日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

緊急手術を受けた。そして、入院患者になった(4)手術当日編

 

今回のエントリは、シリーズ化で、前回はこちら(⬇︎)になっています。 

  

手術当日の朝8時、指定された通りに、外科手術アセスメント室へ戻ってきた。

まず、尿検査。MRSA 検査もするはずだったのだけど、なぜか省略された。

 

昨日は「アセスメント」、すなわち外科手術が必要か否かの判断であったため、椅子が並ぶ診察エリアで過ごしたが、今日は「手術室行き待機患者」ということで、ベッドが並ぶ場所(写真下⬇︎)へと案内された。

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手術待ちの人が待機するベッドエリア

ここで、病院内着に着替え、深部静脈血栓予防のストッキングを履くよう指示された。ちなみに、病院着の下は真っ裸でねと。 。。。前の晩「どのパンツ👙にしようかなー?」と散々悩んだ時間が、すっかり無駄になってしまったなあ!(爆笑)

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簡易ベッドの上に用意されていた、背面が容易に開く病人着と深部静脈血栓防止のストッキング

で、ここでも、長い、長い待ち時間が始まった。

奇遇にも、その日の私の担当看護師は、長年一緒に働いてきたアイルランド人のタミー(→女性名「タマラ」の愛称)さんだった。私が、外科病棟担当の駆け出し臨床薬剤師で、彼女がそこの看護師の主要メンバーであった頃から互いを知っている、尊敬する同僚。

「マイコ! どうしたのよ? 今日の患者リストの名前を見て、これ、アンタじゃないって、半信半疑だったのだけど。。。」と。自分が勤務する病院で患者になると、こんな気恥ずかしい場面、満載だ(笑)。

来るべき手術に備え、早速、腕に静脈カテーテル(写真下⬇︎)を挿入してもらった。ちなみに、日本語で「カテーテル (catheter) 」と呼ぶものは、英語だと「カセター」という発音に近い。

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この写真より、手術日から1ヶ月が経とうとしていることを改めて振り返った(注:英国で年月日は、日/月/年の順に表記していくのが常。つまり「22/10/20」とは、2020年10月22日のこと)。

日本と英国で、特に薬剤名の発音が違うものいろいろにご興味のある方は、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

 

ただし、それにしても待ち時間が長い。。。。時が経つにつれ、首の後部は痛みが増し、嚢胞は何か化け物のような異物として刻々と膨らんでいっているのが実感できた。

そして、本日の手術予定患者の2番目だと言われていたのに、お昼時間を経過しても、手術室へは行けなかった。

タミーさんも「あなた、すごい待たされているわね」と一言。

思い余って「順番、どうなっているんですか?」と聞いても、

「ここでは、私たちには、手術室の順番は、一切聞かされていないの。向こう(=手術室)から連絡が来たら、送り出すだけ」と。

(へ?)と思った。一体、この病院の運営、どうなっているんだ。。。???😡💢😡💢😡💢

そんな中、絶食・絶水をしている私を気にかけてくれて「疲れてきたでしょう。輸液をすれば、口の乾きは改善されると思うわ」と言い、点滴を開始(写真下⬇︎)してくれた。

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点滴も、今回、人生初体験でした。ハルトマン輸液 (Hartmann's Solution) は、英国の外科病棟で、最も使用されているもの。でも、昨年、英国内ではこの輸液が数ヶ月に渡って欠品となり、大混乱となった。英国では、医薬品の欠品が、本当によく起こる

午後2時ごろ、ようやく麻酔医がやってきた。そして、

「今夕の手術ですよね。今まで、全身麻酔による手術を受けたことがありますか?」と質問してきた。

思わず「今夕?!」と聞き返した。「あの。。。私、もう朝一番にここに来て、6時間以上も待っているのに、夕方ってことは、あと数時間は待たされるってことですよね?」と聞いた。麻酔医には、手術室の「時間割」が渡されていたのだ。

「えーっと(手術室の時間割を見ながら)、今、あなたの執刀予定の医師、長時間の手術に関わっていますね。あと2−3時間はかかるでしょう」とのことだった。

気が遠くなりそうだった。夕方からの手術であれば、何も朝一番で、ここに来る必要はなかったじゃない。。。ってね。

 

暇を持て余し「クイーン」の曲を繰り返し聴いていた。

「Who Wants to Live Forever」「It's a Hard Life」「We are the Champions」「The Miracle」など、明らかに、その時の自分の心情を反映しているような曲ばかりを聞いていたが;

私は、英国を代表するロックバンド「クイーン」の大ファンです。その筋金入りぶりは、過去のこちらのエントリ(⬇︎)もどうぞ

グレイテスト・ヒッツ

グレイテスト・ヒッツ

  • アーティスト:クイーン
  • 発売日: 2011/01/12
  • メディア: CD
 

 

「Don't Stop Me Now」の曲のリズムに合わせて上半身を揺すっていたその時、今までにない「激痛」が襲った。

「痛たたタタタタタタタタ タタタタ タタタタ タタタタ タタタタ  ーーーーーーーーッツ!!!!」

あまりの痛さに、涙がボロボロ出てきて止まらない。

そしてそれを境に、私は、文字通り、首を動かせなくなってしまったのだ。同時に、手足にも痺れが出始めたようであった。

恐らく、嚢腫があまりに肥大化し、患部周辺の神経を圧迫していたのであろう。

 

見ていられず、パートナーが、ナースステーションへ走っていった。

「今日の2番目の手術と言われていたのに、6時間以上、何の進展もなく待っている状態だ。執刀医はおろか、昨日診断をした医師ですら一度も診に来ず、誰からも一切説明が無い。どういうことですか? この一時間で、病状は明らかに悪化している。今すぐ手術室へ運ぶべきだ。さもなければ、執刀予定医をここに来させ、それができない理由を聞きたい」と。

私のパートナーは、ロンドンで生まれ育ったため、この国の「表も裏も」十分すぎるほど熟知している。だから、感情を荒立てず、でも、自分の要求を的確に伝える術に長けている。しかも、自身も国営医療サービス (NHS) で働いていることから、聞く人が聞けば「あ、この人、医療従事者だな」と分かる口調で。これほどまでに、相方の存在が有り難かったことはない。私一人だったら、ナースコールのボタン(写真下⬇︎)を押すのですら、もはや不可能な状態だったからね。

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ベッドサイドの備品いろいろ。左端の白地にオレンジ色のナースの絵柄がついているものがナースコールでしたが、激痛のパニック状態で、もはや自力で押すのは無理でした

パートナーの静かなる、でも脅迫に近い訴えが通じ、ものの15分もしないうちに、3人の外科医が手術室からやってきて、物々しく、私を囲んだ。

まるで「東方の3博士」の登場といったところだった。 

で、後に執刀医となった外科医が、患部をちょっと触っただけで瞬時に「こりゃだめだな。全身麻酔だ。何でこれまで、放っておいたんだ!」と言い放ったことだけ覚えている。

え? 放っておいたのは、あなた方でしょう?? それに、あわよくば(端折って)局所麻酔でやろうとしていたの??? 今まで6時間以上待たされて、当の患者本人には、一言も説明がなかったな。何なの、このインフォームドコンセントの悪さ。。。が、正直な気持ちだった。

 

この一連の件については、後で色々と考えた。当日「より緊急で重症な」患者さんに、手術室が(割り込む形で)優先使用されることは、十分理解できる。でも、どうやら、病院内での外科医同士の序列による手術室の取り合いが無きにしも非ず、といった感が歪めなかった。それから、私が勤務する典型的な大学教育病院のような場所では、外科部長の監督の元、手術を研修医が訓練目的で行うこともあり、「待てる手術」は、忙しい彼らのスケジュールに合わされることもある。そして、今回の私のケースでは(もしかしたら)局所麻酔でもできるんじゃない? という境界であったため、外科セクション間での押し付け合いもあったようで、どんどん後回しにされていったよう。

でも残念ながら、私の病状は、長時間待たされている間に、明らかに悪化してしまったのだ。

 

午後3時頃、まだ手術室へ行けず、痛みにのたうちまわる私に、タミーさんが、麻薬性鎮痛薬であるモルヒネ経口液を持ってきた。

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モルヒネ経口液。正確な量を計量・投与するため、この写真にあるような紫色のシリンジに入れてベッドサイドまで持ってきて、シリンジをそのまま口に入れて服用するようにと言われた。ちなみに英国では、医療事故防止のため、注射液投与のシリンジは透明/白色、経口液投与のシリンジは、この写真にあるような紫色のものを使用するよう全国統一されている

英国内の「紫色の経口液剤投薬シリンジ」については、以前のエントリ(⬇︎)もご参照下さいませ

 そのお陰で、それまでの痛みは嘘だったかのように消失した。でもね、私、それまで一度も、モルヒネを服用したことがなかったのです。だから十分すぎるほど効いたようで、それ以後、意識がふっ飛んでしまったのだ。そしてそれが、術後の副作用の一因にもなったのだった。

 

午後4時頃、急に私のベッド前がカーテン越しにがたがたと騒がしくなり、ぼんやりと目を覚ますと、パートナーが耳元で;

「これから、手術室に向かうぞ」と。

 

看護師さんたちが、私が横たわる簡易ベッドの四方の柵を出際よく上げ、ストレッチャー化した状態で、手術室へと出発した。

 

この後の話は、次回へ続きます。

 

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私を一刻も早く手術台へ運ぼうとしてくれた看護師さんたちの気遣いにより、普段は使用されていない病院内の「裏通路」を通過した。これぞ病院の「舞台裏」。