今回のエントリは、シリーズ化で、前回はこちら(⬇︎)になっています。
自分が勤務している病院の緊急医療室に「一患者」として駆け込み、それから、長い、長い、長い待ち時間が始まった。
それを予測し、以前からずっと前から読みたかった(でも日常の忙しさで読めていなかった)本を数冊持って行ったのだけど、それを全部読破し、それでもまだ時間を持て余したほど。
一方、緊急医療室の待合室は、未だかつて目にしたことがないほどの(異様な)静けさだった。通常であればその倍の数の患者さんが押し寄せているのが、当たり前。骨折し痛みに耐えている人、明らかに調子が悪くぐったりしている者、病状から吐瀉物が絶えない患者さんなどの横で、酔っ払い、違法薬物中毒者、殺傷沙汰に巻き込まれた人も必ずいて、そういった人たちが暴れ泣き叫び、病院内の警備員や警察が介入していたりと、緊急医療室という場所は、常に何かと騒がしい。でも、その晩、そういった反社会的行動を取る者たちを一切見かけなかった。
英国では今、「新型コロナウイルスの第2波、到来か?」という状態である(→注:このエントリを書いている途中で、英国内の「2度目のロックダウン」が発表された。その模様は、下記の<番外編>もご覧下さいませ)。緊急医療室には「今、この瞬間、新型コロナウイルスに感染する危険性大でも、医療が必要な緊迫した人」しか来ないのであった。
新しい試みらしく、待合室のBGM が高級スパで流しているようなリラクゼーション系のものとなっており、そこにいる者の忍耐の維持に一躍買っていた。そして、その静寂を破るかのように、時折、騒がしくアナウンスされる「只今、緊急医療室の待ち時間は、平均4時間ほどとなっております。皆さまのご協力ありがとうございます」という院内放送を、数えきれないほどの回数、聞いた。
皆、無言で、自分の順番を、辛抱強く待っていた。
で、午後11時半頃、ついに私の番となった。
呼ばれたのは、普段から馴染みのポリー先生。今年の夏、医学校を卒業したばかりの研修1年目 (FY1) の女医さん。イングリッド・バーグマン似の美女。
英国内の医師の階級とその呼称(例:FY, CT, SpR など)については、以前のこちらのエントリ(⬇︎)をどうぞ
簡単な病歴;「いつの間にか出来ていたこぶだった。『脂肪腫』と思って、かなりの期間、放っておいた。でも、1−2日前から異常なほど大きくなり、熱を帯び、悪臭を伴う微量の排出液と共に痛みが出てきた」と説明。
先生が患部に優しく触れると、痛みは全く感じなかった。そして、こぶの大きさを測ると「1.5 x 2.5ぐらいの嚢胞ね」と。
いや。。。? もっと大きいと思うよ。恐らく、嚢胞はかなり深部にまで食い込んでおり、把握できてないんじゃないかなあ。。。あ、でもこの国では、サイズを cm (センチ) ではなく、inch (インチ) で示すこともあるよね。その尺方なのかな? などと内心思っていると、
「私の初期診断だと、経口の抗生物質のフルクロキサシリンで治療・様子見ってことになると思う。でも、上司にも意見を聞いてみるから、待合室で待っててくれる? えーっと、その前に、念のため、血圧と体温も計りましょう」と。
でも、私が通された診察室、なんと、血圧計は壊れており、 体温計も所定の場所に置かれていなかった。
これもまた、英国国営医療サービス (NHS) の「あるある」😡💢。物が壊れても、誰も直そうとせず、常にどこかから・誰かから「奪い取ってきて」使用するため、故障したものは、ずーっと壊れたまま。
これ、何も医師たちの間だけで起こることではない。例えば、私の身近な(ほんの)一例を挙げれば、薬局内で、ホチキスなどの備品が壊れた・針がなくなっても、誰も直そうとせず、針も補充せず、皆知らんふりをして放置している。で、いざ必要になった時どうするのかと言うと、「誰かの」机の中から、その人所有のものを「(こっそり)取り出し」、我が物のように使い、しかも元の場所に戻さない。だから、元の持ち主は、ある時、自分の所有物の紛失に気づきオタオタしながら「どこだ、どこだ?」と探し廻る。そして、それで探せないと、その人もまた他の人の机の中から「(こっそり)取り出し」使い出す。その繰り返し。これ、永遠の堂々巡り😡💢。
私は、そういった「モラルの低さと非効率さ」に耐えられず、自身の業務上不可欠な物品のほぼ全てを、日本製(→英国製のものより遥かに壊れにくく、コンパクトなものが多い。最高!)のもので買い揃え、自分の「小さな仕事用かばん」に納めていつも持ち歩いている。でも、それが同僚の間で広く知れ渡ることになり、厚顔にも「マイコ、oo を貸してえ〜」と常に誰かが、私のところへやってくる。この状況は、英国国営医療サービス (NHS) 内で働く上で果てしなく続く「仁義なき戦いだ」。。。(苦笑)
で、話を戻し;
ポリー先生、大分時間をかけ、他の診察室から血圧計と体温計を「奪って持ってきて」、私のバイタルサインを測定してくれた。血圧がいつもより高かったが、正常値(→注:私は、元々、低血圧気味な人)。体温も平熱。そこで彼女の診察は終了した。
その時点での私の感想は;
(えーっつ。こんなに腫れていても、経口の抗生物質で様子見なんだ)と半信半疑。でもまあ、研修医1年生の判断だよね。。。。
大学病院というのは、教育・研修の場。若手の先生がまず初診した後、必ず(奥に控えている)その上司の先生へ報告し「2重確認」するシステムが取られている。で、いやはや、研修医の「診断・治療方針」、正解か? と。
再度、待合室で待つこと約30分、ポリー先生が、私の元へやってきた来た。
「ボス(=緊急医療室医長)に相談したところ、あなたのケースは外科部門でも診てもらった方がいいって。でも、今ね、外科の当直の先生、緊急の患者さんに関わっていて、すぐには捕まらない。もう少し、待てる?」と。
「構いませんよ」と答えた。私も、できるだけ多くの医師の意見を求めたかった。
午前1時頃、ようやく外科の先生に呼ばれた。名前は存じ上げていなかったけど、若い頃のブラッド・ピットに似た、専門研修医 (CT1/2?) の、これまた顔見知りの先生だった。先生も、「あれ? ウチの薬剤師さんじゃない」と。
そして、患部を一目見るなり、
「3.5 cm x 4 cm ぐらいの嚢胞だね。最低でも、ドレナージ処置が必要だ。実際の所は、局所麻酔による摘出となるだろう。もしかしたら最悪の場合、全身麻酔による手術になるかもしれない」と。
びっくりする私に、
「明日の朝一番。。。いや、もう日付が変わっているから今日だよね。あと数時間後の午前9時頃、外科手術アセスメント室に来れる? そこで最終決定しよう」と。
「(ひえーっ😰)はい。じゃあ、明日の9時に。。。」
と約束して、計5時間以上に渡る「緊急医療室診療」は終了した。
病院から一人自宅へ戻ると、午前2時を過ぎていた。
そして、ふと、こう思った。
「局所麻酔か、最悪、全身麻酔での切除って言っていたな。もし全身麻酔になるとしたら、私、今回、人生初の『手術』になるんだな。。。そうだとすれば、今すぐ絶食しなくていいんだろうか?」
「いやー、でも、それにしても長時間に渡る待ち時間で、お腹空いたわ。まあ、局所麻酔での切除になるみたいだし、たとえ全身麻酔になっても、今、何か食べるの、まだ、許されるだろうな。。。」
冷蔵庫を覗くと、クロテッドクリームとストロベリージャムがたっぷり挟まったスコーンがあった(写真下⬇︎)。
2個一気に、むしゃむしゃと食べた。相変わらず、食い意地が張っているなあ、こんなものを真夜中に食べるから、私、太るんだ、と自分で自分を笑いながら。
でも;
万が一、全身麻酔による手術中のアクシデントなどで死亡するようなことがあれば、これが「最後の晩餐」になるのかもな。。。
という一抹の不安が脳裏を掠めたのも、事実だった。
次回に続く。
<番外編>
英国の新型コロナウイルス (COVID-19) 最新情報
先週末、英国が11月5日(木)より、再び「ロックダウン」に突入すると宣言された。
その首相会見のテレビ中継を病院の食堂で観ていた時、ふと何か気配を感じ、振り向くと。。。(写真下⬇︎)