日英薬剤師日記

イギリスの国営医療(NHS)病院で働く、臨床薬剤師のあれこれ

2020年明けましておめでとうございます

 

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

いつも、日英薬剤師日記にアクセスして下さり、ありがとうございます。

 

去年は、クリスマス前日 (12/24) の朝からボクシングデー (12/26, 英国では祭日)の昼前まで、日夜連続当直の担当になりました。

クリスマスイブの晩、パラセタモール(日本名:アセトアミノフェン)の大量服用で自殺未遂となった患者さんが運ばれてきました。本当に痛ましいですが、英国の急性病院ではよくある状況です。なので、緊急医療室では、国内で第1解毒薬になっているアセチルシステインを、当たり前のように投与したとのことでした。

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アセチルシステイン注射薬。過剰服用した患者さんの血中濃度と、服用後どれだけ時間が経過しているかの情報から、解毒するか否かを見極め、必要な場合は、体重に合わせた用量を計算し、どのように点滴として投与していくかを割り出すのは、英国薬剤師免許試験で定期的に出題されている問題の一つ

でも、その患者さん、アセチルシステインを投与した途端に、なんと、アナフィラキシーショックを起こしてしまったのです。2度死にかけるという、珍しいケースとなりました。

それで、夜中の1時ちょっと前に当直薬剤師である私の元に連絡が入りました。国立肝臓専門センターからの推奨で、英国で第2解毒薬になっているアミノ酸の「メチオニン」を入手してほしいとのことでした。

実はこれ、私自身も、英国薬剤師免許試験の「過去問」に載っていたため、そこで習っただけで、実際には一度も扱ったことのない「治療薬」でした。私の病院でも最後に使用したのが 2011年と記録されており、それが期限切れになって以来、在庫していませんでした。

英国の国営病院間では、医薬品の貸し借りが、頻繁に行われています。そのため、私は、その晩、ロンドン市内の主要病院へ、次々とSOSの電話をすることになりました。

ロンドン中の大学病院のレジデント薬剤師さんや、真夜中に叩き起こされた当直薬剤師さんたちが皆、誠意に対応して下さり、頭が下がる思いでした。でも、この「珍しい薬」、何と、どこの病院にも在庫していなかったのです。。。 皮肉なことに、その推奨がなされた英国国立肝臓専門センターの所在地である大学病院ですら、非在庫であることが判明。おーい、何で、そんな薬が「推奨」されたんだ(泣)

結局その晩は、殆ど眠れませんでした。

 

そして、わずか数時間の睡眠の後;

クリスマスの当日は、かなりの数の退院薬の調剤に追われました。

英国で、クリスマスの日は休日で、国民全体が「家族一緒に集う」大切な日です。だから、どんなに前日まで周到に準備しても、当日に必ず「無理してでも帰りたい人」の退院薬調剤の要請が来ます。

この日は、胃瘻カテーテルからの感染治療で入院していた脳性麻痺の男の子が、やはり両親のたっての願いで退院したいとの連絡が入りました。英国の病院薬局の調剤は、通常はファーマシーテクニシャンが行いますが、クリスマスの日は、当直薬剤師の「完全ワンオペ」業務となります。とても複雑な調剤で、この調剤をしながらも、病院全体からの絶え間ないポケベルに対応しなければならず大変でしたが、病棟へ退院薬を届けに行くと、その子の澄んだ瞳と美しい笑顔に「神」を見る思いがしました。それが、私への何よりのクリスマスギフトになりました。

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私が現在担当している病棟のクリスマスツリー。毎年、各病棟ごとにクリスマスツリーを飾り、コンテストを行なっている。ちなみに、英国ではクリスマスツリーを1月6日に片付ける風習があり、その日でクリスマス/新年休暇の終わりとしている


ボクシングデーには、私もよく知っている(おなじみの)患者さんが入院してきました。メロペネムとニトロフラントイン以外全ての抗生物質に耐性があるてんかん持ちの患者さん。新しいてんかん薬を導入し、既存の薬を徐々に減量中に、運悪く発作を起こし運ばれてきました。尿路性敗血症も併発していたため、全治療薬の最適化という、臨床薬剤師としての腕が試されました。

 

これ以外にもたくさんのドラマがありました。そんなこんなでクタクタになった当直業務の後も、大晦日の夕方まで、ぶっ続けで働きました。

 

で、2020年の幕開けとなりました。

 

去年の自身のブログを見返し、今年も「目標公開」をやってみようと思います。ブログの過去のログは、こういった時に、便利ですね。

去年2019年のものにご興味のある方は、こちら(⬇︎)からどうぞ


 今年の目標は;

Step-up (飛躍) と、Speciality (専門) をキーワードの年にしたいと思います。

 

まず、Step-up (飛躍) ですが;

去年は「一般内科」にどっぶりと浸かった年になりました。同僚の産休・育児休暇の代理という理由からでしたが、臨床薬剤師として、またとない修行の機会となりました。

さらに去年の9月から12月にかけては、入院(トリアージ)病棟担当の同僚薬剤師が急に退職してしまったこともあり、その役職も兼任しました。

そのため、この分野での臨床薬剤師としての経験は、これ以上望めないほど網羅できたのではないかと思っています。

英国の大学病院で臨床薬剤師となり約6年、新卒・ジュニア薬剤師からのありとあらゆる臨床の質問を受け、それにアドバイスする立場になってきました。

引き続き、ジェネラリスト臨床薬剤師としての知識や技術を体系的なものにしつつ、今年は、より現場でのリーダーシップが取れるような年にしていきたいです。

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私は2009年頃から、英国王立薬学協会が発行する学術誌 The Pharmaceutical Journal の中で、自分にとって有用と思われる卒後教育記事を切り抜いて、一つの大きなファイルにまとめている。これらを、今年、全て読み返そうと思っています

 

それから、Speciality(専門)ですが;

自分の専門の「感染症」の分野を「極」めてみたいです。

現在、とても有能で素晴らしい上司と働いているので恵まれていますが「もし、彼女がいなくなったら、後継者に相応しいレベルになっているか?」と問われると、首をかしげる自分がいます。そのため今年は「感染症」の分野を、今までにないほど掘り下げてみたいです。

それと同時に、自分の興味のある分野をもう一つ持つのも良いかな、とも思っています。

英国で、感染症を専攻した臨床薬剤師は、大別して3つの昇格ルートとなることが、最近分かってきました;

1つ目は、そのまま、感染症分野を極め、主任薬剤師となる。これは、病院全体の医療政策に携わる、正真正銘の専門薬剤師

2つ目は、集中治療 (ICU: Intensive Care Unit) の分野へ移る。独立型の「狭義・超職人的な」臨床薬剤師業

3つ目は、入院(トライアージ)病棟や、内科もしくは外科病棟の主任薬剤師。自ら臨床薬剤師として先率して働きながら、後輩薬剤師たちの現場指導も行っていく「広義的・チーム型」な仕事。人材管理能力が必要。

 

これ以外にも、昇進の例はたくさんありますが、少なくても、この3つの中で、どれが最も自分に向いているのか、今年、見極めていきたいと思っています。

そのため、職場内の「集中治療室」の実務体験とかも、希望する予定です。この分野では、麻酔学や、栄養学、薬剤使用も今までとは全く異なったアプローチを学ばなければならないので、新しい挑戦になると思います。

英国の病院薬局では、いつ何時、誰が退職しても困らないように、皆で最低限の業務をこなせるよう、希望者には各自のレベルに合わせて、数週間、本来の職務を免除し、他の部門で新しい知識や技術を習得できるような時間をくれます。やる気のある人には、どんどん、こういった機会を与えてくれるので、ありがたいです。

 

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今年は、集中治療室 (ICU) の実務体験とかもしてみたいです

 

なーんて(意欲的なことを)言いながら、実は私、年の初っ端から、つまずいてしまいました。今年1月末からの、英国王立薬学協会主催の「抗生物質適正使用」の6ヶ月の研修コースに申し込んでいたものの、自身の手違いで、今季は入学できませんとの知らせを受けたのです(うわーーーーん。号泣)。

こういったドジっぷりを、繰り返さないようにする年にしたいと、目下、猛省しています。。。。

 

そんな訳で、今年もこのブログを、私の職業的成長と日常の実況中継、そして、どこにも書かれていないような英国の薬剤師・薬局事情をお伝えできる媒体にしていきたいです。

 

それでは、今年も、宜しくお願い申し上げます。

 

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クリスマス期間ずっと働いたため、今年は、元旦から5日間ほど代休が与えられました。その間、こちら(⬆︎)の本を読んでいました。英国医師免許を持つユダヤ系コメディアン、アダム・ケイが、自身の研修医時代、5年間連続クリスマスの時期に緊急医療室で働いた時の経験を元に書かれた本。私の現在の職業生活とかなり相通じるものがあり、コミカルな描写の中にも身につまされるものがありました

  

では、また。