日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

見知らぬ街の薬局を訪ねてみた。イタリア・フィレンツェ編

 

この旅行記は、前回(⬇︎)からの続きです。 

 

今回の休暇、英国からスペインのマヨルカ島へ飛び、そこからクルーズを始めた。

最初に停泊したのが、イタリアのリヴォルノという港町。

そこから、クルーズ船会社が用意していたバスツアーで、フィレンツェまで足を伸ばした。

 

で、フィレンツェ、薬局の数がものすごく多い街だった。嬉しかったなあ。

有名な「ドゥオーモ」(写真下)の周りに何軒薬局があるのだろうと、ざっと歩いてみただけでも、5ー6店舗見つけられた。

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全部、個人経営薬局(写真下)。どこもかしこも、昔ながらの外装の店構えだった。歴史・観光的に重要な街で、近代的な建物を建てることが難しいからなのだと思う。そういう点では、ロンドンと似ているかも。

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で、今回のフィレンツェ観光の最大の目的は「『世界最古の薬局』を訪れる」ことだった。

でもね、私、休暇前、ものすごく忙しくて、全く下調べをせず、ガイドブックも持たずに、この街に来てしまった。クルーズ船内は基本、インターネットが接続されていないし、見知らぬ国へ来て、スマートフォンもろくに使えないし、現地へやってきて、ツアーガイドさんが渡してくれた市内の簡単な地図を片手に、さあ、どうしようかな? 状態。でも、街を気ままに歩き回り、いろんな人に聞き訊ねながら『世界最古の薬局』を探し当てるのも楽しいんじゃない? なんて、当初は気楽に考えていた。

それで結果として。。。 この「世界最古の薬局を訪れる」というミッション、フィレンツェ中心街の薬局を全て訪れたんじゃないかというほど歩き回ることになった。まさに自己挑戦企画(笑)。最後は苦行と化したなあ。

例えば、とある両替店の店員さんが、とても親切で、「恐らくここだろう」という住所を紙切れに書いてくれ、そこを訪ねてみたのだけど、

行き着いたその場所(写真下)は「フィレンツェで最初に英米様式で開局した薬局の跡地」、だったりした。ここ、現在は内部が改装され、服飾専門店になっていた。

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後で調べたら、こちらの薬局 (Profumeria Inglese) 跡地、現在に至るまで世界中で使用されている、タルク(滑石)をベースにした「ベビーパウダー」の開発・製造の発祥地でもあったとのことです。それはそれで、訪れる価値のある場所でした。

 

そんなこんなしているうちに、ツアーの観光自由行動時間も終わりに迫ってきた。でも、もう諦めようかなーと思った瞬間に、突然思い出したのが;

「あっ、その世界最古の薬局、『サンタ・マリアなんとか』って名前だったはずだ」ということ。

それらしき名前のつく教会(写真下)を地図で探し、そこまで行ったらなんとかなるんじゃないかと思い、それからフィレンツェの中心街を猛ダッシュでマラソン横断(笑)。

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で、この教会の近くまで辿り着き、その周辺の薬局の一軒に飛び入り、そこの薬剤師さんに『世界最古の薬局はどこ?』と尋ねると、さすがに心得ていたの。

「ここをまっすぐ行けば辿りつける」って教えてくれた。 

 

で、最後の最後の最後で探し当てた、現存する「世界最古の薬局」が、写真下の、「サンタ・マリア・ノヴェッラ (Santa Maria Novella) 」です。

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 建物の中に一歩踏み入れた途端に、何とも言えない優しい香りに癒されました。香りのパワーってすごい。何時間も歩き回った疲れが一気に吹き飛びました。

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店内のディスプレイも、とても素敵。

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こちら、歴史は13世紀まで遡れ、ドミニコ会の僧侶が修道院(先の教会)の庭で栽培していた薬草をベースに作った製品を販売していたのが起源だとか。正式な薬局の認可は1612年だそうです。

ただ、あれ? ここ、殆ど全ての商品が「香水」とか「石鹸」とかだ。

でも、よーく考えてみると、現代、世界中で当たり前のように使用されている「薬」の殆どが、この過去わずか100年ぐらいの間で開発されたものなんだよね。例えば、アスピリンの合成が今から約120年前で、インスリンの抽出がほぼ100年ほど前、抗生物質は第2次世界大戦の前後頃から本格的な使用となり、精神科系の薬もこの50−60年で劇的に進化した。

だから、世界薬学史上、薬と言えば、長い間、植物をはじめとする自然由来のものが主なものだったのだと、改めて認識。

 

で、話が前後するのだけど、「サンタ・マリア・ノヴェッラ」の所在地を探すため、その一歩手前で、「世界最古の薬局はどこか」と聞き、親切に教えて下さった、こちらの薬局(写真下)ですが;

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ホメオパシー薬局だった。イタリアの薬局、改めて「自然志向」であることを確認。そして、店内には十字架が掲げられていた(写真下)。

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下の、とても写りの悪い写真なのだけど、こちらの薬局の外側に設置されていた大きな自動販売機の中の商品、殆どが避妊用品だった。イタリアは敬虔なカソリックの国で、避妊や中絶にも制限があるはず。だから、店内では対面販売せずに、全て自動販売機にし、自己責任での購入という形にしているのかなあと、勝手に解釈。

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ちょうど写っていないのですが、この自動販売機の上段全てが、各種避妊用品だった。


ところで、妊娠中絶と薬剤師という、とても議論のある話なのですが;

現在、私は、英国の病院で、世界各国出身の、さまざまに異なる宗教や信条を持つ薬剤師と一緒に働いている。そのため、同僚の間でも、中絶の賛否が、全く異なる。医学的な点からの人工中絶であっても、薬剤師のバックグラウンドによっては、その処置に使用される薬の調剤や供給を忌避し、こっそり私の元にやってきて「お願いだから、代わりにやってもらえないか」と、懇願されることがある。目に涙を浮かべている者すらいる。中絶薬に触れることすら厭がる薬剤師が、世界中にはいるのだということを、私は、英国で働くようになってから初めて知ったのです。。。

 

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ここからは、番外編。

 

フィレンツェの次は、バスツアーの続きで、斜塔で有名なピサ(写真下)にも移動したのですが;

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ここでは、フィレンツェの薬局繚乱から一転して、薬局を(1つも)見つけることができなかった。ガーン。。。。

唯一、それらしきものを見つけられたのが、こちら(写真下)。でも、所在地は最後まで分からず、観光自由行動時間切れ(泣)。

 

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バスガイドさん曰く、ピサはイタリアでも1ー2を争うほどの、入学するのが「とーーーーーっても難しい(ガイドさん、イタリア訛りの英語で 'veeeeeeery difficult' と言っていたからね。笑)」大学がある町とのこと。学生の人口が多いということは、比較的健康な人が多く、薬局の需要も少ないのかな、などと考えながら、この街を後にしたのでした。

  

今回のクルーズ休暇中の「知らない国の知らない街の薬局に行ってきた」シリーズは、次回にも続きます。

 

では、また。