日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

緊急手術を受けた。そして、入院患者になった(6)緊急入院編

 

今回のエントリは、シリーズ化で、前回はこちら(⬇︎)になっています。

 

突然連れてこられた「特別需要病棟」。そこは、病院中で病床が足りなくなった時だけ、臨時的に開ける病棟であった。

英国国営医療サービス (NHS) の病院では、特に秋から冬にかけて病床が不足がちになります。この「特別需要病棟」ですら満床になってしまった最悪の事態の例は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ。

 

しかも、運ばれてきたのは午後8時。看護師たちのシフト交代の時間であった。

外科アセスメント室からの私に関する「申し送り」は(ほぼ)されていなかった。というのは、突然連れてこられたこちらの病棟の、シフト終わりと始まりの看護師さんたちが慌てて、私のベッドにどやどやとやってきて「ちょっと、あなた一体誰? どうしてここに来たのよ? 説明してくれる?」と。

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これまた自分で「『ここ数日で、何が起こったのか』を一から説明をする」という状況になった。吐き気が止まらず、意識が朦朧としている身には、辛かった。

英国で病気になると、患者本人が「毎回、同じこと」を、ありとあらゆる医療従事者に「何度も、何度も、何度も」説明することになります。そんなやりとりは、今回のシリーズのエントリ(3)(⬇︎)もどうぞ。

 

そんなドタバタな流れで、予期していなかった「入院生活」が始まったのだが;

その後の数時間も、あまりの吐き気と気分の悪さで、生きた心地のつかないまどろみの世界にいた。

 

ようやく落ち着いてきた真夜中;

「抗生物質の注射の時間だよー」と、一人の看護師さんがやってきた。

眠け目(まなこ)に「何の抗生物質ですか?」と聞くと

「コ・アモキシクラブ」

その一言で、一瞬にして酔いが冷めるように、目が覚めた。

私の病院の抗生物質使用ガイドラインでは、コ・アモキシクラブ(アモキシシリンとクラブラン酸の合剤)の注射薬(写真下⬇︎)は原則、開放骨折をした患者さん以外には使用できないことになっている。それを、よりによって、この病院の感染症専門薬剤師(=私)に投与しようとしているの?! ちょっと待ってーっつ! この例外的使用、感染症専門医の承認済なの? それにしても、この看護師さん、この使用制限のある注射薬を、一体どこから入手したの?? 同僚の当直薬剤師、眠っていたところを叩き起こされたんじゃないかな??? と次々に疑問が湧き上がり、脳内が突如「臨床薬剤師モード」となったのだ。

 

で、その後の会話は、以下の通り;

私「あのー、これ、感染症専門医が許可したものですか?」

看護師「分かんない」

私「当直薬剤師に連絡しましたか?」

看護師「してないよ」

これ、英国国営医療サービス (NHS) の、特にロンドンの病院の現実問題であるが、時間外勤務をやりたくない看護師が圧倒的に多い。だから、夜勤の人手不足は深刻で、私が勤務している病院では、現在、半分以上の人数を、時給を上乗せし、民間の人材派遣会社から手配しているという有様。そして、このような非常勤看護師たちは、各病院独自のガイドラインとか、業務のやり方に精通していないし、気にもしない。往々にして「のらりくらりとした」人が多いのだ。その晩の私の担当も、そんな看護師であった。

で、

私「この注射、どこから入手しましたか?」

看護師「外科病棟から、くすねてきたよー!(笑顔)」

私(よく、見つけてきたなあ。きっと『隠し在庫』があったんだろうな。。。)

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「コ・アモキシクラブ」:経口薬は、英国内で広く使われているけど、注射薬に関しては、地域の感受性・耐性から、医療機関によって使用に厳しい制限がある抗生物質。特に、非常勤の医師が肺炎や尿路感染症とかに処方し、各薬剤師がそのままにしていると、後で感染症医局長から私の元へ苦情が来る。くわばら、くわばら。。。


で、私の最終判断は;

(うーん。。。まあ、いっか。今回の私の手術は「頸部」であったから、コ・アモキシクラブは「絶対に不適切なもの」ではないだろう。手術室内ですでに開始されたものの継続処方かもしれないし、どうせ短期の使用となるはずだしね。こんな時間に、当直感染症専門医へ連絡したら、不機嫌に対応されるのが関の山。そして何より、同僚の当直薬剤師も、眠りを妨げられなかったんだし。。。)

という訳で、私自身も(黙って見逃す)ことにした(笑)

英国の当直薬剤師の仕事にご興味のある方は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ。

 

で、その後はと言うとですね;

ちょっと眠りかけたなー、と思うと、「起きろ」とばかりに、このようなバイタル測定器(写真下⬇︎)が、ガラガラと私の元にやってきた。それが、一晩中、繰り返された。

私は「術後要観察患者」。それはすなわち、1−2時間おきに「バイタルサイン=血圧・脈拍・呼吸速度・体温」を測られる、という所業に耐えるということだったのだ。

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こんな医療機器が1ー2時間毎に、私のベッドサイドへやってきた

おまけに、最悪なことには、こちらの病棟、なぜか私の病室「だけ」電灯が壊れていて、どうしても消灯できないとのことだった。

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それまで英国で暮らしてきて、自宅・職場などで不意に停電し、窮地に立たされたことは数えきれないほどあった。でも、その逆の「電気が消せないピンチ」になったことは、これが初体験だったなあ。。。。

蛍光灯が煌々と輝く下(写真下⬇︎)で、眠りたくてもよく眠れずに過ごす術後は、病人には酷だったよ。

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一晩中、煌々と明かりがつく病室で眠るという入院生活を送ることになった

で、明け方、私の最高(収縮期)血圧が、ついに90を切った。

(まあ、起こりうる事態だよね。私、元々、低血圧気味だし、モルヒネや麻酔薬にも降圧効果があるし、術後から吐き気で、ほぼ丸一日絶食している状態だし、水分もほぼ取っていなかったんだから。。。)とぼんやりと考えていると、担当の看護師さんは、私の血圧を少しでも上げようと焦って、

「さあさあ、身体を起こして座ってみて! そうしたら、ちょっとは高い値で測定できるから!」と無理やり叩き起こされ、起立させられた。

もう、地獄だ。。。。

お願いだから、寝かせてくれーっつつつつ!!!

 

そこで、私は、理解できたのだ。

病人って、ホント忙しいな。だから、日中、業務で病棟へ行くと、熟睡している患者さんが、たくさんいるんだな。。。。ってね。

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病棟の様子。病人服・リネン置き場

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私のベッドの隣に設置されていたトイレとシャワー室。最初にトイレに行ったのは、術後12時間経過した午前4時頃。その尿量もバイタルサインの1つとして測定されました。


でも、朝日が昇る時間帯になると、体力も意識も回復していき、周りを見渡す余裕が出てきた。

お腹もすいてきたなあ。。。丸一日、何も食べていないからね。うーん、この大福(写真下⬇︎)食べちゃおうかな。でも、朝ごはんの時間もうすぐだし、今、間食をするのはやめとこ。

なんて、初めての入院の病人用朝食を楽しみに、わくわくしていたのですが。。。。

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術後の軽食として、看護師さんが持ってきてくれたチキンサンドとヨーグルト、そしてパートナーがロンドン市内の日本食チェーン店で買ってきてくれた大福。でもあまりにひどい吐き気で、どれも一口も食べれませんでした。結局、夜中にオレンジジュースを少し飲んだだけで、丸一日、絶食した。

 

午前7時ごろ「朝食ワゴン」(写真下⬇︎)とやらが、やってきた。そして給仕のおばさんが;

「アンタ、何食べたい?」と。

「何があるんですか?」

「白パンか茶パンのトースト、コーンフレーク、それからウィータビックスだね」と。

「(えーーーっつ、たったそれだけなの?!?!?!)。。。。ウィータビックスをお願いします😞」

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朝食は、調理されたものは一切提供しないのだということが、今回判明。だから、私が入院した全25床の病棟でも、この写真にあるような小さなワゴンで全員分が賄えていた

結局、私の手術後初の食事は、こんな感じ(写真下⬇︎)でした。

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英国国営医療サービス (NHS) の入院患者の朝食の一例:「ウィータビックスと紅茶」。コストとして日本円換算で100円もかかっていないと断言できる。ちなみに「飲料水」のピッチャーの蓋は、患者各自に色分けがされている。「白」は普通に飲むことができる者、「青」や「赤」は、水分摂取の制限が行われていたり、飲んだ量の厳密な測定が必要とされる者用。これ、英国内の病院で全国共通の識別色のはず

ちなみに、ウィータビックスは、英国人には根強い人気を持つ「朝食の定番」。全麦のシリアルで、大きな楕円形に固められているのが特徴。初めて目にした時は「英国人は、わらじを食べているの?!」と衝撃を受けた。私自身、買ってまで食べたいというものではなく、よって、それまでほぼ口にしたことがなかったけど、実はこれ、食物繊維たっぷりの健康優良食品。モルヒネを投与された私の大腸にも絶大な効果💩があったことが、後に証明されました(笑)。

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英国のどのスーパーマーケットでも、陳列棚の大部分を占めて売られている「ウィータビックス (Weetabix) 」。牛乳にある程度の時間浸すと原型を留めぬほどにふやけ、「西洋的お粥」とも言うべきものにもなり得る、一風変わった食べ物

 ウィータビックス、日本でも販売されている(⬇︎)ようですね。輸入品でも結構割安です。

 

朝食が済むと、看護助手さんが「シャワーに入りますか?」と聞いてきた。

「え? 私、昨日手術を受けたばかりで、傷口はまだ出血しているし、抗生物質の投与回数もまだ残っているようで、静脈カテーテルも挿入されているし、今、シャワーに入るべきではないんじゃないですか? それに、今日中に退院すると思うので、結構です」と答えた。

 

で、この「何気ない返答」がその後、今回の自身の手術・入院における、最も不愉快な「事件」へと発展するのであった。

 

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手術から一夜明けての「入院患者」写真。新型コロナウイルス (COVID-19) のため、就寝時を除き、病棟内ではマスクの着用が常に義務づけられていました。

 

この後の話は、次回へ続きます。