日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

見知らぬ街の薬局を訪れてみた。宮城県・仙台市編

 

先月、日本へ里帰りをしていた。

3年半ぶりに。

 

昨年度 (2022/23年) の有給休暇は、処方薬剤師免許取得のための自主勉強時間に、ほぼ全てを使い果たしてしまっていた。よって当初は、最後に残った5日で休息できそうな、英国内での気軽な旅行を考えていた。

英国国営医療サービス (NHS) 勤務の者へは、年間 26-33日の有給休暇が与えられており、100% 消化することが求められます。そのため年度末の 2-3 月 は、多くのスタッフが休暇を取る傾向にあります。私が数年前、このような状況で、慌ただしく取った有給休暇の行き先は、こちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

でも、日本が大好きな私のパートナーは「一週間でもいいから、日本へ行きたい!」と。

休暇の前の週末に働き、英国を発つ直前も数日間連続の夜間当直勤務を行うことで、その代休を含め、なんとか 10 日間を確保。

でも、そのうちの3日は英⇄日の往復となったため、東京2日→静岡(沼津)1日→宮城(仙台)3日→千葉1日という、駆け足旅行でした。

3年半ぶりに飛行機に乗り込み、座席のスクリーンに「TO TOKYO / HANEDA」の文字が映し出され、葉加瀬太郎さんのヴァイオリンの音色が聞こえ始めた時、新型コロナウイルス (COVID-19) に翻弄されたこの3年間を振り返り、咽び泣いてしまったよ。。。

ANA 離着陸時に機内で流れる「Another Sky」、大好きな曲です。ある時ふと耳に入ってきたメロディーに心を揺さぶられ、それがきっかけで、葉加瀬太郎さんのロンドンのコンサートにも足を運びました。その時の様子は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうそ。

 

ところで、最近、諸事情により、仕事があまりにも激務な私。

この休暇中は、心身を休めるべく「仕事(=薬学)のことは、すっかり忘れて楽しむ!」と心に決め、今回は、旅先で毎度行う「薬局巡り」もしないつもりでいたのですが;

仙台に着き(写真下⬇︎)、まずはこの街の有名な「抹茶アイスクリーム屋」さんへ行く道すがら、無数の薬局の前を通り過ぎていくうちに。。。

すっかり忘れていた昔の記憶が突然蘇ったり、日英の昨今の薬局事情を考えさせられてしまったのよね(苦笑)。

と言う訳で、今回のエントリでは、その時思い出したこととか、考えたことを綴ってみることにします。

杜の都の玄関・仙台駅。私はこの地で生まれ、幼少期はここで育ち、大人になってからも何度か短期的に住んだのだけど、その後、引っ越しを繰り返したせいか、記憶が薄れている。でもこの街は、訪れるたびに絶えず発展しており、いつも驚かされる。現在、ロンドン郊外の小さな町に住む私の目には、圧巻されるほどの活気がある地

で、お目当ての抹茶アイスクリーム屋さんは、この通り(写真下⬇︎)にあることを突き止め、歩き進んでいくと。。。。

仙台市の繁華街にあるクリス・ロードと言う名のショッピングアーケード。英語のガイドマップでは Clis Road とあった。和製英語なの?

まず、右手に見えたのが「ツルハドラッグ」さんだった。

日本のドラッグストア業界のトップ3とのことですが、私自身、実店舗を見たのは恐らく今回が初めてだったと思います

そして、ツルハドラックさんの斜め向かいには「ダイコクドラッグ」さんが。外国人客には免税の17%引き、3000円以上お買い上げの方には 10% 引き、そして会員には6%引き。。。などと、何かにつけ「割引」を強調している薬局である印象。

こちらの「ダイコクドラッグ」さんの店頭で「未経験者大歓迎」のアルバイト募集の広告も目にした。私も日本の薬科大学生の時、こういったチェーン薬局(→ちなみに、東京・荻窪の「ドラッグセガミ(現:ココカラファイン)」さんでした)の店頭に張り出されていた広告をたまたま目にして、週末の学生アルバイトを始めたんだよね。そこで最初に任されたのが「前陳」っていう作業で、商品をいかに美しく陳列し、お客さまの購買意欲をそそらせるかということを、店長さんから教えてもらったことを鮮明に覚えている。そして、ここでの職歴、30年経った今なお、私の英語の履歴書の一番下の段に(自身の最古の職歴として)記載しているんだったなあ、といったことも思い出した。

ちなみにこの「前陳」作業、英国最大手チェーン薬局のブーツ (Boots) でも、一昔前は、新人教育・訓練の一つに入っていたと、以前、ブーツで働いていた同僚から聞いたことがある。現在は米系資本になってしまったからなのか、徹底されていないようだけど。。。(苦笑)

それからちょっと歩くと、次は「マツキヨ」さんが見えてきた。

中国系の観光客へ向けてなのであろう。店頭に「松本清」という垂れ幕を掲げているのが、可笑しかった。私、今から約20年前に、住友商事の子会社のドラッグストア(後述⬇︎)で1年弱働いたのだけど、当時、そこの経営陣の方々が口々に「『マツモトキヨシ』ほど、薬局名としてインパクトのあるものはない。創業者の名前そのものながら、語呂としての響きもこの上ない。あのネーミングだけは、日本中のどのドラッグストアも勝てないだろう」と仰っていたことを、ふと思い出した。マツキヨさんは「セルフ・ブランディング」なんて言葉がなかった時代から、それを体現してきたドラッグストアなのだ。

マツキヨさん、いつの間に、イメージカラーが青色になったの(以前は全面的に山吹色だったはず)? 日本に在住していない私は、こういったことに気づくのが楽しい

で、お目当ての「抹茶アイスクリーム屋」さんへ到着。

仙台市内では有名なお茶屋さん「井田」

こちらの店内で味わえる抹茶アイスクリームは超絶品。私のパートナーは、新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミックが終焉したら、まずはこれを食べるべく日本を再訪するんだと、ずっと心待ちにしていたとのこと。皆さまも、仙台へいらした際は、是非!

 

お腹も心も満たされた後は、また、このアーケード街のそぞろ歩きを再開。

 

ちょっと歩くと「サンドラッグ」さんが。

でね、こちらのドラッグストアを目にした時も、すっかり忘れていた昔の記憶が、突如、蘇った。

私、サンドラッグさんの本社へ就職の面接に行ったことがあったのよね。ロンドン大学薬学校の大学院1年目が終わり、英国へ戻る資金欲しさに、手っ取り早く稼げる場所はないかと思って。

その時の人事課の採用担当者は本当に熱心な方で、なんと一対一の3−4時間ぐらいをかけた面接となった。その時に、当時の日本の「ドラッグストア業界とそのグループ編成」のことについての知識の有無を問われ、何も知らなかった私(汗)は、そこでツルハドラッグさんの名前も初めて耳にしたのだと思う。

本社の一階に、当時としてはモダンな IT 設備を投資した大きな薬局店舗もあり、印象に残る会社だった。

でも結局、私は、こちらへの就職は辞退してしまった。同時に面接を受けていたマツキヨさんのお給料額の高さに惹かれてね。あんなに誠実な人事課の方の多分な時間を無駄にしてしまい、本当に申し訳ないことをしてしまったなあという後悔が残った。まあそんなにしてまで就職したマツキヨさんも、10日で退職してしまったのだけど。。。

その当時の話は、以前、こちらのエントリ(⬇︎)でも書いています。

 

それから、このアーケード街には、イオン系スーパーマーケットもあり、入り口に、薬局の案内が大々的に表示されているのが目に入った。

ちなみに今、英国では、スーパーマーケット内の薬局数は、急激に減少しつつある。スーパーマーケット薬局の代表格であったロイズ (Lloyds) 薬局が、提携していた大手スーパーマーケット・セインズブリーズ (Sainsbury's) から、つい最近、撤退を発表したからだ。そこで働いていた薬剤師たちの突然の解雇も、目下、大問題になっている。

そういえば、日本の薬局ではほぼ必ず販売されている「栄養ドリンク」って、英国では皆無。日本独特の商品であることに、今回改めて気づいた

 

これで、こちらの仙台駅近くのクリスロードというアーケード街を端から端まで歩いたことに。

英国では、こんなわずか 100m ほどの通りに、5−6薬局が軒並みを連ねているなんてあり得ない。大型チェーン系といったら、ブーツ (Boots) かロイズ (Lloyds) かスーパードラッグ (Superdrug) ぐらいなもんだしね。

 

それからもあてどもなく、仙台中心地の繁華街を歩いてみると。。。

2軒目のマツキヨさんを見つけた。

それから、とても上品そうな調剤薬局の前も通りすぎ、

2階が薬局の入り口になっているという、珍しい薬局も見つけ。。。

なんと「トモズ」も発見!!!

前述の通り、2001-2002年、日本に一年間戻っていた私は、サンドラッグさんの就職のオファーを蹴り、マツキヨさんも10日で辞めた。でもその後すぐ、運良く、住友商事の子会社が買収したばかりであった「アメリカンファーマシー」で働くことになった。その経緯と言えば、今はなき有楽町の本店を訪れたら、店内の片隅に張り出されていた「薬剤師募集」の小さな求人広告を見つけ、その場で薬局カウンターで状況を聞いてみたら、そこの薬剤師さんから開口一番「お待ち致しておりました!」と言われたので(笑)。

でも、こちらの会社のドラッグストア部門の本丸は「トモズ」であり、当時、その発展にことさら力を入れていた。

だから、そこでの就職面接の時、私の両親の家が仙台であると知った人事課の方は「今後、我が社は仙台を皮切りに、うまくいけば東北地方全体に拡大したいの。将来はそのエリアマネージャー候補ということで、まずは、仙台のトモズで勤務するのはどう? アメリカンファーマシーで管理薬剤師をするより、これからのあなたの将来に、より大きな扉が開けると思うのだけど」と誘われた。

でも、英国へ戻ることが念頭にあった私は、少しでも英語環境で働ける薬局の仕事の方が、今後のために有益であろうと考え、そのお話もお断りした。

私の「たら・れば」。人生で別の道があったかもしれない昔の話を、こちらのトモズを通りかかり、ふと思い出した。

 

仙台駅へ戻る道すがら、マツキヨさん3軒目を発見。仙台は、マツキヨさんの圧勝みたいでした。

 

でもね、仙台で私が一番好きな薬局は、ここ。

地元で長い歴史を誇る「ダルマ薬局」。私が子供の頃は、東北地方で手広く経営されていたらしいのだけど、現在はマツモトキヨシさんの傘下にあり、この屋号名を持つ店舗数は減少の一途を辿っているらしい。

で、なぜ思い入れがあるのかと言えば、私、仙台市内の個人産院で生まれたのだけど、当時、その産院の目の前にこの「ダルマ薬局」の店舗が一つあったんだって。

母の産後を手伝いに、遠方からはるばるやってきた今は亡き祖母が、その薬局へ買い出しに出かけると、祖母の方言(=静岡・沼津弁)を耳にしたそこの薬剤師さんが、自分と同郷であることにびっくりしたらしい。そして、そのよしみで、私の誕生祝いとして、薬局にあった景品を山のようにくれたとのこと。そしてその一つは「調理用水切りザル」だった、と言う話を、子供の頃、よく聞かされた。

ふーんと聞き過ごしていたけど、今思えば、その薬剤師さんこそが、生まれたばかりの私に、赤の他人で、初めて物品をくれた人であったはず。イエス・キリストは誕生の際、東方の3博士から「黄金」「乳香」「没薬」を贈られたらしいけど、私は「ザル」をもらったんだな(笑)。そしてその私がその後、薬剤師になったのも、奇縁かと。

それにしても、なぜ、薬局の景品に「調理用水切りザル」が。。。? 昭和ののどかな時代が思い起こされるようなエピソードよね。

ちなみに英国の薬局では、景品の配布は、薬事法で禁止されている。販促の規制がものすごく厳しい業界だから。

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3年半ぶりの日本の休暇、本当に楽しかったです。

今回は、両親以外のどなたともお会いしない里帰りとなってしまいましたが、私、目下、今年9月の帰国も予定しています。その折に、皆さまにお会いできるのを楽しみにしております。

今回の日本滞在の最後の写真:羽田空港第3ターミナルの搭乗ゲートすぐそばの薬局カウンターに飾られていたカエルの「ケロちゃん」。また近いうちに、日本へ「カエル(帰る)」からね!

 

では、また。