日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

NHS(英国国営医療サービス)創立70周年

前回からの続きを書こうとしていたのだけど。。。

重大なことを、すっかり忘れていた。

今日は、これを書かずにはいられない。

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前触れは、ここから始まった。

先週の水曜日に出勤すると、職場のオフィスのコミュニケーションボードに書かれた、このメッセージ;

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「明日、青と白は、70だ」

 「皆、アイスクリームの無料引換券を受け取るべし」

 

え??? 

まるで、謎解きのような伝言だけど。。。。

 

そして、当日、勤務先の病院は、とっても「ハッピーバースデー」な雰囲気(写真下)

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そう、2018年7月5日、英国の国営医療サービス「NHS」 は、創立70周年を迎えたのです。

 

ご存知のない方に、簡単に説明をすると;

英国の国営医療 (National Health Service) は、通称「NHS」と呼ばれている。国民の税金で主に運営されており、英国に在住する全ての人に、無料で医療を提供している。英国内の医療施設やサービスは、殆どが国営で運営されている。つまり、医療というものが、国家事業として、政府により統括されている。 

第2次世界大戦後の疲弊した英国で、「ゆりかごから、墓場まで」のスローガンで推し進めた社会福祉政策の代表産物。1948年に設立されて以来、NHS の制度は、日本を含め、世界中に大きな影響を与えてきた。

NHS は、英国に住んでいる人だったら、必ずお世話になるサービス。王族も、貴族も、著名人も、一般人も、ホームレスも、全ての人が利用している。普通に健康な人でも、予防医療的なものも無料のため、皆、生涯のうち数えきれないほど、NHS を利用していることだろう。

NHS のロゴは、青地に白字で統一されている(だから、冒頭のコミュニケーションボードで、謎解きのように書かれた『青と白』とは、NHS を意味していた)。英国の国営医療施設の看板は、全て、この写真下のようなもので統一されている。英国の街中を歩いていると、至るところで、このような「青と白」の看板を見かける。

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 英国人に、「『これぞ、英国』、っていうものを挙げて下さい」、と質問したとしよう。日本人の大方の予想は、「王室、天気、紅茶、パブ、フィッシュ・アンド・チップス、ビートルズ....etc.」なのではないだろうか。でも、英国人は、ここに、間違いなくNHS を加える。NHS は英国人の誇りであり、英国の「真髄」と言っても過言ではない。

「NHS はイギリスの国教」とさえ言っている人もいる。私も(誤解を招くかもしれないけど)同じ考え。これだけ多くの世界中からの移民が暮らし、異なる宗教や信条のある国だと、皆、価値観も意見もバラバラ。そんな中、人々が、全く同じ考えを持って賛同・支持しているものって、英国では、事実上、NHS ぐらいなものだ。英国人は皆、本当に、国営医療 NHS の熱心な『信奉者』。

 

でも、このNHS、慢性的な財政難で、状況は年々悪くなっている。

 

日本の医療を標準に考えると、必要最低限と言わざるを得ないレベルと質のサービスだし、英国人にとっても、NHSで医療サービスを受けた際 「とんでもない(最悪な)」経験をしたことは、誰しも1つか2つ、必ずある。私自身、自分の職場を見渡すと、「ここは野戦病院か、はたまた、ジャングルかな」と思う点が、かなりある。

私が勤務している病院は、特に、年がら年中財政難で、閉鎖の計画や、他の病院との吸収合併の話が絶えない。

NHS そのものには、時に、国家公務員団体ならではの「お役所体質」というか、「のらくらさ」もある。

そして、世界中の、価値観の異なる人々を従業員に受け入れているため、日々の職場でのいざこざも、日常茶飯事。「文化の違い」と言ったら、それまでなのだけど、私は毎日、「有りえないーーーっつ」と叫びたくなるような、抱腹絶倒な経験をしている。逆に、怒り心頭となる日も数え切れない。

 

でも、

 

世界中からの移民を受け入れる国で、

その全ての人に無料で医療を提供し、

どんな高度医療(例:臓器移植とか)から、予防医療(例:匿名の性病検査を、必要な全ての人にとか)まで、エビデンスに基づく医療を、経済効率を考慮しながら、一切を無料で提供してきた功績は、計り知れない偉業。

そして、NHS は、日本からやって来て、どこの馬の骨とも分からなかったであろう私に、英国移民局へ大金を積んで労働許可書を手配し、異なる国の医療機関で働くというチャンスもくれた。この人生の転機は、感謝してもしきれない。

 

10年前の60周年の記念日も、「NHS は(財政難で)次の10年を迎えることができるか、疑問」と言われていたけど、

先週の木曜日の7月5日、無事、「70歳」の誕生日を迎えられた。 

NHS、80歳の誕生日まで、引き続き運営できるかな?

 

現実は厳しく、

私の勤務病院では、「70歳の誕生日に浮かれていないで、皆で、病院存続のデモ行進をしよう!」との張り紙もあったけど(写真下)、

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何はともあれ、NHS、創立70周年、おめでとう。

 

で、私の職場の病院では、NHS 創立70周年祝いということで、従業員全員に「アイスクリーム」が配布された(写真下)。

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国民の税金で運営している国営医療病院で、スタッフ全員にアイスクリームなんか大盤振る舞いしていいのかなあ? こんなことしているから、NHS は破綻・崩壊寸前だ、とメディアからしょっちゅう批判されているのでは?? でも、それとも、これって、英国政府による、アイスクリーム(飴)と鞭の医療政策??? 

と一抹の疑問と不安が、頭をよぎったが。。。。

アイスクリームは、勤務先の病院のケータリングを請け負っている会社からの善意の進呈だったそうです。うわーい! 

そして、患者さんやお見舞いに来る訪問者の方々へ、病院内のカフェで「紅茶を飲んでケーキも食べて」その分の代金を、病院への慈善寄付としましょう、というキャンペーンも行なっていた(写真下)。

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そう、NHS は、熱心な信奉者である英国民の善意で成り立っている面が、たくさんある。

 

アイスクリーム、ごちそうさまでした。

これからも、NHS で一生懸命、働きます。

 

God Save the NHS!

 

それでは、また。