このところ、英国のメディアは、サセックス公ハリー王子とメーガン妃の王子の誕生の話題でもちきり。
という訳で、ミーハーな私もそれに便乗し(笑)、英国の出産事情を少し紹介してみたい。今回のエントリでは、ロンドンの出産病院のあれこれを、私が知っている実話と共にまとめてみる。
(1)聖メアリー病院 (St Mary's Hospital, Paddington)
メーガン妃懐妊のニュースが入った当初は、多くの人々が、この病院での出産になると信じていた。
チャールズ皇太子と故ダイアナ妃の間のウィリアム王子とハリー王子自身も、そして、ウィリアム王子とキャサリン妃の間の3人の子供全て、つまり、近年の英国王位継承直系の王子・王女は、全員ここで誕生している。
かつてチャールズ皇太子と故ダイアナ妃、そして、現在ウィリアム王子とキャサリン妃の住まいである西ロンドンのケンジントン宮殿から最寄りの国営医療 (NHS) 病院であること、プライベート(患者全額自費負担)の産科病棟を有していること、そして、万が一の場合、救命医療施設も整っていることから、ここでの出産になってきたのだと思う。ちなみに、ハリー王子とメーガン妃も、懐妊発表当時は、ケンジントン宮殿内に住んでいた。
この病院の産科の患者全額自費出産の外来並びに病棟は、この聖メアリー病院の敷地内の「リンド棟 (Lindo Wing) 」という建物に集結されている。
故ダイアナ妃の時もキャサリン妃の時も、毎度の出産の退院時、この「リンド棟 (Lindo Wing)」の正面玄関の前(写真下⬇︎)に夫婦で立ち、誕生したばかりの赤ちゃんを、マスコミにお披露目するのが恒例になっていた。
そのため、今までは、王子・王女の出産予定日近くになると、その「お披露の最高の瞬間」を撮るべく、世界中の報道機関が、このリンド棟の前で張り込み、「席取り合戦」を行なっていた。その安全対策の為、入り口には24時間体制で警官が数人待機するのが通例であった。
でも、今回のメーガン妃の際は、出産予定日近くになっても警官が一向に現れる気配がなかった。そして、サセックス公がロンドン郊外のウィンザー城内へ新居を構えたことからも、世間は「この聖メリー病院は、距離的に遠すぎる。ここでは出産しないであろう」という結論に達したのだ。
ちなみにここでの出産費用は、正常分娩で、6000-7500ポンド(日本円換算で100万円相当)、病室に一晩泊まるごとに、1500ポンドというのが相場だそうです。最低で日本円100万以上って。。。凄い。
それから、これ余談になりますが、私が長年住んでいた西ロンドンのフラット(→英国の国家公務員寮)の部屋の前の住人さんが、このリンド棟の助産婦でした。出産を無事終えたご家族やお見舞い客から、病棟スタッフへのお礼の、食べ物の差し入れや贈り物が「超過剰」な職場で、そのため昼食代が全くかからなかったそうです。そして、それでも食べきれなかったものや贈り物を、よく持ち帰ってきてくれ、他の住人さんへ差し上げていたとのこと。
私が入居してからそういうことが(一切)なくなった、と、元からいる住人さんは、ちょっと不満げだった。私、その当時、精神科病院のファーマシーテクニシャンだったし。。。。ごめんなさい(笑)
(2)ポートランド病院 (The Portland Hospital, Marylebone)
英国のプライベート(患者全額自費負担)産科専門病院として超有名な場所。公には発表されていないけれど、今回、メーガン妃は、ここで出産したと噂されている。自宅出産を望んでいたけれど、最後の最後で妊娠合併症が起こり、急遽、ここへ運び込まれたとのこと。
ヨーク公アンドリュー王子とサラ・ファーガソンの間のベアトリス王女とユージーン王女も、ここで誕生している(写真下⬇︎)。貴族層と、俗に言うセレブ御用達の病院。ビクトリア・ベッカムや、グウェネス・パルトロー、クラウディア・シファーなどもここで出産している。
米国資本経営の病院で、英国外からの患者も多い(例:医療が発達していない発展途上国での裕福な人たちが渡英し、出産したりする)。英国国営医療 (NHS) 病院での出産はちょっと。。。という日本人の患者さん(主に駐在員のご家庭)も、利用していると聞く。そして、ここで出産する人のなんと半数が、帝王切開という驚異的な統計がある。「お上品すぎて息めない ('too posh to push') 人たちのための病院」という別名もある。ちなみに、費用の方は、上記の聖メアリー病院・リンド棟をさらに上回り、平均1500 - 2000ポンド(日本円200-300万円程度)が平均とされている。
国営病院の国営医療サービス (NHS) を使用すれば、英国内での出産は全て無料。でも、英国の全額自費負担(プライベート)医療を利用すると、とんでもなく高額につく、という典型的な例だ。
ちなみにこの産科病院の薬局へ、以前、ファーマシーテクニシャンとして一緒に働いていた私の同僚が転職したことがある。お給料が年間80万ほど上がる!(→しかも、これ、10年ほど前の話です)と喜んで退職していったが、あまりの仕事の厳しさに仰天し、その人、なんとまた、私が働く病院薬局へ出戻ってきた。「お茶の時間すらなかった」と不満げに。
英国人は、勤務中の「お茶の時間」が大好き。このことに関しては、以前のブログ(⬇︎)もご参照下さい
英国国営医療サービス (NHS) は、働く人はものすごく働いているけれど、ぶっちゃけ、のらくらしている人はのらくらしても許される世界(笑)。公務員体質な職環境だからね。でも、英国でも、私営医療で働くのは厳しいんだな、と聞き知った事例の一つ。
(3)聖トーマス病院 (St Thomas' Hospital, Lambeth)
このブログでも、再三登場する病院(写真下⬇︎)。
聖トーマス病院に関する以前のエントリは、こちらからもどうぞ(⬇︎)
ロンドンの中心地に所在する超大型病院で、救命医療施設が整っており、小児科の高度専門病院も併設していることから、全国規模で、難産を受け入れている。
ここでは、ポール・マッカートニーと、最初の妻故リンダの次女で、今や世界的なファッションデザイナーとなったステラ・マッカートニーが生まれている。
母子ともに生命が危ぶまれる状態でこの病院に運び込まれ、緊急の帝王切開中、ポールが手術室の前で祈っていた折、ふと「天使の翼」というイメージが浮かび上がったとのこと。それが、ビートルズの後の彼のバンド名「ウィングス(Wings = 翼)」に繋がった、いう有名なエピソードがある。
(4)クイーン・シャーロット・アンド・チェルシー病院 (Queen Charlotte & Chelsea Hospital, East Acton)
西ロンドンの大型国営病院群の一つで、上記の聖メアリー病院と同じ系列傘下の産科専門病院(写真下⬇︎)。この病院が所在する付近から西側にかけてが、アクトン / イーリングと呼ばれる、在英日本人(特に駐在員家族)が多く住むエリアとなっている。それゆえ、この病院は、英国の国営医療 (NHS) 病院の中で、日本人の出産を最も受け入れてきた場所なのではないかと推察している。この病院には、日本人の助産婦さんも一人勤務していると、数年前に伺った。今でもいらっしゃるのであれば、ロンドンで働く日本人医療従事者同士として、ぜひ一度お会いしてみたい方の一人。
今回、こちらの病院を、このブログエントリ用の写真撮影の目的で訪れたら、機しくも玄関口から、英国人(夫)と日本人(妻)が、産まれたばかりの赤ちゃんを抱えて退院するところに出くわしました! ご主人さん、どうやら日本企業にお勤めらしく、その会社名が大きく宣伝された車に乗り込んで立ち去ったのが、微笑ましかった。
ちなみに、ここは、映画ハリーポッターシリーズの主演男優ダニエル・ラドクリフが生まれた病院でもある。
(5)ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン病院 (UCLH, Euston)
ミステリー小説の女王アガサ・クリスティが、第2次世界大戦中、こちらの病院でファーマシーテクニシャンとして働いていたことを、以前、このブログでも書いた。この病院は、ロンドンの中心街にかつてあった、英国の医療史上有名な病院の数々が併合されて現在の形になっている。その一つに、英国初の女性医師となり、産婦人科の専門医となったエリザベス・ガレット=アンダーソン医師が創設した病院も含まれる。そのため、現在、この病院の産婦人科棟は、彼女の名前を冠した建物になっている(写真下⬇︎)。
アガサ・クリスティとこの病院にまつわる話の過去のエントリは、 こちらからどうぞ(⬇︎)
2010年頃、兄弟で英国労働党党首の座を争い注目されていたユダヤ系政治家ミリバンド兄弟の弟(エド)の方の子供がここで誕生した。その際、この病院の正面玄関(写真下⬇︎)で、記者会見をしたのが印象的だった。
英国では、政治家は、どんなに裕福でも、プライベート医療ではなく、国営医療を利用している。国民が最も愛する国営事業「NHS」を、私も支持しています! というアピールの重要性を、彼らは十分理解しているから(笑)
(6)チェルシー・アンド・ウェストミンスター病院 (Chelsea & Westminster Hospital, Chelsea)
英国首相官邸(ダウニング街)が所在する管轄の国営医療 (NHS) 総合病院(写真下⬇︎)。だから、1990年代後半から2000年代後半まで英国の首相であったトニー・ブレアの妻シェリーは、首相夫人であった時代、ここで4人目を出産した。病院の前で待ち構えていた報道陣を避けるべく、官邸の車で病院の裏口から産科病棟(写真下⬇︎)へ入り、その数時間後には出産、そして、入院後24時間以内に、母子共に首相官邸へ戻っており、マスコミを完全に煙に巻いた。45歳の高齢出産だったにもかかわらずだ。これは、ちょっと極端な例かも知れないけれど、英国では、正常分娩であれば、1−2日で退院していく場合が殆ど。
最近では、ハリウッド俳優ジョージ・クルーニーの妻アマール(→英国籍法廷弁護士)が、この病院のプライベート病棟で出産したとのことです。
ちなみに私、自身の仮免許(プレレジ研修)薬剤師時代、こちらの病院の薬局内にて月に1回、臨床薬学の勉強会へ出席していた(詳細は下のリンク(⬇︎)からどうぞ)。薬剤師の教育・訓練で定評のある病院です。
そして、最後に。。。
(7)こちら、私が現在勤務する病院の産婦人科棟(写真下⬇︎)。
冴えない外見ですが、英国では伝説の不妊治療専門医として知られているハッサン・シェハタ医師 (Mr Hassan Shehata) が長年勤務している病院であり、ロンドンの3大小児科専門病院の一つでもあることから、南ロンドンのエリアでは高い需要を誇るサービスを提供しています。日本人の出産も、ごくたまにですが、見かけます(退院処方せん上のお名前から察するだけですが)。
ちなみに、英国の産科の退院の際に処方される薬は、ほぼ全て「ペイシェント・グループ・ダイレクション (Patient Group Direction, 通称 PGD) 」と呼ばれる予製セットになっています(写真下⬇︎)。病棟に在庫しており、助産婦さんが投薬するため、薬局内で調剤される薬はごく稀です。
そんなこんなで、今回は、何だかゴシップ誌のような内容になってしまいましたが。。。。
私が勤務する病院では、最近、産婦人科で使用される抗生物資の院内ガイドラインが刷新され(写真下⬇︎)、その内容チェックをしなければならなかったことを、すっかり忘れてた。。。
これから、集中して、見直しまーす!
では、また。