英国では、目下、本格的な夏休みが始まろうとしているところ。
英国人は、本当に、休暇好き。
天気の良い日が、滅多にない国だから、特に夏は皆、ギラギラな太陽を求め、国外脱出を図る。
行き先も、洒落た観光都市よりは、エキゾチックな国とか、ゆっくりできるビーチのある場所とかを好む。
この国、その昔は、海賊で財を成した。その後は植民地化で、世界制覇した。だから、海を渡り、見知らぬ国へ行きたがるのは、「習性」なのだと思う。
で、私も、世間より一足早く夏休みを取り、10日間ほど、地中海をクルーズしてきた。
私は、クルーズが大好き。英国人にとってクルーズは、「定年退職後の高齢者カップル」たちがやること、というイメージがあるけれど、私は、今回が5回目。老後の予行練習は、もう、ばっちり(笑)。
クルーズというと、贅沢な感じがするけれど、そんなことはない。英国の旅行会社では、予算に合わせて、色々なグレードのものが選べる。クルーズは、比較的短期間で、色々な国へ行けるところが魅力。飛行機の頻繁な乗り継ぎもないし、船内の自分の部屋がホテル代わりとなるから、時間も有効に使える。観光名所のある街に船が着けば、港から遠足のようにそこを訪れるのも良し、疲れた日は、甲板のサンデッキで本を読んだり、昼寝をしたりしてゴロゴロしていればいい。好きな時に起きても寝ても、船上のレストランやバーは、大抵朝から晩まで営業しているので、食事にも困らない。
で、クルーズの利点はさておき、私は、休暇で見知らぬ国、見知らぬ街へ行くと、必ずやることがある。
それは。。。
薬局を探して、訪問してみること。
これは、もう長年、病的な執着で「儀式化」している。という訳で、これから数回に分けて、今回の休暇中に訪れた「見知らぬ街の薬局」の記録を綴ってみます。
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「ロンドン・ガトウィック空港」
日本⇄英国の直行便や、大抵の長距離国際路線は、西ロンドンにある「ヒースロー空港」の発着となる。だから、この、南ロンドンに所在する「ガトウィック空港」、日本人にとっては、あまり馴染みがない空港なのでは、と思う。
で、今回、休暇のまず最初に、出発地点であるこの空港内の薬局を訪れ、色々と「もの珍しい」見聞をした。
こちら、英国の大手チェーン薬局「Boots」なのですが;
この写真(下)、午前4時頃に撮影した。
午後じゃない。
「午前」4時です。。。。
ガトウィック空港、主にヨーロッパ路線の、特に格安チケットや、パッケージ旅行会社と提携している航空会社が乗り入れている。だから早朝便が多く(一日の始発フライトは午前3時半頃!)、よって、こんな朝早くでも、薬局にはたくさんの人々が訪れ、当然のようにOTC 薬が販売され、調剤が行なわれていた。
以下、私が、英国で薬剤師免許を取得するために通った大学院でのコース(Overseas Pharmacists' Assessment Programme, 通称 OSPAP) での「薬事法規」の講義で習った知識の受け売りなのですが;
英国の薬局・薬事法は、ほぼ EU 加盟国と同様で統一されている。だから、英国の薬局に、EU 圏内で発行された処方箋が持ち込まれたら、薬剤師は、原則、調剤を断ることができない。言語の壁がある場合もあるけど、基本、人命に関わる場合は、対応すべきだとされている。特に、空港の薬局に勤務する薬剤師は、このような機会に接することが多く、普通の薬剤師よりも特殊高度な知識(例:EU 諸国の言語に、ある程度精通していること。各国の基本的な処方用語、例えば、英国の処方箋では、現在まず使用されていないラテン語表記なども解釈できること)が必要とされる
のです。
そして、空港内の薬局ならではの「渡航ワクチンや休暇に関する健康アドバイス」の看板(写真下)
理想的には、効果が現れる時間を考慮して、出発前に余裕を持って行うべきなのだけど、ギリギリで、ここでも、渡航ワクチンの接種ができます。訓練を受けた薬剤師が、薬局内の個室(写真下)で接種します。
それから、薬局内には「マラリアの予防薬、お任せ下さい」のポスターも。
前述の通り、英国人は「エキゾチックな国」での休暇を好む。だから、英国の薬剤師にとって、マラリア予防薬についての知識は、必須科目。渡航先の国や、滞在期間、服用予定者の持病などの症例が与えられ、いくつかある候補の中から、どの薬剤を最も推奨し、どれだけの量数を販売するか、そして、その薬剤に関するカウンセリング事項などは、英国の薬剤師免許試験で、毎年、必ず出題される問題の一つとなっている。
禁煙支援製品が、通常のBoots 店舗より、種類豊富に取り揃えているのにも驚いた(写真下)。そうだよね。。。飛行中は喫煙できないし、こんな機会に、禁煙を始めるのもいいかも。
そして、薬局内には、「脳卒中の早期発見」を促すこんなポスターもありました(写真下)。
去年のことでしたが、私自身、日本での帰国休暇から英国への帰路に着く直前、羽田空港内をぶらぶらしていた折、東南アジア系ビジネスマンの心停止に遭遇しました。空港の緊急医療チームが到着するまでの間、その方の一次救命処置や、その後、関係者間の事情聴取の通訳に関わったのですが、こういう「生死を争う」状況は、本当に、突然やってくるのです。だから、このような「脳卒中の早期発見と対処法」といったことも、薬局で啓蒙しているのは、とても良いことだなと思いました。
その他、Boots は、数年前まで、空港内の薬局内で、「旅行傷害保険」の対面販売もしていました(現在はオンライン購入のみになってしまいましたが)。日本の空港では、各大手保険会社がブースを構えていますが、英国では、旅行傷害保険と言えば、郵便局か、Boots で購入する、というのが主流な考えになっています。
という訳で、恐らく、英国内で最も早朝から営業している、こちらの薬局をうろつきつつ、
薬局・薬剤師ができることって、本当に色々あるね。
と、改めて考えさせられながら、眠い目をこすりつつ、英国を経ったのでした。。。
この旅の続きは、次回へ。
おっとそれから。。。このところ、日記が、英国国営医療サービス(NHS) 創立70周年やら、休暇の話に脱線しておりますが、7月1日のエントリ「プレレジ研修(仮薬剤師)時代」の続きは、今月末頃に更新の予定です。
休暇中、日記を更新していなかった期間のアクセス数も多く、帰宅後、本当に驚きました。始めたばかりのブログ日記への皆さまの暖かいご支援、誠にありがとうございます。
では、また。