日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

英国国営医療サービス (NHS) の薬局に就職する方法・概論編

私は、今までの職歴を振り返ると、秋から冬にかけて、就職面接試験を受けることが多い。

そして、その場合、なぜか、成功率が高い。

日本で、新卒薬剤師として働いた病院、そして、その後のドラッグストアを皮切りとし(→でも、日本での就職は、どれも、ほぼその場で、即合格だったな。薬剤師、ずーっと売り手市場だからね)、

私の日本での薬剤師職歴にご興味のある方は、以前のエントリ(⬇︎)もご参照下さい)

 

英国での最初の就職活動で、暗中模索の中、40以上の求人に応募し、11回目の面接試験で、やっとのこと掴み取った「ローテーションファーマシーテクニシャン」の職も、

そして、その後昇格した「精神科専門・病棟ファーマシーテクニシャン」のポストも、

英国の薬剤師免許を取得後、長い求職期間を経て、約100倍の競争率を突破して得た「ローテーション臨床薬剤師」の職も、

現職の「感染症専門臨床薬剤師」の選抜の時も、

全て、秋から冬にかけての就職・転職試験での合格だった 。

 

という訳で、今回は、「英国の国営医療サービス (NHS) に、薬局スタッフとして就職する方法」について書いてみようと思う。

 

英国の薬局の人員は、「薬剤師」、「ファーマシーテクニシャン(以下、テクニシャン)」、そして、「ファーマシーアシスタント(以下、アシスタント)」の3種に分かれている。

薬剤師は、薬科大学を卒業し、英国の薬剤師免許を得た者だけがなれる。

テクニシャンは、2011年以降、国家資格職になった。でも、私がテクニシャンとして働いていた頃 (2003 - 2010) は、無資格でもよかった。だから、海外薬剤師が、英国薬剤師免許を取得するまでの「準備・待ち時間中」に、英国内の薬局での実務経験を積みながら、収入が得られる職として、人気があった。

アシスタントは、昔も今も、資格不要の職。薬学のバックグラウンドが全くない人でも、応募できる。調剤の基本を一から教わり、職場によっては、OTC医薬品販売の資格を取得したりする。意欲があれば、キャリアアップとして、テクニシャンを目指すこともできる。

ちなみに、私は、英国で、「薬剤師」、「テクニシャン」、「アシスタント」の全ての職種に応募したことがある。

 

ところで、英国国営医療サービス (NHS) とは、英国の究極の「ザ・国家公務員団体」。英国では医療全般が国営事業となっているので、そこで働く人は、ほぼ全員、公務員となる。NHS は、英国内最大の雇用人数を誇り、かつ、ヨーロッパ圏でも最大規模の雇用先である。と言っても、その就職に際しては、日本のような特別な「公務員試験」を受ける必要もなく、求人に応募し、採用が決定したら、公務員扱いになる、という形態。

その就職応募方法自体は、とても単純。

まず、こちら(⬇︎) のウェブサイト「NHS Jobs」にアクセスして下さい。

https://www.jobs.nhs.uk/

英国の国営医療サービス (NHS) の職は、現在ほぼ全て、こちらのウェブサイトに広告が一括掲載されるようになっている(注:例外もあります)。

なので、自分が応募してみたい職種をキーワードで検索してみる。薬剤師であったら、「Pharmacist」。それから、勤務先の希望があれば、その場所も入力する。「London」とかね。

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英国の医師は、現在、殆ど白衣を着ず、私服で仕事をしている。しかもこの写真の人、英国王室のケンブリッジ公ウィリアム王子に激似ぢゃない?! だから、この英国国営医療サービス (NHS) の求人ウェブサイト、私の目には、実際の英国の医療現場とは、相当かけ離れているものに見える(笑)

そうすると、たくさん求人広告が出てくる(⬇︎)。

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赤丸で囲んだ求人広告、私の現在の仕事内容とほぼ同じ、かつ、ロンドン中心街の超大型有名大学病院薬局での募集であったため、思わず目に止まった。

それぞれの職で、お給料も明示されている。英国の国営医療機関 (NHS) 内の薬局スタッフは全員、階級グレード化されているため、どの職種で何年ぐらい勤務しているのだったらこれぐらいの年収、といったことが、全国レベルで統一されている。だから、ものすごく分かりやすい給与体系。

そして、自分が応募してみたい職の広告をクリックすると。。。

それが、どんな具体的な仕事内容(Job Description と呼ばれる)で、どんな人(Personal Specification と呼ばれる)を求めているのか、という2つの書類が添付されている。どちらも、かなり詳細に記述されている。ちなみに以下の2点は、私が興味を持った上記の求人広告(⬆︎)の、Job Description と Personal Specification の実物の一部です。

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Job Description と呼ばれる、仕事内容の但し書き。英国の雇用は、このJob Description を遂行する「契約」と見なされる。逆に言えば、ここに記載されていない業務を強いられても(例:夜間勤務とか)、雇用者は、拒否することもできるほどの効力を持つ。

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Personal Specification と呼ばれる、「どのような人を求めているか」の箇条書き表。求人の最初の書類選考では、この Personal Specification にどれだけ当てはまる人かを採点し、面接に呼ぶかどうかをふるい分けていく

 

で、この2つの書類を熟読し、それを元に、応募エントリーを、この求人ウェブサイト上からしていくの。

学歴とか、今までの職歴とその業務の詳細、これまで行ってきた卒後教育の内容などを入力していく。そして、巻末に「どうして自分にこのポストをオファーすべきか論ぜよ」という作文が待っている。応募エントリーで一番大切なのは、ここ。学歴や職歴といった所定の書式では書けなかったことをふんだんにアピールするのね。選考者に「お? 面白そうな・凄い志願者だな。是非面接に呼んでみよう!」と思わせるような魅力的なものでないと、ダメ。原則として字数制限はないから、自分の好きなように書いていい。

で、無事、書類選考に通過し、面接に呼ばれることになったとする。

面接官は、基本、その職がオファーされた場合、直接の上司になる予定の人や、そのまた上司、そして、時には、人事課の人が加わることもある。通常2−3名の構成。面接ではありとあらゆる質問がなされる。私、英国で、それこそ数え切れないほど、就職面接試験を受けてきたから、特に、国営医療サービス (NHS) 内の薬局スタッフ雇用面接時の「頻出・定番質問リスト」を、経験上知っている。それでも時々、「あれ?」と思うような、意図の分からない質問も来る。

「あなたを薬に例えるとしたら、どの薬剤になると思うか、その理由と共に述べよ」といったものもあった。何かの心理テストみたいでしょ? 

「いい仕事 ('Good Job') って、どんなことだと思う? あなたの考えを述べてみて」というのもあった。あまりに唐突に聞かれ、かつ、まだ語学の壁があった頃に受けた面接試験(→ちなみに、アシスタント職)だったので、すごく言葉に詰まったことを覚えている。

面接試験に加え、実務試験がある場合もある。

薬剤師の場合、面接官の前で、処方せん・投薬簿の不備点を見つけ出すとか、面接官が患者さん役になり、服薬指導カウンセリングをさせる、また、面接官を医師に例え、自分が推奨する薬剤治療の処方介入や、そのディスカッションを行わせる、といったものが主。大病院の臨床薬剤師職で、候補者が多ければ多いほど、OSCE で公平に採点していくのが、最近の傾向。

ちなみに、私が実際に合格し、雇用されたテクニシャン職の面接試験では、計算問題と、英語の単語の綴りの正しいものを見つける、という試験も含まれた。「necessary」とか「accommodation」とか、英国人でも間違いそうな紛らわしい綴りの単語がこれでもか、これでもかと羅列されていた。でも、薬局の仕事って、基本、「誰かの・何らかの間違いを正す」のが主な業務だから、ある意味、的を得た意図があったと思う。

英国人薬局スタッフが、いかに計算が苦手か、という驚愕の事実については、以前のエントリ(⬇︎)もご笑読下さい。

とあるアシスタントの職に応募した時は、医薬品が所狭しと並ぶテーブルへ連れて行かれ、名前が似通った医薬品とか、規格や数量やサイズが微妙に異なる製品をいかに間違いなく、早く(制限時間内に)いくつ持ってこれるか、というテストが用意されていた。すごく実用的な試験だった。

「美味しい紅茶の作り方を簡潔に書け」という英作文が、「薬剤師」「テクニシャン」「アシスタント」の業種を問わず、折に触れ出題される、ロンドンの人気病院薬局がある。最初にその話を聞いた時は、「へ?(=なぜ、薬局の就職試験に、紅茶が?)」と思ったけど、いかに「誰にでも分かりやすくコミュニケーションを取れるか」という能力を試す目的と、「スペルミスなく、文法の正しい英語をきちんと書けるか」ということ、また、英国の国営病院薬局業務はマニュアルだらけなので、「マニュアルを書いた経験があるか」ということを試す試験なのね。奥が深いです。。。

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「美味しい紅茶の作り方を簡潔に書け」という英作文が、折に触れ出題されるロンドンの人気病院薬局がある。英国で一番最初に就職活動をしていた時、この話を聞きつけ、恐れおののき、急遽このマグカップを買った。紅茶に関する豆知識が一面に描かれた図柄の一部に、その方法(答え)が書いてあるのを見つけたから(笑)。ちなみに、英国の国営医療サービス (NHS) は、従業員に対し、1日1回の「15分間のお茶の時間」を義務化している(私の現在の職場では、何と、1日2回設けられている)。皆、「お茶の時間」大好き

 

こんな感じの就職プロセスで、「私にもできる!」と思った方、奮って英国国営医療サービス (NHS) の薬局職へご応募下さい。現在、NHS に勤務する日本人薬剤師は数えるほどだと思うし、仲間が増えるのは、本当に嬉しい、と言いたいところなのですが。。。。

なぜ、英国で、実際の薬局現場に勤務する日本人薬剤師が少ないのかと言えば、それには訳がある。

 

『労働許可証 (work permit) ビザ』

  

次回は、この「労働許可証」の入手困難ゆえに、現在、日本人が、英国の薬局で働くことが、かなり難しい状況であることや、そんな中でも、志のある人は、就職できる可能性もあるのだというについて、書く予定です。

 

では、また。