病床が不足がちになります。この「特別需要病棟」ですら満床になってしまった最悪の事態の例は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ。
しかも、運ばれてきたのは午後8時。看護師たちのシフト交代の時間であった。
外科アセスメント室からの私に関する「申し送り」は(ほぼ)されていなかった。というのは、突然連れてこられたこちらの病棟の、シフト終わりと始まりの看護師さんたちが慌てて、私のベッドにどやどやとやってきて「ちょっと、あなた一体誰? どうしてここに来たのよ? 説明してくれる?」と。
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これまた自分で「『ここ数日で、何が起こったのか』を一から説明をする」という状況になった。吐き気が止まらず、意識が朦朧としている身には、辛かった。
英国で病気になると、患者本人が「毎回、同じこと」を、ありとあらゆる医療従事者に「何度も、何度も、何度も」説明することになります。そんなやりとりは、今回のシリーズのエントリ(3)(⬇︎)もどうぞ。
そんなドタバタな流れで、予期していなかった「入院生活」が始まったのだが;
その後の数時間も、あまりの吐き気と気分の悪さで、生きた心地のつかないまどろみの世界にいた。
ようやく落ち着いてきた真夜中;
「抗生物質の注射の時間だよー」と、一人の看護師さんがやってきた。
眠け目(まなこ)に「何の抗生物質ですか?」と聞くと
「コ・アモキシクラブ」
その一言で、一瞬にして酔いが冷めるように、目が覚めた。
私の病院の抗生物質使用ガイドラインでは、コ・アモキシクラブ(アモキシシリンとクラブラン酸の合剤)の注射薬(写真下⬇︎)は原則、開放骨折をした患者さん以外には使用できないことになっている。それを、よりによって、この病院の感染症専門薬剤師(=私)に投与しようとしているの?! ちょっと待ってーっつ! この例外的使用、感染症専門医の承認済なの? それにしても、この看護師さん、この使用制限のある注射薬を、一体どこから入手したの?? 同僚の当直薬剤師、眠っていたところを叩き起こされたんじゃないかな??? と次々に疑問が湧き上がり、脳内が突如「臨床薬剤師モード」となったのだ。
で、その後の会話は、以下の通り;
私「あのー、これ、感染症専門医が許可したものですか?」
看護師「分かんない」
私「当直薬剤師に連絡しましたか?」
看護師「してないよ」
これ、英国国営医療サービス (NHS) の、特にロンドンの病院の現実問題であるが、時間外勤務をやりたくない看護師が圧倒的に多い。だから、夜勤の人手不足は深刻で、私が勤務している病院では、現在、半分以上の人数を、時給を上乗せし、民間の人材派遣会社から手配しているという有様。そして、このような非常勤看護師たちは、各病院独自のガイドラインとか、業務のやり方に精通していないし、気にもしない。往々にして「のらりくらりとした」人が多いのだ。その晩の私の担当も、そんな看護師であった。
で、
私「この注射、どこから入手しましたか?」
看護師「外科病棟から、くすねてきたよー!(笑顔)」
私(よく、見つけてきたなあ。きっと『隠し在庫』があったんだろうな。。。)
で、私の最終判断は;
(うーん。。。まあ、いっか。今回の私の手術は「頸部」であったから、コ・アモキシクラブは「絶対に不適切なもの」ではないだろう。手術室内ですでに開始されたものの継続処方かもしれないし、どうせ短期の使用となるはずだしね。こんな時間に、当直感染症専門医へ連絡したら、不機嫌に対応されるのが関の山。そして何より、同僚の当直薬剤師も、眠りを妨げられなかったんだし。。。)
という訳で、私自身も(黙って見逃す)ことにした(笑)
英国の当直薬剤師の仕事にご興味のある方は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ。
で、その後はと言うとですね;
ちょっと眠りかけたなー、と思うと、「起きろ」とばかりに、このようなバイタル測定器(写真下⬇︎)が、ガラガラと私の元にやってきた。それが、一晩中、繰り返された。
私は「術後要観察患者」。それはすなわち、1−2時間おきに「バイタルサイン=血圧・脈拍・呼吸速度・体温」を測られる、という所業に耐えるということだったのだ。
おまけに、最悪なことには、こちらの病棟、なぜか私の病室「だけ」電灯が壊れていて、どうしても消灯できないとのことだった。
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それまで英国で暮らしてきて、自宅・職場などで不意に停電し、窮地に立たされたことは数えきれないほどあった。でも、その逆の「電気が消せないピンチ」になったことは、これが初体験だったなあ。。。。
蛍光灯が煌々と輝く下(写真下⬇︎)で、眠りたくてもよく眠れずに過ごす術後は、病人には酷だったよ。
で、明け方、私の最高(収縮期)血圧が、ついに90を切った。
(まあ、起こりうる事態だよね。私、元々、低血圧気味だし、モルヒネや麻酔薬にも降圧効果があるし、術後から吐き気で、ほぼ丸一日絶食している状態だし、水分もほぼ取っていなかったんだから。。。)とぼんやりと考えていると、担当の看護師さんは、私の血圧を少しでも上げようと焦って、
「さあさあ、身体を起こして座ってみて! そうしたら、ちょっとは高い値で測定できるから!」と無理やり叩き起こされ、起立させられた。
もう、地獄だ。。。。
お願いだから、寝かせてくれーっつつつつ!!!
そこで、私は、理解できたのだ。
病人って、ホント忙しいな。だから、日中、業務で病棟へ行くと、熟睡している患者さんが、たくさんいるんだな。。。。ってね。
でも、朝日が昇る時間帯になると、体力も意識も回復していき、周りを見渡す余裕が出てきた。
お腹もすいてきたなあ。。。丸一日、何も食べていないからね。うーん、この大福(写真下⬇︎)食べちゃおうかな。でも、朝ごはんの時間もうすぐだし、今、間食をするのはやめとこ。
なんて、初めての入院の病人用朝食を楽しみに、わくわくしていたのですが。。。。
午前7時ごろ「朝食ワゴン」(写真下⬇︎)とやらが、やってきた。そして給仕のおばさんが;
「アンタ、何食べたい?」と。
「何があるんですか?」
「白パンか茶パンのトースト、コーンフレーク、それからウィータビックスだね」と。
「(えーーーっつ、たったそれだけなの?!?!?!)。。。。ウィータビックスをお願いします😞」
結局、私の手術後初の食事は、こんな感じ(写真下⬇︎)でした。
ちなみに、ウィータビックスは、英国人には根強い人気を持つ「朝食の定番」。全麦のシリアルで、大きな楕円形に固められているのが特徴。初めて目にした時は「英国人は、わらじを食べているの?!」と衝撃を受けた。私自身、買ってまで食べたいというものではなく、よって、それまでほぼ口にしたことがなかったけど、実はこれ、食物繊維たっぷりの健康優良食品。モルヒネを投与された私の大腸にも絶大な効果💩があったことが、後に証明されました(笑)。
ウィータビックス、日本でも販売されている(⬇︎)ようですね。輸入品でも結構割安です。
朝食が済むと、看護助手さんが「シャワーに入りますか?」と聞いてきた。
「え? 私、昨日手術を受けたばかりで、傷口はまだ出血しているし、抗生物質の投与回数もまだ残っているようで、静脈カテーテルも挿入されているし、今、シャワーに入るべきではないんじゃないですか? それに、今日中に退院すると思うので、結構です」と答えた。
で、この「何気ない返答」がその後、今回の自身の手術・入院における、最も不愉快な「事件」へと発展するのであった。
この後の話は、次回へ続きます。