日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

見知らぬ街の薬局を訪ねてみた(それと、謎だった薬科大学跡地もね)。ロンドン スローン・スクエア編

 

先週末は、なんと、葉加瀬太郎さんの、ロンドンでのコンサートに行ってきた。

 

会場となったのは、スローン・スクエア (Sloane Square) というロンドンの一角。

ここ、チェルシーと呼ばれる地区にあり、ロンドンの一等地。街全体が、他のエリアとは全く別の風格がある。代々続く貴族や、今をときめくセレブリティが数多く住む街(写真下⬇︎)。

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ロンドン チェルシー地区 スローン・スクエア


このスクエアを北上すると、英国の高級デパート、ハロッズへと行き着く。

一方、西へ向かうと、1970年代のパンクカルチャーの発祥地となった「キングス・ロード」という通りになっている。日本人にも人気の英国人ファッションデザイナー、ヴィヴィアン・ウェストウッドが、この通りの最末端で、最初の店を構えたのが、その始まり。

 

今回、コンサート開演時刻まで時間があったので、この「キングス・ロード」をちょっとうろついてみた。 

で、そんな散歩中、かなーり昔の思い出に、タイムスリップしたのよ。

 

まず、ここ。

私が、1998年6月に、観光者として初めてロンドンを訪れた際に、立ち寄った薬局(写真下⬇︎)。

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英国大手チェーン薬局「ブーツ (Boots) 」スローン・スクエア店

 

今回、この薬局の前を通りかかり、突然、「あっ、ここだった!」と稲妻に打たれたように、遠い日の記憶が蘇った。

 

「英国には『ブーツ』っていう大手チェーン薬局がある」ということは、日本で薬剤師として働いていた頃から知っていた。だから、ロンドンに初めて観光者として来た時、絶対、訪れてみようと思っていた。

で、その当時、この近辺に「チェルシー・キッチン (The Chelsea Kitchen) 」というレストラン (というか、大衆食堂と言った方が相応しいような所) があった。日本に住んでいた頃、通っていた英語学校の先生の一人がロンドンで働いていた時代、ぼほ毎日そこでご飯を食べていたとのことで、「食事に困ったら、ここに行くといい」と、ロンドンをひとり旅する私に勧めてくれた。貴族も一般人も、芸術家もタクシードライバーも、ロンドン中の面白い人が『全て』集まる場所、かつ、料金も超手頃、ということだった。実際に訪れてみると、その評判に違わず、居心地の良いレストランだった。だから、そのロンドン滞在中、毎日のように通った。実際は、当時、英語でほとんど意思疎通が取れず、他のレストランなどは、とても敷居が高くて行けなかった、というのが、本当の理由だったのだけど(笑)。

そして、こちらの「ブーツ薬局」、そのレストラン跡地から、数軒先だった。なので、やはり、この日のように、この通りをぶらぶらしていて、見つけたんだろうな。

「あっ、これが、英国最大手のチェーンの薬局だ!」って感じで、店内に惹きこまれていった。だから、こここそが、私にとって、『英国で一番最初に訪れた、記念すべき薬局』となったの。

紺色のロゴが神々しく見えてね(笑)。店内を見渡しながら「将来、こんな素敵な街に住んでみたい。そして、ここで薬剤師として働きたい」と、強く願ったのを覚えている(写真下⬇︎)。その当時は、全く現実味のない「夢物語」だったのだけど。。。

 

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薬局入り口の「紺色のロゴ」が神々しく見えてね。。。(笑)

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恐らく、このあたりから、薬局スタッフがどのように働いているのかを、じーっと観察し。。。

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こんな素敵な街で、薬剤師として働きたい、と願ったのを覚えている

 

でも、それからの約20年、私の人生は、その夢物語を、どうしたら現実にできるかを考えて、ここまで来ている。その過程は、数え切れないほどのハプニングと廻り道の連続だったけれどね。現在、私が住んでいるのは、このようなファッショナブルな街とは真逆のエリアだ。そして、私自身は、ブーツ薬局の薬剤師ではなく、国営医療 (NHS) 病院の臨床薬剤師となった。

でも、人生は、自分を試す壮大な実験の繰り返し。結果は、最後まで分からない。失敗も成功も、その「過程」を含めて全てを楽しもうと、最近、特に、そう思うようになったな。

 

そんなことに想いを巡らせていくうちに、ロンドンに観光者として来ていた頃の記憶が一気に押し寄せてきてね、この通りを、さらに先へ進んでみることにした。もう一つ思い出の、でも『謎の未踏地』があったから。

で、大分歩いて、辿り着いた先は、こちら(写真下⬇︎)。ロンドン市内および近郊の薬科大学の一つである「ロンドン大学キングスカレッジ薬学部」の跡地。

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今回、20年越しの謎の場所であった「ロンドン大学キングスカレッジ薬学部(旧:チェルシーカレッジ薬学部)」跡地を訪れることができた。現在、この建物は売却され、高級フラット(=マンション)になっている。

 

こちらの「ロンドン大学キングスカレッジ薬学部」には、1990年代の中盤、コミュニティー薬局実務の分野で著名な先生が一人おられた。そんな方の元で「研究留学」ということで、渡英してみようかな? と考えたのが、私の「英国留学」の一番最初の思いつきだった。

その当時は、私がその後入学することになった、ロンドン大学薬学校の「臨床薬学・国際薬局実務&政策」の大学院修士コースも存在せず(→構想段階だったらしい)、私自身、留学、イコール、研究、っていう思いこみがあったからね。実際に、東京・神楽坂のブリティッシュカウンシルの図書館に置かれていた「英国大学便覧」の「ロンドン大学」内で開講されている実務薬学関係のコースは、その当時、この「ロンドン大学キングスカレッジ薬学部」のこの先生の所しか、連絡先が記載されていなかった。

で、その頃、日本で普及し始めたインターネットを使用し、こちらの先生の元へ、eメールを差し上げた。でも、何度連絡しても、お返事はなかったの。

それで、ロンドンに初めて観光者として訪れたその滞在中、たとえその先生にお会いできなくても、大学の所在地をこの目で実際に見れば、雰囲気とかも分かり、いい機会になるかもと思い、その「ロンドン大学キングスカレッジ薬学部」とやらを、直接訪れてみることにしたの。地図上では、この「キングス・ロード」を、かなりの距離歩き、そこから横道へちょっと入った場所だった。

 

でもなぜかね、私、その日の道中、一本の通りにも関わらず、迷いに迷い(!)、目的の薬学部へは辿り着けなかったの。というのは、 途中で、道ゆく人に「ロンドン大学キングスカレッジ薬学部はどこ?」と訊ねても、複数の人が「分からない」、もしくは「全く違う場所だ」と言ったから。で、じゃあ、実際の所在地はどこなのかと聞いても、これまた皆「全く異なる場所」を挙げた。どの人へ聞いても、話が噛み合わない。だから、本当に困惑し「?????」な経験となったの。

で、私自身、あまりにくたびれ、その「ロンドン大学キングスカレッジ薬学部」の場所を断定することなく、この通りを引き返してしまった、という経緯があった。

 

それで、その英国での休暇から戻り、再度、ブリティッシュカウンシルの図書館で、最新版の「英国大学便覧」を調べると、なんと「ロンドン大学薬学校」で「臨床薬学・国際薬局実務&政策」というコースが開講していることを知った。

なので、翌年、ロンドンへまた観光者として来た際、ホテルの部屋から、その学校の連絡先へ(勇気を振るって)電話をし、訪問の希望を述べた。受付の人はとても親切で、学校の所在地は「ラッセル・スクエア」という場所の近くである、と教えてくれた。「ラッセル・スクエア」は、大英博物館周辺の、ロンドンの中心地。ああ、やっぱり昨年、道で迷いに迷った、南西ロンドンの「スローン・スクエア」ではなかったのだな、と思った。

そして、さっそく、電話口で教えてもらった先の「ロンドン大学薬学校」を訪ねてみた。

教務課の方たちが、弾けんばかりの笑顔で迎えてくれた。そして、そこで懇切丁寧に「臨床薬学・国際薬局実務&政策修士コース」の概要を説明して下さった。大学院内での授業と、ロンドン市内の国営医療 (NHS) 病院での実習が半々の実践的なコースであることを知った。こここそが、私が英国で留学すべき場所であると、まごうことなく直感した。将来のこと、経済的なことなど、全く何の当てもなかったのに、その場で思わず「来年、必ず、ここに入学します!」という言葉が、口から出た。

そして、何と、そこでのやり取りからね、私、この「ロンドン大学薬学校」と「ロンドン大学キングスカレッジ薬学部」は、全く別個の学校であった、ということを、知ることになったのよ。

 

この大いなる謎と無知と勘違いを、解説すると;

ロンドン大学には、数々のカレッジがあり、それが総称され「ロンドン大学 (University of London) 」と呼ばれている。

で、ロンドン大学では、現在、2つのカレッジが、薬学校・薬学部を有している。

一つは、私がその後、実際に入学・卒業した「ロンドン大学薬学校 (The School of Pharmacy, University of London) 」。元々、英国王立薬学協会付属の薬学校であった起源を持つ。そして長い間、ロンドン大学の中でも珍しい単科大学であったのだが、2012年に、ロンドン大学の中でも最大規模を誇るカレッジであるユニバーシティ・カレッジ・ロンドンへ吸収合併された。だから、現在の正式名称は「ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン薬学校 (The UCL School of Pharmacy) 」

そして、もう一つが「ロンドン大学キングスカレッジ薬学部 (King's College London, Department of Pharmacy) 」。

この2つの薬科大学、どちらも名前が似ていて、ややこしいよねえ? そもそも、「王立」って「キング(王様)がつくった・承認したもの」でしょ?? それに、「ユニバーシティ」やら「カレッジ」って、結局は「大学」って意味で、同じじゃない??? それに、偶然の一致とは言え、どうして、この2つの薬科大学とも、学校が所在するエリアが「~~~・スクエア」って呼ばれる場所(→正確に言えば、そのうちの一つは後年「呼ばれた」、と過去形になるのだけど。後述参照⬇︎)なのよっーーー????

で、こんなことから(私だけに限らず)、大抵の英国薬科大学への留学希望者は、最初、「ロンドン大学薬学校」と「ロンドン大学キングスカレッジ薬学部」が別個の学校だと、区別できない。混乱するの、当然デス。

ちなみに、ロンドン市内には、現在に至るまで、この2つの薬科大学しかない。それ故、互いに、ライバル校となっています(例えれば、早稲田v.s.慶応、オックスフォードv.s.ケンブリッジ、平たく言えば、巨人v.s.阪神みたいな関係ね。笑)。

という訳で、将来、英国へ留学をお考えの方、この2校の違いには、くれぐれもご注意下さいませ 。。。

 

それから、この「謎で、20年前辿り着けなかった、ロンドン大学キングスカレッジ薬学部キャンパス」と「そこの連絡の取れなかった先生」についての後日談なのだけど;

キングスカレッジ薬学部は、私が観光者として訪れた、まさにちょうどその頃、新しいキャンパスへ移転の協議中だったのです。その結果、現在は、ロンドン中心部のテムズ河沿いのウォータールーという、全く違うエリアに所在している。

しかも、さらにややこしいことに、この「スローン・スクエア」に所在した時代までは、この薬学部、実は「チェルシーカレッジ薬学部 (Chelsea College, Department of Pharmacy) 」という名称であったことを、私自身、つい最近知りました。この「チェルシーカレッジ薬学部」は、その移転により、ロンドン大学の大型カレッジの一つであるキングスカレッジに併合された形となり、そこで「キングスカレッジ薬学部」と正式に改称されたものの、その移行期には「2つの学校名が流通していた」状況であったのです。私は、ちょうど、そんな最中に、もうすぐ『旧校舎』となる場所を訪問しようとした。それ故、道ゆく人へ聞いても、誰もが異なる事を口にしていたのは、今振り返れば、無理もなかったことだと、理解できます。

そして私が、日本から連絡を取ろうとしていた「キングスカレッジ薬学部の先生」は、大分後に、英国中部のノッティンガム大学薬学部の薬学社会学の教授になっていた事を知ることとなった。今日に至るまで、英国内で著名な、インスピレーション溢れる先生として知られています。

この先生の経歴を拝見する限り、これまた、私がちょうどコンタクトを取ろうとしていた少し前にロンドン大学キングスカレッジを去り、ノッティンガム大学へ移った様子。どうりで、お返事がなかった訳です。

 

でも、このたくさんの不可解な「????」があったお陰で、私は、最初、この南西ロンドンの「キングス・ロード」という通りで迷子になりながらも、後に「ロンドン大学薬学校」という場所へ導かれるように辿り着き、翌年、そこの世界一面白い「臨床薬学・国際薬局実務&政策コース」へ、日本人初の薬剤師として入学することができた。ここで受けた教育は、今日に至るまで、私の臨床薬剤師としてのバックボーンになっている。

私が、入学・卒業したロンドン大学薬学校 (旧:The School of Pharmacy, University of London. 現:The UCL School of Pharmacy)の「臨床薬学・国際薬局実務&政策修士コース (MSc in Clinical Pharmacy, International Practice & Policy) 」についての詳細は、過去のエントリ(⬇︎)もどうぞ

 

 

人生の岐路における、さまざまな選択において;

 

縁がなさそうな所には、無理に、行かない方がいい。

縁のある所へ行った方が、絶対いい。

そして、それが、後で「運命」だったと、気づくことになるんだよ。

 

そんなことを、再確認した週末となりました。

 

 

<番外編>

葉加瀬太郎さんのコンサート、忙しい日常をしばし忘却し、魔法にかかったような時間でした。

階上の、ステージから遠い席だったにも関わらず、ものすごい良い気に包まれている方であることが、ありありと見えました。そのこぼれ出るようなオーラと真摯なプロフェッショナリズムに圧倒され、今回、すっかり大ファンになってしまいました。

葉加瀬太郎さんの曲で、一番好きなのは「アナザー・スカイ」。私、近年の英国⇄日本の往復は、いつもANA。その長いフライトが無事着陸した後、BGMとして必ず流れる忘れ得ぬ旋律に「誰の曲かな?」と調べてみたら、葉加瀬太郎さんの作曲・演奏だった。それが、今回、このロンドンでのコンサートに行ってみようと思ったきっかけ。

私にとって、この「アナザー・スカイ」は、日・英両国への切り替えスイッチのオン・オフのテーマ曲です(笑)

 

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奥の建物が、今回の葉加瀬太郎さんのコンサート会場であった「Cadogan Hall」。一週間が過ぎようとしている今でも、まだ醒めやらぬ夢の中にいるような余韻のある、素晴らしいひとときでした。

 

では、また。