日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

見知らぬ街の病院を訪れてみた。英国コーンウォール編

 

今月、一週間ほど休暇を取っていました。

私、目下「処方薬剤師免許」の取得を目指し、パートタイムで大学院生をしている。学校からは「集中的なコースだから、履修中は、できるだけ休みは取らないように」と言われているのだけど、これから9ヶ月、ずっと働き勉強するのは、精神的に耐えられそうにない。そして、この時期を逃したら、試験や課題の提出が相次ぎ、さすがに当分の間は、まとまった休暇は取れなさそうに思えたので。

 

という訳で、今回、行き先に選んだのは、英国最南西端のコーンウォール州。

ここ、英国人にとって、夏休みの行楽先として大人気のエリア。自然にあふれ、美しい海に囲まれ、観光名所も多く、新鮮な魚介類をはじめとする美味しい食べ物もたくさんある。

でも私は、英国国営医療サービス (NHS) の急性期病院で働いているため、ピークシーズンに休みが取りにくい(→7−8月の有給休暇は、大概、一年前からリクエストしなければならず、事実、お子さんのいらっしゃる方々へ優先して与えられる)。だから、これまで、一度も行ったことのない土地であった。

 

最初に到着したのは、ペンザンスという町(写真下⬇︎)。ロンドンの主要駅から5時間という長距離列車にてだった。

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英国鉄最南西の「ペンザンス駅」。ここから先は、列車で旅をすることができないため、線路もここで止まっている。

翌日から、この地を初めて訪れた観光者らしく「定番」の名所を訪れた。

まずはペンザンス駅前から、公共バスに乗り、1時間以上かけて辿り着いた、英国の最西南端地。その名もずばり「ランズ・エンド(= 地の果て)」(写真下⬇︎)。

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コーンウォールと言えば、まずはここ。英国最南西端地「ランズ・エンド (Land's End) 」

日の射す夏は明光風靡な場所なのであろう。でも、私が訪れた日は、風がビュービューと吹き荒み「ここ、ホントに、地の果てだわ。。。」と思わず唸ってしまいました。

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荒涼な風景がどこまでも広がっていました

2日目は、ペンザンスの隣町にある「聖ミカエル島」(写真下⬇︎)へ。

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住民わずか30名ほどの島

ここ、日本でいうと広島県・宮島の厳島神社のような場所。潮の満ち引きにより、観光客は徒歩にてアクセスできる(夏の期間は、ボートも運行されているらしい)。干潮時間を待ち、徐々に浮かび上がってくる石畳(写真下⬇︎)の上を一歩一歩、時に足にパシャパシャと降りかかる波しぶきを浴びながら向かいました。

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干潮になるにつれ刻々と現れる石畳(この写真では、石畳がまだ半分しか浮かび上がってきていないのが見て取れます)。そして数時間という限られた島内の滞在時間後は、再び満潮となり、この石畳が海の中へ消えていくという自然の神秘を見届けました

そんな中ふと「そういえば『聖ミカエル』って、何の守護聖人なのかな?」と調べてみたら、救急隊員とか秤を持つ人とのこと。秤=薬剤師だし、私、今、処方薬剤師免許取得の課程の一環として、緊急医療室で初期トリアージができるぐらいの診察技術を学ぶべく実地訓練を受けている真っ最中。そしてその OSCE (実地試験) を数週間後に控えている。ということで、この島に建つお城(写真下⬇︎)の中にあるチャペルにて、その合格を祈願しました(笑)。

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そして、この島内のカフェで、集中的な勉強をした。休暇中と言えど、実際、頭の中では、来るべき OSCE のことでいっぱいいっぱいだったんですよ。。。(苦笑)

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英国の伝統的なクリームティーを頂きながら、聖ミカエル島内でOSCEの試験準備をしていました。「Dupuytren's Contracture」とか「Xanthelasma」とか、これまで全く未知であった医学用語を呪文のように唱えながら。。。(苦笑)

 

3日目は、滞在していたホテルの部屋から大学院の講義へ出席(写真下⬇︎)。私が現在在籍するコース、理論的な授業はほぼ全てオンラインにより行われている。

新型コロナウイルス (COVID-19) を機に、世の中の教育方法ががらりとバーチャル化した。特に若い世代の方々にとっては、人との直(じか)の交流がなくなりすこぶる不評とのことだけど、私には性に合っている。朝早く起きて通学しなくて良いし、今回の休暇だって、全国どこにいてもコンピューターの画面越しに授業に参加できたからこそ、実現したのだし(笑)

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普段は持ち歩かない Mac を抱えての休暇でしたが、旅先でも大学院の講義をライブで受けられるという、つくづく便利な世の中になったものです

4日目、もう一つの宿泊目的地であるニューキーという町へ移動。その途中で、この州でほぼ唯一とも言える国営医療サービス (NHS) 「ロイヤル・コーンウォール病院」(写真下⬇︎)に立ち寄ってみた。

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コーンウォール州都トルーノ市に所在するロイヤル・コーンウォール国営医療 (NHS) 病院正面玄関

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病院前の案内マップ。州で事実上唯一の急性病院であるため、広範囲なサービスが提供されているようでした

英国の主要病院はほぼ全て、公共交通網の要所に所在している。しかも一般人でも利用できるカフェテリアやトイレが完備されているので、旅行者の休憩所としてもありがたい場所。英国では、町中でふらっと入れる公共トイレの数が、日本に比べて桁外れに少ないからね。

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創立220年以上の歴史ある病院であることも知りました

こちらの病院、外来患者へは、大手チェーンの「ロイズ(Lloyd's) 」(写真下⬇︎)が敷地内薬局として請け負っていた。

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英国の国営医療サービス (NHS) では現在、外来薬局部門の民営化が推進されています。病院敷地内で民間の薬局が開局されることに関しても規制がありません

英国のチェーン薬局2番手のロイズ薬局は、現在、英国国営医療サービス(NHS) 病院薬局の外来患者部門を請け負うサービスに、特に力を入れています。その一例については、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

よって、入院患者薬局部門は、一般人には分かりづらい場所に位置していた(写真下⬇︎)。

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古い病院棟の長い渡り廊下を渡った一番奥に、入院患者薬局部門がありました

こちらの病院薬局、「時間外に使用する緊急医薬品備蓄庫」や「中心静脈栄養輸液 (TPN) の保管用冷蔵庫」が全て入院患者薬局入り口前に集約されていた。誰にとっても分かりやすく配置されており、つくづく「賢いやり方だな」と。

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同業者として「ああ、こうすれば、時間外にアクセスする看護師さんにとっても一目瞭然だな」と参考になりました

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中心静脈栄養輸液の受け取り場所も、薬局入り口前に設置されたこの大型医療冷蔵庫に一括して保管されていた。非常に効率の良いシステムです

私の病院では「時間外緊急使用医薬品備蓄庫」の場所が病院内でしょっちゅう変わる(→なぜ???)ので、看護師さんたちは自ら取りに行きたがらない。「中心静脈栄養輸液 (TPN) 」は民間の製薬製造会社に外注しているため、運送会社のドライバーによる各病棟への配達ミスが日常茶飯事。これら常に、当直薬剤師泣かせの「呼び出し」となっている(怒)

私が現在、ほぼ 7-10 日毎に担当している「夜間・週末当直業務」についてご興味のある方は、過去のこれらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

入院患者薬局受付へ向かう渡り廊下の壁には、仮免許(プレレジ)薬剤師が行なったプロジェクトのポスターが貼られていた(写真下⬇︎)。英国の仮免許薬剤師は、1年間の訓練期間中に、薬局のサービスや臨床実務を改善するような調査・研究を、一つ自主的に企画し遂行することが求められる。ちょうど10年前の今頃、私もこういった課題をやっていたんだよなあと、懐かしく思い出した。

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緩和ケア(終末期医療)に使用される薬剤の電子セット処方についての調査・研究でした

ちなみに私は仮免許(プレレジ)薬剤師時代に、勤務先病院内で医師が発行した「外来処方箋の査定(=法的・臨床的不備を見つけ、改善点を提案する)」というプロジェクトを行い、ファイザー製薬会社が主催していたコンテストで、その年 (2011/12) の「優秀ポスター賞」を受賞しました(その時のポスターのミニチュア版は、過去のエントリの写真の一つにあります⬇︎)。こういった企画・施行能力や賞は、新卒薬剤師が就職活動を行う際に、強力なセールスポイントとなります。


それからこちらの病院、2010年代に英国首相であったデイヴィッド・キャメロン氏の夫人が、第4子を出産した場所としても知られている。家族連れでこの地方で夏休みを過ごしていたところ、突然陣痛が始まり、予定より数週間早い出産となった。無事誕生後、首相がこの病院前で急遽記者会見を開き、病院スタッフたちへ感謝を述べた映像が、当時、メディアで大きく報じられた。

英国民が愛する国営医療サービス (NHS) は、政治と切っても切り離せない関係。だから政治家は、事あるごとに NHS の良さをアピールする機会を設けている。過去のこれらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

ロンドンには 50以上の国営病院が存在する。しかし、ここ英国最南西のコーンウォール州は、日本の九州とちょうど同じ大きさにも関わらず、ここがたった一つの急性期病院。キャメロン首相夫妻ですら、最寄りの医療機関を求め、その時滞在していた人里離れた村から約50キロの道のりを、車で走ったそう。

そして、私がこの地に滞在中、行く先々の町で「救急医療ヘリコプター」のチャリティー団体というものを目にした(写真下⬇︎一例)。かなり需要があるのであろう。英国の僻地医療というものを考えさせられた場所だった。

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で、次の宿泊地に辿り着いた翌日;

ホテルの部屋でテレビを観ていたパートナーが、叫び声を上げた。

「おい、見ろ! ロイヤル・コーンウォール病院で、新型コロナウイルス (COVID-19) 感染のアウトブレイクが止まらないらしい。これ以上感染者数を増やさないため、当分は一般人の訪問を禁じ、外来を中止、入院も受け付けない(=つまり、病院を一時封鎖する)というニュースが、全国ネットワークで放映されているぞ!!!」

と。

 

え。。。!?!? よりによって私たち、昨日、新型コロナウイルス (COVID-19) 感染における、英国内のワーストスポットを訪れていたんだ。。。(汗)

 

感染が心配されましたが、幸い無事でした。

 

新型コロナウイルス (COVID-19)、まだ油断なりませんね。

 

では、また。